俺の欲しかった物
〜はじめに〜
こういうタイプの小説をかくのは初めてです。慣れてません。たまにはこういう小説も書いてみたくなったので。
お前は今日も俺の隣で寝ている。もう、それは毎日のことだった。二年前から俺達は一緒に住んでいる。だが、結婚はしていない。自然な成り行きでこうなった。俺は隣で眠る女に目を向ける。人形みたいな女だ。端正な顔立ちをしてはいるが、生きていないみたいだ。俺は女の寝顔を改めてじっと見つめた。女の白い肌は月明かりに照らされてさらに白く見える。大きな目に覆い被さるまぶたについているまつ毛は長く、長いつやのある漆黒の髪の毛はストレートでサラサラしている。女は俺の隣で静かに呼吸をしている。俺はこの女が呼吸をしなくなったら、人形になるだろう。と、思った。俺は女を殺したくなった。これは、別に初めてのことではなかった。もう、女と出会ってから毎日のことだった。一緒に住む前からずっと…。
『ああ…。殺したい。』
たぶん、法などなければとっくにこの女は俺のものだっただろう。その人形のように端正な顔立ちが苦痛で歪むのがみたい。しかし、また、殺してしまえば生きている女の表情も見れなくなってしまうのだ。例えば、俺はセックスは基本好きではないが、この女とセックスする時は別だ。というより、この女としかしたことがない。普段女は全く自分の感情を顔に出さない。俺と話す時も他人と話すときも。映画を見る時も。何をする時も。だか、この女はセックスとなると表情が出る。女は自分のことを知られるのを異常に嫌がる。体や心も。だから、俺の前に自分の体をさらけだすとき、女は羞恥で顔が真っ赤なりんごみたいに赤くなる。俺が女の体に触れるときも女は必ず自分の目を隠してしまう。俺はその手を無理やりはずす。女の表情や心境が知りたくてセックスしてるのに、目を隠されちゃあ、意味がない。
もっと見せてよ。俺に。
俺は何度も女の歪む顔を見るために、女とセックスするたびに隠しカメラを女にばれないように仕掛ける。それを俺は女のいないときにゆっくりと何時間もかけて鑑賞する。全く飽きない。もっと俺の前で気絶してよ。啼いてよ。
俺自身、カメラを見て気がついたのだが、セックス中の俺の顔は人形みたいに表情が無かった。俺はお前より心を知られたくないようだ。
殺すのがおしい。
だけど、殺したい。
俺は毎日、毎日この人形のような女を殺してやろうと計画していた。どんなシチュエーションが一番いいかな?毎日、“今日こそは…。”と考えていたが、俺の良心が毎日俺の女に対する殺人欲をとめる。
「…………。」
殺したい。俺の……。
俺は無意識に俺の隣で眠る女の白くて細い首に手を掛けた。
「……………。」
『よし……』
俺は深呼吸をする。ついにこのときがきた。もう、良心に邪魔されたくない。ふう…。さあ、俺の目の前で…………。
『俺の人形になれ!!!』グッ…
俺は女の首にかける手に力をいれた。
『そうさ…。“死ぬ”のではなく人形になるんだ。』「…………。」
「……んっ…。」
女の顔が歪んだ。苦しそうだ。
「……。」
俺はその女の顔をみた瞬間、手にいれていた力をゆるめてしまった。
「……。」
女は起きなかった。また、さっきの静かな呼吸を始めた。
『だめか…。』
俺の良心が俺の欲望を制した。良心か……。俺の良心はどうやらこの女を殺したくないようだった。しかし、その反面俺の女への殺人欲は俺の良心に制されたのにも関わらず今もまだ俺の中で黒く渦を巻いていた。
もう俺の中の殺人欲はいつでもこの女を殺す準備は整っていた。俺の中の良心も俺の中の殺人欲を制することに疲れを感じているようだった。
『殺したい。殺したい。人形にしたい。俺のものにしたい。動かなくしたい。啼かしたい。拒んでほしい。動かなくなったお前をいたぶりたい。俺に見せてほしい。』
俺はほとんど殺人欲に支配されていた。それを俺の良心がとめる。もう、サイクルの繰り返しだった。しかし、そのサイクルももうすぐ終わる。俺は自分でそう感じていた。
俺は女の唇に自分の唇を重ねた。もう、良心の俺がこうしてお前にキスすることはないかもしれない。
ピピピピ…!!!
俺の頭のほうでうるさい目覚ましが鳴っている。
「………。」
カチッ
俺は無言で目覚ましをとめる。時刻は朝の5時。どうやら俺はあの後普通に寝たらしい。隣を見るとお前はまだ寝ていた。
「ふう……。」
俺はベッドから起き上がって洗面所へ向かう。そして洗面所に取り付けられている自分の顔を見る。そこには何の感情ももっていなさそうな無表情の一人の人形のような顔立ちをした青年が映っていた。
「………。」
俺も俺でお前と一緒なのだ。俺は顔を洗った後、歯をみがいてキッチンへと向かう。朝食の準備だ。あまり器用ではないお前のために俺が毎日朝食をつくる。器用な俺はとくに料理をするのは全く苦にならない。いつも通り手際よく朝食を作る。俺が朝食を作り終えるころにはお前も洗顔と歯磨きを済ませてやってくる。「おはよう。」
後ろから抑揚のない静かな声がした。
「ああ…。おはよう。」
俺も言葉を返す。
「今日も美味しそう…。いただきます。」
お前は毎日俺が作った朝食を食べるときは決まってそう言う。お前はサラダに手をつけ始めた。
「………。」
『壊したい。』
シャリシャリ…
『血まみれにしてみたい。』
シャリシャリ…
『犯したい。』
シャリシャリ…
『お前の中が見たい。』
シャリシャリ…
『縛りつけたい。』
シャリシャリ…
『殺したい。』
カタン…
ここでお前は野菜をとっていたフォークの手をとめた。
「………どうしたの?」
「ん?」
お前が黒い大きな目で俺を見つめている。
「どうした?」
「さっきから私の顔に何かついてる?」
「……いや………。」
どうやら俺は知らぬまにお前を凝視していたらしい。「?変なの。」
お前はそう言うと、フォークを再び動かし始めた。俺はお前を見れば見るほどお前を殺したくなる。
俺がお前を愛してしまったその日から。
朝、今日はお前は大学に行ってていない。俺は午後からだから今日もたっぷりお前を鑑賞しようとおもう。もし俺が隠しカメラや殺人計画をたてていることを知ったらお前はどう思うだろうか。この家を飛び出すだろうか。俺にビンタをくらわせるか。逃げないか。おそらくお前は何もしない。そのままお前は俺に殺されるだろう。俺は隠しカメラの録画映像を見ながらそんなことを考えてほくそ笑んでいた。
『楽しみだ。』
もはや良心は消えていた。「……………。」
「今日は満月だね。月が綺麗だよ。」
月を見ながらお前は言う。「ああ。」
俺は一言。満月か…。今の俺にはそんなことよりも他のことでいっぱいだった。「一言か…。“ああ”って……。満月なのに。」
そんなことを言っているものの、お前の顔こそ満月のことなどどうでもよさそうだった。そのまま俺たちはベランダからリビングに戻り、寝室にあるベッドに横になる。
深夜の2時。隠しカメラの準備は万全だ。お前は既に眠たそうだ。当の俺は全く眠くない。さっきから目が冴えていてとても寝る気分になれない。
「…………。」
俺は隣でうとうとしているお前に顔を向ける。
「?」
俺の視線に気がついたお前は俺に少し不思議そうな目を向ける。
「…………ねえ、なんか今日いつも以上に変だよ。」「そう?」
俺は内心ちょっと驚いていた。俺は自分がこれからしようとしていることを悟られたのだと思ってしまった。
「うん。なんかいつも以上に雰囲気が異常。」
「ふーん……。」
「…………。」
「…………。」
それから暫くの間沈黙が続いた。
「………。」
いきなりお前が俺にしがみついてきた。
「…………どうした?」
「なんかね、怖い。」
「何が?」
「昨日ね……私、自分が死ぬ夢見た。」
「ふーん……。どんな風に?」
「よく思い出せないけど………。黒くて…殺されちゃった。でもね、不思議と抵抗する気持ちにならなかったの。」
「ふーん……。」
その黒いのは俺だよ。俺は心の中でそう答えた。
「………。」
俺は無言でお前に覆い被さった。
「…?どうしたの?」
俺はお前の顔を真正面からしっかりと見据えた。
「お前を殺したい。」
「………え…?」
「お前を殺したい。」
俺は真剣な表情でお前にそう言った。
「………本気?」
お前の目には動揺が浮かんでいる。
「ああ。もちろん。」
お前だって知っているだろう?俺は冗談は言わない。「………。」
俺はお前を凝視する。
お前の目に動揺から怯え、恐怖の色が漆黒くの大きな目に映った。
「…………どうして?」
それでも相変わらず口調の変化は無い。
「どうしてだと思う?」
「……………。」
俺はお前の耳元に口を近づけてはっきり言った。
「動かなくしたい。拒んでほしい。啼かしたい。人形にしたい。動かなくなったお前をいたぶりたい。壊したい。血まみれにしたい。犯したい。縛りつけたい。殺したい。お前の中身がみたい。俺に見せてほしい。」
俺は言い切った。
初めて俺は自分の頭の中に“変態”の二文字が出てきた。が、それもすぐに消えた。
『もっともっと………。』お前は俺の予想通り何もしなかった。ただ、俺を見ていた目を横に向けてしまった。
「……………。」
俺は無言でお前の衣服をとりにかかった。
お前は少し抵抗している。「ね……え…。さっきから……どうしたの?」
「さっき言った通りだ。」俺はお前の衣服を裂き続ける。もはや欲望に支配されていた。
「本当に私を殺したいの?」
「ああ。もちろん。」
俺はお前の衣服をすべてとったあと、自分のズボンのポケットに朝から入れてお
いた果物ナイフを取り出した。お前はそれを見ると、どうやら俺のさっきの言葉が本当の本当であることがわかったようだ。表情は変わらないものの、体がガクガク震えはじめた。
俺は今、お前に恐怖を味あわせている。
俺は果物ナイフをお前の白い華奢な手首のうえにそえた。お前はそんな俺の行動に、さらに体が震えている。
「お前、痛いの苦手だったもんな………。」
俺はそんなことを言いながら、果物ナイフをあまり力を入れずに横にずらした。「っ……………。」
お前の端正な顔が少し歪んだ。白い手首からはうっすらと血が浮き出てきた。俺はそれを丁寧に舐めとる。「……………。」
普通の女ならもう、ここまできて殺人予告だってされているのだから必死の抵抗を試みるだろう。しかし、お前にはそれがない。もともと“生”にあまり執着してないのかもしれない。 『ここまできて抵抗なしか…。お前は俺のこと、大好きらしい。』
しかし、恐怖を感じていることは確かだった。体の震えがとまらない。
俺は果物ナイフをまたお前の手首にそえると、今度はもっと強く横にずらしてみた。
ズズズズズ…
「痛い!!」
お前が俺の前で初めて大きな声を挙げた。手首からはさっきの倍は血があふれでてきた。
「痛い?」
俺はそんな当たり前の質問をしながらそのお前の手首をつたっている真っ赤な血を眺めた。そして、舐める。それからというものの、俺はこの動作を10回は繰り返した。すぐに死んでもらっては困るので死なない程度に。俺はお前の苦痛に歪む表情を目の前で何度も味わった。ほとんど拷問にちかいことをしているうちにお前の呼吸はだんだん虫みたいになってきた。
「い………た…………い」お前の身体は既に血でいっぱいになっていた。
『薔薇みたいだ…。』
そんな状態でお前を犯す俺は周りから見たら、どうなのだろうか。異常か?
しかし、別に俺は自分のことを異常だとは思わない。
俺はただ、お前が欲しいだけ。もはや“愛”というより、物欲にも似た欲望。 「…………。」
もはやお前は喘いでくれないようだ。俺はお前の大きな黒い目と俺の目があった。その真っ黒な漆黒の真珠のようなお前の目は俺を映し出していた。俺はそんなお前を見つめ続けた。
「さ……よな……」
お前は言葉を最後まで言い切らずにゆっくりと目を閉じた。
お前は死んだ。
俺は俺の見たかったものは全て見た。お前の拒んだ表情、啼いた表情、いたぶったときの表情、犯したときの表情、血まみれの姿、俺を受け入れたときの表情。そしてこれから俺は俺がお前の中の一番見たかったものがついに見れる。これは開いてみないとわからない。俺が何よりも見たかったもの……。表情をつくるとされる“もと”であると俺が考える“心”である。
「フフ……」
俺は俺が持っているなかで一番切れ味の良い包丁をお前の胸におしあてた。そして、丁寧に切り開いていく。
「……………。」
『さて……お前のそれは……。」
「………………………。」ズズズズズズー
「……?ん?」
俺は少し焦った。
『どこにも……ない。』
お前の“それ”はどこにもない!!!
再び俺はお前の中をじっくり探す。
「…………ない……。」
俺はその事実にぶちのめされた。ショックで体が動かない。俺は暫く放心してしまった。
『それじゃあ、今までお前からの俺への“愛”はあったのか…?どこにいった?』
「う………うううう…。」俺は泣いた。
もう、なんで自分が泣いているのかもわからない。
俺は泣きながら目の前にいるもはや“死体”となったお前を見た。
無表情だ。人形のようだった。お前は人形のように心を持っていなかった。
俺はお前のその表情のない顔に手を伸ばす。そして俺は俺の手がお前の顔に触れた時に気がついた。
俺はお前の笑顔を見たことが無いということに。