クリアライフ4―――傷―――
注意
残酷描写ありにはしていませんが人が殺される描写があります。
苦手な人はご注意ください。
また、問題があると思われたかたは私にメッセージを下さい。残酷描写ありの注意書きをつけ加えさせていただきます。
電車がいつも通りの時間に来ていつも通りの時間に去っていくのは必然だろう。しかし、偶然なんだかのアクシデントで遅れる事がある。偶然が必然に干渉したのだ。
そう考えると偶然と必然はコインの裏表のような存在では無いのかもしれない。例えるならそう、帯状の長方形の片側を百八十度ひねり他方とくっつけた図形、メビウスの帯のようなものかも知れない。
表をなぞっていたはずがいつのまにか裏になっているメビウスの帯。
表を必然、裏を偶然とすると必然の先に偶然がありその先に必然があるという事になる。
つまりは自分が偶然だと思っていたことは必然なのかもしれないし逆もまた同じ。必然は偶然なのかもしれない。
例えばそう、今生きているのは必然だと思っているが実は偶然今まで事故にあっていなかっただけかもしれない。
逆に彼女と出会えたのは偶然ではなく必然だったのかもしれない。
何者かの手によって操られた人形のように僕も操られているのかもしれないのだから。
ピピピという電子音が耳に届く。
僕は音の発生源である目覚まし時計を手探りで探しだしスイッチを切る。布団から出した手が10月中旬の冷気にあたる。直ぐに布団の中に逃げる。
この時間はしあわせだ。外は寒いが中は温かい。
だが、しあわせはそう長く続かなかった。
「シュウイチ!!遅刻するわよ!!」
僕の名前、冨本秀一を呼びガバッと布団を剥がされる。同時にブルッと身震いをした。
閉じ続けようとするまぶたを無理矢理開けて布団をはがした犯人、僕を好きだと言ってくれたいつもの白の生地に赤や黄色の線が綺麗に描かれている服を着る少女、ミント=クリア=ライトを見る。
「ほらっ、起きて。遅刻するよ」
「分かったよ―――ん?」
返事をして立ち上がろうとしたその時トーストの匂いがしているのに気づく。
「あっ、今日はミントがご飯作ってみたんだ〜」
「そうなんだ……じゃっ、楽しみにしなくちゃな」
僕は制服を掴み洗面所に向かい、パジャマがわりにきているジャージから制服に着替えてから、テーブルに向かった。
そこには、トーストとコーヒーが置かれていた。
正直いうと美味しくできているのかという一抹の不安はかかえていたがこのふたつなら失敗しょうがない。ほっ、としている。
「いただきます」
一声かけてトーストをかじる。バターの味とともに口内にしみる。
「うん、美味しいよ」
「やった、じゃ、こっちは?」
ミントはスクランブルエッグを持ってくる。
「う、うん。―――美味しいよ」
しばらく咀嚼した後感想を言う。本音をいえば少し、しょっぱかかった。
「じゃぁ、これは?」
と、続いてトマトやハム等がはさんであるサンドイッチだった。しかも大量。
「お、おぅ……」
正直苦しくなってきた。が、ミントの笑顔をみると……断れない。
「じゃっ、じゃっ、これは?」
嬉々と新たに持ってこようとするミント。
「す、ストップ!!」
たまらずストップをかける。これ以上は……無理だ……
「えっ?あっ……美味しくなかった?」
一瞬きょとんとした顔をした後しょんぼりと肩を落とす。
「ち、違うよ!!美味しかったは美味しかった!!ただ、その……そろそろ行かなくちゃダメだらさ」
精一杯の作り笑いを浮かべて、時計を確認する素振りをみせる。
「えっ?でも、まだいつも行ってる時間じゃないよね?」
「あ、あぁ。今日日直ってやつでな。少し早めに出なきゃならないんだよ」
嘘をいってミントの顔を見ないように鞄を持ち逃げるように家を飛び出す。
「じゃっ、いってきます」
「いってらっしゃい」
なんだか呆然としたような感じでミントが返してくれた。
正直嘘をつきたくはなかったがこのままでは学校に行く前に食べ過ぎでお腹が痛くなりそうなのだから仕方がない。
「ふぅ〜」
少し苦しいお腹をかかえて学校にむかう。
「にしても……急にどうしたんだ、ミントのやつ?」
急にあんな行動をとったのに少し恐怖を覚えた。
なんか……変な事やらかした?いや……あの本はミントに命じられて捨てたし。新たに買ってないし……何に対してか分からないが謝った方がいいのか?
「謝ってすむと思うなよ!!」
「えっ!?」
急な怒鳴り声を聞き僕の事を言ってるのかと慌てて周りを見渡すがどうやら、僕に対しての怒鳴り声ではないようだ。
「そんな、すみません……」
「あぁ?」
声をたどってみると路地に一人の女性とチンピラ風の男がいた。
「謝ってすむか。ちょうどいい、ちょっと来てくれるか?姉ちゃん」
「きゃっ!?止めてください」 男が女性の手を無理矢理引っ張る。
「いいから、ちょっと、こ―――」
「止めろ!!」
僕は気づくと男の声を遮り飛び出してた。最近事件に巻き込まれることが多いためなんだか体が勝手に動く。
「あんだ?坊主は引っ込んどけ!!」
ビクッと体が震える。正直怖いし、体を締め付ける重りの様なものもある……でも!!
「嫌がってるじゃないですか!!」
「黙れガキ!!」
チンピラは僕のお腹めがけてパンチを繰り出そうとしてきた。でも、いつもミント達とやってる修行での魔法の速さに比べたら……遅い!!
「なっ!?」
バックステップで間合いの外に出た僕を見て空振りをした拳をみながら呟く男。
「ちっ、くそガキが!!」
男は怒鳴り懐の手を入れたかと思うとナイフを取り出した。
「オラァ!!」
「なっ……」
「きゃっ!?」
男はナイフを僕に向けて振り上げた。
「えっ!?うわっ!!」
恐怖とその光景から判断が鈍り肩に傷を負う。そこから血液が流れ出す。
「ふん!!次はお前だ!!」
「きゃぁ!!」
僕をいちべつしてから女性に向けてナイフを振り落とす。
「くっ!!」
痛む肩にムチをうって動かし女性の手をひく。その時急にふわっと体が軽くなるような感じがした。
「ちっ」
舌打ちをしてこちらをみてさらに、ナイフを振るってくる。だが、今なら!!
「やぁーーー!!」
ナイフをよける。そこまではまるで羽のように軽くなった自分の体のおかげてスピードがます。そしてナイフをよけたところで男の腹に向けて拳を作りパンチをくりだす瞬間拳に通常の二倍ぐらいの重力がかかり男の腹にめり込んだ。
「ぐふっ!!―――がはっ、がはっ」
少し後退してうずくまる男。
「がはっ、ぐっ……!!覚えとけよ!!」
男はそういい何処かに立ち去った。
「……っつ」
肩をおさえる僕。やはり……痛い。
「あ、あの!!ありがとうございます」
女性は僕に向かい頭をさげる。
「いえ。怪我とか、してませんか?」
「私は大丈夫です。貴方は大丈夫ですか?」
「えぇ。かすり傷です。それより、どうしたんですか?」
「えっと……あの人と出会い私の頭とあの人の胸とがぶつかって……それで」
「なるほど」
あたりやか……最近は物騒だな。
「気を付けて下さいね。それじゃぁ、僕も学校があるんで」
「あっ……、そうですか。本当にありがとうございました」
女性は最後にまた頭をさげるのを見て僕は「気にしないで下さい」といって本来の登校する道に戻った。
「……ありがとな、夜美」
「うん、どういたしまして」
女性の姿が完全に見えなくなってから声をかけると物陰から星野夜美が出てくる。「秀一君から伝言鳩魔法が来たと思ったら男の人が女の人を怒鳴ってる姿が再生されてるのを見てビックリしたよ」
「悪いな……でも夜美なら僕の意図に気づいてくれると思ってさ」
「まあね。秀一君の事だからあの女の人を助けるだろうからそこから考えてわたしが分からないように魔法でサポートする、でしょ?」
「正解。流石だな」
「ありがと、秀一君」
夜美は笑顔で言う。伝言鳩魔法は僕が飛び込む寸前に飛ばしていた。
「で、さっきやってくれたのって星の召喚、星座天秤座か?」
「うん、一番分かりにくいサポートはこれかなって」
「助かったよ―――っつ」
天秤座の姿が見えないなからもう魔法削除したのかなと思っていたら痛みがまた襲ってくる。
「あっ、秀一君血でてるの!!えっと……えっと」
必死に自分の鞄の中を探る夜美。たぶん絆創膏とかがないか探しているのだろう。
「大丈夫。自分で癒せれるから―――自然よ我に力を貸したまえ。我の掌に力を集めよ。傷は癒え痛みは忘却しろ。草木の恵み」
僕は魔法定義を唱えると傷はどんとん癒える。
光以外の性質系魔法も完璧ではないがだいぶ使いこなせるようになっていた。
「すごいね……流石は神から授かりし光かな」
「そうだな」
少し苦笑をもらしながら答える。
僕に宿った能力神から授かりし光。この能力のせいで堕天使に追われている。が、これを苦に思うことは無い。この能力があったからこそ夜美と出会えた。確かに単なる偶然に過ぎないが夜美と出会えたのはミントのおかげでもある。ミントに偶然あって魔法を教えてもらえてなかったらきっと夜美に出会えなかっただろう。偶然のドミノ倒しだ。
「さて、と。そろそろ行くか……って、えっ!?」
僕は腕時計を見て驚く。
「どうしたの?」
「やばい、遅刻するかも!!急ぐぞ!!」
「うん!!」
僕は夜美の手をとって学校に急いだ。
今思えば、人体転移魔法で学校の屋上にでも行けばあんなに疲れる事は無かったし朝食の食べ過ぎすぎの後にあんな激しい運動をしなくてすんだ。この事は校門をギリギリのところで潜り抜けた時に思いついた。
「星野といちゃついてたのかな、冨本君?」
「馬鹿。違うよ」
昼休み、悪友の石田湊人と福田海斗と購買のパンをかじっていたら石田が今朝の事をからかってくる。
「いいって、いいって、なあ、福田」
「そうだぜ。あ〜あ、俺達も速くリア充になりたいものだな」
「だな〜」
「だからな……はぁ」
僕はため息をついて最後の一欠片のメロンパンを口にほりこんだ。
夜美は「ミントさんに呼ばれたからちょっと行ってくるね」といって屋上に向かった。多分ミントになんだかの合図をして強制転移魔法でもするのだろう。それにしてもミントの奴、夜美になんの用だ?変な事を吹き込まなければいいのだが……
「ま、冗談はさておきお前は文化祭のラジオ星野とくむのか?俺と石田と冨本で組めれたら最高なんだけどな」
急に真面目な顔になって話す福田。確かにそれも楽しそうなのだが。
「あ〜、でも、2人1組でパーソナリティーだろ?となるとやっぱ誰か1人は抜けなくちゃいけないし、それに、よ……星野も僕ぐらいしか組める人いなさそうじゃない?ほら、まだ完全にみんなと馴染めてるわけじゃないしさ」
「かもな……で、『よ』の後の微妙な間はなんだ?俺には『み』と続きそうな感じがしたけども?」
にやにやとうすい笑いをしながら石田が問う。ホントにこいつらは……
「『余計な事かも』と言おうとおもったけどまっ、いっかと思いなおしたんだよ」
苦し紛れの言い訳を言う。
「ふ〜ん、まっ、そういうことにしとこうかな、冨本君?」
「はぁ、そうしといてくれ」 僕はため息をつきながら机につっぷす。
夜美の事は普段クラスメイトと話す時は星野と呼んでいる。ちょっとした恥ずかしさもあるし、他のクラスメイトも星野、もしくは星野さんと呼んでいるからだ。
一度夜美にどうして僕に夜美と呼べと言ったのかを尋ねたことがある。その答えは星野と呼ばれると、お姉さんである、彩愛さんを思い出すかららしい。しかし、今となっては別に星野と呼んでもかまわない気がする。夜美は過去に勝ったのだから。でも、だからと言って今さら夜美の事を星野と呼ぶのも何処か変な気がするので僕と夜美、そしてミントといるときは夜美、それ以外の人がいる時は星野と呼んでいる。まっ、夜美だけでとおしたいんだけど周りの、とくに悪友二人がうるさいからしかたがない。
僕がそう結論づけてパンと一緒に買ったパックのジュースを一気に飲み干した。
……ふ〜ん。こうやって2人の連携プレイを見せてくれるんだ〜。あれはまだ本気じゃないと思うけど……ふふっ、あたし、楽しみになってきちゃったな。それに神から授かりし光の秀一君だったっけ?あのこの闇もみつけたもんね。ちょっと確認にしとこっかな。
「禁術・死者の生誕」
はぁ、ちょっと疲れるな、やっぱり。っと、これでいいね。ふふっ、速く殺人許可でないかな〜。
午後の授業も終わりショートホームルームで担任の対して中身のない話を聞き夜美と共に外にでた。夜美と共に―――
「―――で、なんでお前らもいるの?」
「ん〜?たまにはいいじゃないか?」
「たくっ」
僕は悪友2人をジト目で睨む。これは、正直困る。これではミントの元に行けない。魔法の事をこいつらに教えるわけには行かないし……ましては堕天使との戦いに捲き込むわけにはいかない。
「で、お前らどこに向かうわけ?」
「えっと……」
僕は夜美の方をうかがうが夜美は苦笑いを浮かべているだけでどうしようもない。
「と、とりあえず今日はデパートの方よろうと思って……な、星野」
「う、うん。そうなの」
口からでまかせを言う。
「ふ〜ん、駅前の方に向かうのか。なら、今日はそこで遊ぼうぜ」
と、石田。僕達が用があるのは駅前でなくて駅裏です、と言えるわけはなく諦めて先を歩く石田達の後を追う。
「秀一君……どうしよう?」
夜美が僕のとなりにきてたずねる。
「あ〜、仕方ないんじゃないかな。ミントにもさっき伝えたし……諦めよ」
「あ、はは。そう、だね」
夜美も諦めたようで乾いた笑いをした。
「さて、と。せっかく駅前に行くんだから……なにか買おっか―――」
僕は途中で言葉をきり、ある場所をみつめる。
「どうしたの?秀一君?」
「あっ、いや。なんでもない。知り合いに似たような人がいたから……多分み間違い」
「ふ〜ん」
再度さっきの場所を見るがもうさっき見ていた人はいなかった。多分……いや、絶対見間違いに決まっている。
「なにしてんだよ、行くぞ」
「分かってるって!!」
福田が後ろをふりかえり僕らをよんだのでその後ろを追いかけた。
「クソ〜、全然ダメだった」
石田が嘆く。石田は先ほどよったゲームセンターでコインゲームのhigh&lowのゲームでだいぶすったようだ。
「石田は弱い癖にこういうのすきたな……それにひきかえ星野は強かったな、こういうの強いのか?」「う、ううん。初めてやったからわかんないよ」
福田にふられて慌てて否定の言葉を述べる夜美。夜美は福田から貰った、たった30枚のメダルを石田と同じゲームで150枚以上に増やしていた。僕もそれにはとても驚いた。大きくかける時はかけて、といった心の強さが見えた。これはもしかしたら堕天使の時に身につけたものの1つかもしれない。なんにしても夜美はギャンブラーの素質をもっているかもしれない。それにひきかえ石田はカモの素質があるのだと思う。
「行けるときは倍ぐらいになれるんだけどな」
「それって、まさしくギャンブルで損する奴の言い訳だぞ」
僕は苦笑をしながら石田をたしなめる。
「分かってるよ……うん?」
突如訝しげな声をあげる石田。
「どうした?」
「あれ、なんだ?」
石田がゆびさした先には大量の鳥の群れのようなものが見える。だが、その飛び方というのがどこかおかしい。まるでなにかを探しているかのようにぐるぐると空を旋回している。
『あっ、み〜つけた』
「えっ?」
急に夜美のものでもない女の子の声が聞こえる……いや、聞こえると言うよりは頭の中に直接話しかけてるような……その証拠に夜美達は鳥達をまだ見ている。これは……心に渡す声!?
『ふふっ、そ〜れ!!禁術・精神乗っ取り』
そんな声が響いた事思うと空に浮かんでいた鳥達が急下降してくる。
「なっ?」「はっ?」
石田と福田が真っ先に驚嘆の声をあげる。無理もない。
「これって……」
「これが……精神乗っ取り……?」
夜美もなにか心あたりがあるのかぽつりと言う。
「鳥じゃ、ない?」
福田が目をほそくさせながら言う。確かにあれは……鳥じゃない……鳥の形をした紙?
「なっ!?うわっ!!」
「なんだ!!」
「夜美危ない!!」
無数の鳥達のうち3匹が僕らを襲ってきた。僕はとっさに夜美をかばい鳥の突進を交わすが石田達は……
「大丈夫か!!いし―――グッ!!」
石田に呼びかけようとしたとたん石田がまるでなにかにとりつかれたかのように僕の首をしめてきた。「い、いし……だ?」
「秀一君!!とりあえずここから逃げよ!!」
夜美の声を聞き逃げる事を決める。
「人体転移魔法」
かすれた声で魔法名を言って何とか石田に抜け出し夜美の隣に立つ。
「がはっ、がはっ……何なんだ」
「秀一君周り見て」
「えっ?」
夜美の切羽つまった声を聞き周りをみてみるとそこには僕らを見る人々。最初魔法を使っため目立ったのかと思ったが違う。人々の目に精気がない。まるで、人形のようだ。
「は〜い、みんな〜そのまま待っててね〜」
「誰!?」
突如、頭上から声が聞こえた。この声は……間違いない!!さっき僕に直接語りかけた奴だ!!
「ふふっ、こういうの奇襲作戦っていうのかな?」
イタズラが成功した時のような顔。見上げた先にいたのはただの女の子にしか見えない。だが、間違いない!!堕天使の誰かだ。
「堕天使の者か?」
冷静に彼女をみながら問いかける。
「ぴんぽーん、正解〜。私の天使の名は〜、夜の魔女って言うんだ〜」
おどけた口調でいう夜の魔女。コイツ……なにものだ?
「とりあえず〜私は冨本秀一君。君を説得に来たんだ〜。なんのか、わかってるよね?」
「堕天使に入る事だろ?」
周りの人を気にしながら答える。
「だったら〜率直に聞くよ。堕天使に入らない?」
「断る。僕はお前らの仲間なんかになるつもりはない」
強い口調でいいはなつ。
「もう少し話聞いてくれてもいいんじゃないの〜?じゃないと、こうするよ?」
夜の魔女はおもむろに右手を上げたとたん石田と福田が動き出す。
「チッ、仲間に襲わせる気か」
「秀一君、どうしよ?」
とりあえず、僕らは身構えるが戦えるはずかない。
「な〜にいってんの?やって」
夜の魔女はニヤッと笑うと石田達が共に殴りあいを始めた。
「なっ!!」
「きゃぁ!!」
突然の事に呆気にとられる。
「ふふっ、どうする?私の要求をのまないかぎりこの子達は殴りあいをつづけるよ?そうしたら、いつか死んじゃうかもね〜」
「っ!!わ、分かった!!要求はなんだ」
とにかく止めさせるためにまず要求を聞く。
「止めて、二人とも」
夜の魔女の声に従いおとなしくなる二人。
「ん〜とね。とりあえず、落ち着いた場所で話し合いしたいな。優しい君の事だからきっと今ここで仲間になるよう要求してものむと思うけどいやいやで仲間になっても役にたたないもんね〜」
「……分かったよ」
とりあえず要求をのむ。
「夜美……ここで、待っててくれ。すぐ戻ってくる」
「で、でも」
「いや、夜美はここで―――」
待って石田達の事を見ててくれと頼もうと思った僕の言葉は遮られた。
「夜の音も一緒にいくよ?」
「っ!?」
驚きのあまり声がでない僕ら。
「理由は今はいえないけど一緒にいくよ?拒否権はないからね。ほら、はやく人体転移魔法で落ち着いて話せる所に転移してよ、秀一君。私はこの魔法を維持しないといけないから秀一君がやってね?」
一気にまくしたてられるがここは素直にしたがったほうがよさそうだ。
「……分かったよ。人体転移魔法」
僕はこの場にいる3人を転移させる。転移先はいつもの廃ビルだ。
「ここでい―――」
「シュウイチ?」
「み、ミント!?」
ここでいいかとたずねようとした僕の言葉を遮ったのはミントだった。
「ふ〜ん、あなたがミントさんか」
どこか納得するように言う夜の魔女。もしかしたらと考えていたが間違いない。コイツは僕の友好関係や魔法関係者等を完全に調べあげてる!!
「シュウイチ?この子って……」
「あぁ、堕天使の奴だ。天使の名は夜の魔女だそうだ」
僕はその後簡単になにがあったかを説明する。その時に聞いたがミントはたまたま散歩がてらここに来ていたらしい。
「で、話ってなんだ?」
「ん〜とね。その前にいい加減魔法をとくよ。さすがにかけっぱなしとなるときついしね。あ〜あと、記憶の補完も適当にしとくからパニックになることはないはずだよ。君の友人達にはもともと二人で遊びに来ていたという記憶をうえこんどくし―――魔法削除」
つっこみどころがないぬかりない説明をしてくる。
「それで〜、単刀直入にいうとなんとしても仲間になってほしいんだ〜。でも、今のままじゃ、絶対に無理だと思うの。だから、まずこれを見て―――禁術・死者の生誕」
「えっ!?」
夜の魔女の魔法に思わず間抜けな声が出る。目の前に現れたのは今朝助けた女性とその女性にからんでいた男だ。横で夜美も驚いている。
「ふふっ、まず何から説明してほしい?」
頭の中がもうぐちゃぐちゃだ。一つづつ解決していこう。
「まずは……その魔法について説明してくれ。そもそも禁術ってなんだ?」
「そんなところからか〜、ん〜とね。禁術っていうのは〜生命を冒涜した魔法の事かな?」
ざっくりとした説明をする。
「それだけじゃないでしょ!!」
横にいたミントが突如叫ぶ。
「シュウイチ、禁術っていうのはこの世の禁忌をおかす魔法の事。この世の禁忌っていうのは生命の侮辱にあたる行為、例えば生物の形を無理矢理に変えて凶暴化させたり、人の精神をのっとる事を主にさすわ」
ミントの話す禁術の恐ろしさを認識する。
「……禁術って、使っても大丈夫なものなのか?」
「……基本的に魔力を大きく消費するものが多いだけで魔法の使用事態に制限は無いの……あくまで使ってはいけないという法律みたいな感じかな。でも……ミリスが禁術はほぼ全部封じたはずよ?」
そうだ、ミントの祖先ミリス=クリア=ライトの手により封印されたはずた。
「ん〜、自分で答えいってるじゃん?ほぼって。全てを封印したわけじゃないでしょ?それに、新出魔法があればいくらでも作れるしね」
「そう……ね」
ミントが苦しげに呟く。僕は次の言葉を模索しようとしたら今度は夜美が口を開いたら。
「堕天使の関係者の子で産まれながら異常な量の魔力を持ち、魔法が使えるようになってからはそのたぐいまれなる魔法のセンスで次々と禁術を扱い作りだし、心理戦、頭脳戦でも強さを発揮する堕天使の幹部、夜の魔女って、やっぱりあなたの事なの?」
「えぇ、その通りだと思うよ」
夜美の問いに涼しげに答える。
「ど、どういうことなんだ?夜美」
僕はさっきの言葉の意味を知ろうと夜美に問う。
「……あやふやな記憶だけども、堕天使にいた頃にそんな人物がいたって聞いたことがあるの。それが、彼女なら気をつけて秀一君。彼女は冷徹な作戦で失敗したミッションは無いって噂なの」
「っ!!」
禁術を使ってくる時点で危なそうな敵だとは思っていたがまさかここまでの敵だったなんて!!
「ん〜とね、因みに堕天使について詳しく説明すると、まず一番したっぱが天使の名すら与えられていない通称デビルって言われている子達で少し偉くなると天使の名がもらえるの。その天使の名を持っている子達の中で特に優秀な10名が幹部となり頂点には党首である神から産まれた悪魔様がいらっしゃるの」
夜の魔女の説明にゴクッと喉をならす。恐ろしい。今まで聞いてきた天使の名はネットで調べたら全てどこかの文献にのっている事が分かった。つまりは本当の堕天使の名前を彼らにつけているのだ。そして堕天使と言われている者の数は優に50を越える。だが、さっきの話を聞いていると堕天使の数以上の人が堕天使に在籍している可能性が高い。
「あはは〜、ビックリした?じゃぁ〜次、この魔法の説明いくね〜。禁術・死者の生誕っていうのは〜、死者の魂をこの世に縛りつけて肉体を疑似構築したもの。つまり〜今、君達が見ているこの子達は死んじゃった人達なの〜。今は精神を私が縛っているからこの子達は私の操り人形として自由に動かしているけども、縛りを解けば意識さえも生前のものにする事ができるんだ〜」
なにか面白い事をいうような調子でとんでもない事をいう。
「じゃぁ、今朝の出来事はお前が彼女らを操って……でも、なんのために?」「秀一君がミントさんか夜の音に裏から魔法で助けを求めるのは分かっていたから連携をさせたらどうなるかを調べたかからかな?」
……コイツ色々と怖すぎる。
「それで、どうするつもりだ?」
「ふふ、今から新たに二人の子達をだすわ。まず、一人目〜。禁術・死者の生誕」
どんな人物が出て来るのかを固唾をのんでみまもる。そして、出て来た人物に僕は……いや、ミントも夜美も驚いた。
「か、彼は……嫉妬の炎の瞳!!」
僕はその出て来た人物の名を叫ぶ。
「そんな……嘘よ!!だって、嫉妬の炎の瞳はミント達が倒したはしたけども……殺しはしてない!!」
そうだ……夜の魔女の説明が本当ならこんなのおかしい!!
「なにいってんの〜?あんな、大切な任務を失敗して堕天使の幹部の名を汚したんだから死が当然の罰だよ」
何事もないかのようにいい放つ。
「そして、二人目〜。これは秀一君にしかわからないんじゃないかな?」
「僕にしか?」
思わず聞き返す。
「ふふっ。見たらわかるよ。禁術・死者の生誕」
ゴクッと唾を僕は飲みミントと夜美は僕を心配げに見ていた。誰が、誰が出てくるんだ!!
少しづつ姿が見えて……
「あ、あ、葵姉さん?葵姉さん!?」
僕は現れた人物、葵姉さんの名を叫ぶ。嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だ!!葵姉さんが……そんなハズはない!!いや、この魔法の事を聞いた時点で葵姉さんの顔は頭をかすめていた。でも、それだけはやってほしくなかった!!
「秀一君?」
夜美が僕の顔を見るがなにも言えない。
「……やっぱりね。よ〜し、じゃぁ話がついていけてない二人に説明してあげるね。彼女は〜冨本君が殺した従姉だよ」
「えっ!?」
「嘘っ!?」
「……」
驚きの声をあげる二人に僕はなにもいえない。事実だからだ。
「私ね、おかし〜な〜と思ったんだ。嫉妬の炎の瞳をあんな周りくどい倒しかたしたのが。最初は知識の恵みの『殺しをしたらもう後には戻れない』とかいうきれいごとに冨本君も共感したのかなと思ったの」
夜美の姉、知識の恵みこと彩愛さんの名をだす。きっと、以前までの夜美なら動揺していただろうなとどうでもいい感想をいだく。
「でも、どこか納得出来なかった。そこで調べたら……ふふっ。冨本君が直接的にではないけども従姉を殺していた、という事がわかったんだ〜」
トクントクンと心音が高なる。
「シュウイチがそんな事するはずないじゃない!!そうでしょ、シュウイチ?」
「…………」
救いを求めるような感じで声をミントがかけてくるがなにも答えられない。
「シュウイチ……?」
「よ〜し、冨本君。君をもっと追いこんでいくよ〜」
イラつかせる口調でふところをさぐり、小型のナイフをだした。
「そ、それ……は」
僕は目を見開く。
「ふふっ。見ててね」
終始笑顔のまま葵姉さんの首筋にナイフをあてるとそこから血がでる。
「や、止めてくれーーー!!!!!!」
僕はそれをみて大声で叫ぶ。
「あはは!!やっぱり〜大正解〜」
「あっ、ぐっ」
突然叫んだからか精神的苦痛からか胸が痛む。胸を押さえ方膝をつき荒い呼吸をあげる僕にミント達がなにかいうが耳にははいってこなかった。
「まだまだ、いくよ〜?次は彼女の意識を呼び戻すよ―――解放!!」
夜の魔女がそう言うと葵姉さんの目の色が替わる。
「えっ?ここは―――イテっ。えっ、血?」
何だかわからないといった様子で辺りを見渡す葵姉さん。だが、僕に目を向けるとジッと見つめてくる。
「もしかして……シュウちゃん?」
僕に問いかけるような口調。つい、忘れていたが葵姉さんの姿は亡くなった歳のままだから小学校5年生のはずだ。その頃、僕は3年生。きっと、彼女の記憶の中の僕は幼いはずだ。でも、それでも葵姉さんはシュウちゃんと、葵姉さんがつけたあだ名を呼んでくれた。
「はぁはぁ、あ、葵姉さん……」
荒い呼吸を続けたまま僕は答える。
「やっぱり!!で、でも、どうなってるの?シュウちゃんも大きくなってるし……周りの人達はだれ?」
もっともな疑問をぶつける。そこで気付く。もしかしたら……自分が死んだときの記憶がないのか?
「ふふっ。それについては私が記憶を補完してあげるよ」
後ろでやり取りを聞いていた夜の魔女が口をはさむ。
「補完?なにを言って―――な、なに?え、あっ……キャーー!!」
頭を抱える葵姉さん。多分、一気に色んな情報が送られパニックになってるんだろう。
「そ、そんな……じゃぁ、あたしはもう死んでて、魔法で生き返ったって事?」
「えぇ、そうだよ」
「魔法って、信じられない……」
普通の人間だった葵姉さんには到底信じられない話だろう。でも、自分がその魔法で生き返ってるのだから信じざる得ないんだろう。
「さて、と。感動の再開はここまでね。えい!!」
「えっ、体が!?」
夜の魔女が手をかざすと同時にまるで何者かにあやつられるかのように気をつけの体制になる葵姉さん。
「冨本君。恐怖による支配はいつか崩れるものかも知れないけどね、それはクーデターを起こせる人物がいっぱいいるときだけ。あなただけを支配するなら恐怖でいいの。だから、こうする」
夜の魔女はおもむろにナイフを葵姉さんの首筋にはわせる。
「い、いや」
涙目で訴える葵姉さん。
「君が断る事に傷が一個づつ増えていくよ?」
「っ。卑怯もの」
「ありがと。誉め言葉だよ、それ」
「キャッ、い、痛い」
おもむろに葵姉さんに傷をつけた。
「お、おい!!止めろ……悪かった」
どうやら、悪口もダメなようだ。
「どうする〜?」
「……わかっ……た」
「シュウイチ!?」
「秀一君!?」
僕は頷き前にすすむ。
「ふふっ。ありが―――」
「来ちゃダメ、シュウちゃん!!」
葵姉さんが大声をはっし僕はその場で動きを止めた。いや、とめざるえなかった。だって、この光景……
「シュウちゃん、あたし、まだ魔法とか、そんなのわからないけども……シュウちゃんは悪の道にいったらダメ!!」
「っ……!!」
なんで、なんで、葵姉さんはこんな僕にまで優しいんだ。記憶が完全じゃないから?いや、でも記憶はき ちんと補完しているはずだろ?なんで、なんで?
「うるさいよ」
「イタ!!うっ、うぅ」
「あっ……」
自問自答を繰り返していたとき夜の魔女が葵姉さんの肩をナイフで刺した。えっ?夜の魔女がなにをした?葵姉さんを傷つけた。葵姉さんは悪くないのに?なら悪いのは?あそこにいる魔法使いだ。人を傷つけた。悪い事をした。なら罰を与えなくちゃ。どんな罰がいい?決まってるじゃん。
「空に光る太陽。そのエネルギーは我らを暖める」
「ん?冨本君?なにぶつぶついってんの?」
「光の熱よ我に力をかせ。一点に集まる始まりにして終わりの光。太陽の集結!!」
「っ!!」
僕は魔法定義を唱え終えて魔法を発動するがあとちょっとのところで夜の魔女にかわされた。
「なにするの!!断る事に傷を―――」
「風の三枚刃!!」
「キャッ、うっ。っち。魔法削除」
風の刃より数段威力がちがう風の三枚刃が夜の魔女に少しだけ攻撃があたる。あっちも体制を立て直すのか魔法を消す。その瞬間葵姉さんが消えた。えっ?また、僕の前から姿を消すの?誰が消した?あいつだ!!
「風の三枚刃、風の三枚刃、風の三枚刃!!」
やみくもに連続で攻撃を放つ。
「っ。暴風」
だが、別の魔法で僕の攻撃がふさがれてしまった。
「シュウイチ!!落ち着いて、シュウイチ!!」
「秀一君!!」
僕の両隣に僕を止めようとする二人の人物。なぜ止める?邪魔をするな!!
「怒れる風神!!」
「っ!!人体転移魔法」
僕は周りを風の力だけで壊すAランク魔法を出し邪魔者を遠ざけた。
「ヨミ、大丈夫?」
「はい、なんとか……」
わたしはミントさんに危機一髪でなをとか助けてもらった。秀一君……どうしちゃったの?
わたしは少し離れた位置から秀一君を見て心の中で呟く。
「とにかく、今は協力してシュウイチの暴走を止めましょ。今のシュウイチじゃ、人を殺しかねないから」
「は、はい」
ミントさんの指示に頷き返す。
「風をまとう剣。やぁぁーーー!!」
「っ。熱風!!」
秀一君達の魔法が激しくぶつかる。あの剣の本当の強さは風や光を操る力……
「うっ」
熱風がわたし達の所にまでやってくる。
「……ヨミ。ミントはシュウイチの気を引き付けとくからどんな方法を使ってもいいからシュウイチを止めて。できれば気絶させてくれた方がいいけど」
「そ、そんな!!わたし、今の秀一君止める自信ないですよ!!」
「大丈夫。ヨミならやれるって」
「で、でも―――」
「うわぁーーーー!!!!!」
「うっ、きゃぁー!!」
なおも反論しようと思ったが秀一君の剣が夜の魔女の魔法をうちやぶり肩からお腹にかけてを切り裂いた。急所ではないようですぐに体勢を立て直す夜の魔女。でも、おかしい。
「いくらなんでも、秀一君強くなりすぎじゃないですか?」
いくら秀一君が神から授かりし光だとしても数ヵ月前に魔法を知ったような初心者だ。わたしならともかくむやみやたらに攻撃しているだけの秀一君が堕天使の幹部にかなうはずがない!!
「……もしかして……だとしたらヤバイ!!」
「えっ?」
なにか思い当たる節があるのか顔色を変えるミントさん。
「ヨミ、説明したら長くなるから今は詳しく話せないけど、シュウイチ、今のままだったら、もしかしたら人じゃなくなるかもしれない!!」
「!?そんな!!」
信じられないけども……でも、ミントさんがこんな嘘をつくとは思えない。
「ヨミ。とにかく、ミントがシュウイチの気を引き付けるから、お願い!!」
「分かりました」
多分、もう駄々なんかこねてる時間は無いだろう。
「シュウイチ!!止めなさい!!」
ミントさんは走りながら秀一君に向かって叫んだ。
「シュウイチ!!止めなさい!!」
甲高い女の声が耳に届く。うるさい。俺はコイツを殺したいんだ。邪魔をするな!!
「っ。人体転移魔―――」
「させるか!!漆黒の世界!!」
人体転移魔法は光を使った転移魔法。この魔法とは相性が悪く転移を防ぐ事ができる。
「なら!!禁術・遺伝子変更、能力・翼!!」
あの女は新たな魔法を叫ぶと女の後ろから羽がはえてその羽で空を飛ぶ。
「っ。なんなの、あれ」
邪魔をしてくるあの女は俺に向かって来るのを止めて呆然と呟いた。
「はぁはぁ、ここからはこの魔法だけで勝負だよ、冨本君!!」
「黙れ。だぁーー!!」
ギロリと人にらみして剣で風を操り奴に殺傷能力のある鋭い風をおくる。
「ムダだよ!!」
バサッと羽をひとふりすると俺のおくった風とぶつかり消失する。
「ちっ。だあぁぁ!!」
やみくもにどんどん風をおくる。
「ムダだって!!」
だが、涼しい顔で全てをはねかえしてくる。
「そんな……」
横の女が口を押さえ呆然とする。
「あははっ。もし、殺人許可が出てたらこのまま殺しちゃいたいけどでてないから仕方ないや。気絶で済ましてあげる―――能力・|焔」
翼が消失して地面に着地したとおもった矢先、女の右手が炎につつまれる。
「この魔法は……魔法発動者の遺伝子を組み換える魔法。さっきは翼をはやして今回は炎をまとわせるように遺伝子を組み換えたんだよ」
「待って!!遺伝子を組み換えるなんて……そんな事したら!!」
「ピンポーン。ミントさんが考えてる通りだよ。下手したら遺伝子に傷をおって死ぬかもね」
「そんな!!」
隣の女とは対照的に他人事のようにいう女。死ぬ?駄目だ。コイツは俺が殺る!!
「魔法削除!!三種の攻撃!!喰らえ!!」
三本の短剣を出現させ一本は口に残り二本は両手にもち奴に向かってはしりだす。
この魔法は刃先に当たれば一本は火が噴出し、一本は微弱な毒を傷口から注入させ、残りは電気が走る通常魔法だ。
「無駄だよ。ヤァ!!」
炎のまとった腕を振るうと俺の周りに炎が噴出する。暑い。
「はぁはぁ、これで冨本君の周りの酸素をうば―――」
「だぁぁ!!」
「えっ!?」
俺は構わず突進して炎を切り裂く。
「そんな!!」
驚く女。こんな者で俺が……っつ。なんだ?視界が……かすむ。
「雷と炎を使って一時的に自分の周りの炎より温度の高い炎を作って炎の壁で夜の魔女の炎をふさいだのね」
「そ、そんな芸当が!?」
視界が霞むなかそんな話をしている二人の女。くそッ。体力が……なら、一気にきめる!!
「いけぇぇ!!」
口で待っていた毒の短剣を奴に向かって飛ばす。
「っ!!」
しかし、炎によってそれがふさがれる。でも、これを俺は待ってた!!
「人体転移魔法!!やぁぁ!!」 俺は炎を出したばかりの女の後ろに瞬間移動してスキだらけの女の背中に思いっきり短剣をさしたはず、だろ?
「風の拘束具!!―――間に合った」
後、数センチの所で身動きが出来なくなる。炎の女は俺と俺を止めた女とを交互に見ている。
「勘違いしないでよ。ミントはあんたを助けたんじゃない。シュウイチに人殺しをさせないためよ―――ヨミ、やって!!」
「はい!!秀一君ごめんね。夜空の涙!!」
「う、うぁぁぁぁぁ!!!」
俺はまるで体が焼けるかのような痛みを感じる。
「な、夜空の涙……確か対象の相手の魔力を燃焼させる魔法だよね?」
「……はい。夜空の涙は流星群の事を指していますから。流星群は星の欠片が燃えているものですからこの名前がついたんだと思います」
俺は苦しんでいるのを無視するかのように淡々と説明しやが……
「がはっ」
体の力が抜ける。もし、拘束されていなかったら膝から崩れ落ち……て、いた、はず。
「秀一君……そっか、元々魔力が残り少なかったんだ」
「そりゃ、あんなに魔法つかってたらね」
俺はあいつを殺すんだ。
最後にそう叫びたかったがその前に意識が遠退いた。
なんでオレを置いて行ったの?なんでオレを守ったの?ほっとけばよかったのに。
オレはどうすればいいの?恨めばいいの?憎めばいいの?誰を?勝手に、勝手にオレを置いてどっかにいかないでよ……葵姉さん……葵姉さん!!
パッと、目を開ける。嫌な夢をみた。あの夢は、最近見ていなかったのに今頃どうして?というかなんで僕はここで寝て―――違う。確か、堕天使の幹部に襲われてそれで!!
ガバッとベッドから飛び起きる。あれ?ここ、僕の部屋じゃない?
「秀一君!!起きたの!?」
奥から慌てたような声をだしバタバタと夜美が走ってくる。
「夜美?ここ、どこ?」
「ここはわたしの部屋」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!!確か、堕天使と戦ってたはずだろ?なんで、僕がここで寝てるんだ?」
僕が問うとやっぱり、と言いたげにため息をつく夜美。
「秀一君……なにも覚えてないんだ。ミントさんの言ったとおりだよ」
「ミント?そういや、ミントは……?」
「あそこ」
指をさした先を見てみると掛け布団にくるまって寝ているミントがいた。
「ミントさん、秀一君を助けるために魔力を使いすぎたみたいなの。それで疲れて眠ってる」
「僕を……助けるため?」
「うん」
真剣な表情で頷く夜美。
「何があったんだ?」
恐る恐る聞く。
「魔法同一化。秀一君にこれが起こったみたいなの」
「魔法……同一化?」
「うん。魔法同一化っていうのはね、同化をした者にたまに起きる現象なの」
同化。この名は久しぶりに聞いたような気がする。
「どういった現象かっていうのはね、感情を自分で抑えきれなくなって泣きさけんだり、怒りで我を忘れた時に自分と同化した魔法、秀一君の場合マトと秀一君の精神が一つになることなの」
「精神が一つに?」
どういう事か分からず聞き返す。
「……なんていったらいいかな……多重人格ってあるでしょ?」
「あぁ」
「同化をしたっていう事はマトの精神を体内に宿したっていう事なの。つまり、秀一君の中に秀一君の精神とマトの精神が二つ入ってる、多重人格のような状態になっているの」
僕の中にマトの精神が……僕は胸に手をあてる。
「まぁ、多重人格と違って普通は主人格である秀一君の人格しか出ないんだけどね」
「つまりさ、僕はさっき怒りで我を忘れたから、マトの人格と変わったっていう事?」
「ううん。違うよ。精神が一つになるって言ったでしょ。魔法同一化の本当の恐ろしさは……二つの精神が合わさって全く別な第三の人格を造り上げる事なの」
「第三の……?」
「うん……第三の人格。そして、その第三の人格はほっておくと絶対に分離しなくなり、その人格に全てを乗っ取られるの」
ごくんと唾をのむ。怖い。そんな事が……
「そんな事が……僕の身に?」
「起こりかけてたの。でも、もう大丈夫みたい。ミントさんが魔法で精神攻撃を秀一君が眠ってる間に行いつづけたから、第三の人格が崩れてマトと秀一君と分離できたみたい」
「そっか……」
もしかしたら、あの夢はその精神攻撃の副作用的な要素でみてしまったのかな。
「あっ、それと。夜の魔女だけど……拘束する前に逃げられたの……ごめんね」
「えっ?拘束?そんな後一歩のところまでいけたのか?」
「あっ……そっか」
僕の問いに何かを思い出したような声をあげた。
「秀一君……秀一君がね、第三の人格―――仮にXとするよ。Xに変わってる間とにかくやみくもに攻撃して夜の魔女を追い詰めていったの」
「僕が……夜の魔女を?」
そんな記憶はない。いや、でも……Xと変わってる間の記憶がないからもしかするとそうなのかもしれない。
「そうなの。実はねXに変わってる間、魔法の威力ま上がっていてすざましい攻撃魔法だったよ。それに……後ちょっと、ミントさんが秀一君を―――ううん。Xを拘束するのが遅れていたら……X。間違いなく、殺してたよ、夜の魔女」
「なっ!!僕が……殺しを?」
「うん……」
嘘だろ……。X、本当に僕とマトの人格から作られたのか?
「秀一君。ミントさんと話をしたんだけど、秀一君の幼い頃になにがあったのか、あの葵姉さんと呼んでた人が誰なのかをわたし達は無理矢理聞いたりはしない。秀一君が話たくなったとき話をして」
「…………」
伏し目がちになんとか頷く。
「だけど、また感情が爆発するかもしれないから……またXになっちゃうかもしれないから直接夜の魔女と戦うのはやめて」
「えっ!?そんな事―――」
出来ないと続けたかった。あいつは強い。三人がかりならなんとかなるかもしれないのに。
でも、そんな事言えなかった。夜美の本気で僕を心配するような目を見て。
「お願い……」
「で、でもさ。もし、もし、また夜の魔女と戦って仮に僕がXとなったとしてもどちらかが僕を止めて残ったほうが夜の魔女を拘束……した……ら」
言い終わらない内に首を横にふられる。
「多分無理。Xは隙をついてなんとか拘束できた。それがまた出来るとは限らないし。それに……それに、Xは敵とか味方とか考えないの。わたし達にも攻撃をするから、手加減なしに」
「―――っ!!」
まさかの現実を突きつけられて黙るしか無くなった。
「だから、もう夜の魔女とは戦わないで。別になにもするなとは言ってない。夜の魔女が逃げないように結界魔法を多重にかけてくれたり怪我をおったら秀一君に癒してもらうつもり。でも、直接戦うのは止めて」
「……わかった……」
こう答えるしかなかった。それ以外になんとも答えられなかった。
「うん、じゃぁ、もうこの話は終わり。秀一君。少し待ってて。もう少ししたら晩御飯出来るから」
「えっ?いや、そんな、悪いよ」
「いいって、すぐ出来るから」
可愛らしくウインクをして立ち去る夜美。
―――葵姉さん。どうして僕を恨んでくれなかったの?
バサッと倒れながら心の中で問いかける。この問いに答えるものはいなかった。
「ん、んん。シュウイチ……」
寝返りをうちながら寝言をいうミント。その姿を見てふっと微笑む。
―――なにがあっても守らなくちゃな。
僕は新たに決意をする。確かに直接戦ったら、感情が爆発する可能性がたかい。でも、バックアップは頑張ろう。絶対に守る。
はぁ、はぁ。死ぬかと思った。あの瞬間。冨本君を止めてなかったら確実に死んでいただろう。いくら禁術を使えても死んだら意味がない。
でも、こうなった以上。ターゲットを仲間なするのは不可能だ。まぁ、べつにいい。神から産れた悪魔様の作戦道理物事は進んでいる。後は神から産れた悪魔様からの最後のサインを待つだけだな。
それに、混乱を招く作戦はもう行っている。
さぁ、どう動くのかな、冨本君?
「じゃぁ、美味しかったよ。夜美」
「上手に出来てたらよかったんだけどね」
「そんな事ないわよ。とても美味しかったわよ!!」
夜美にご飯をご馳走になった。食事中にミントも目を覚まして三人でご飯を食べた。
味は……本当に美味しかったよ。夜美って料理上手かったんだな。
「それじゃ、帰るよ」
「うん、バイバイ。また明日」
夜美の挨拶にコクリと頷き呪文を完成させた。
「人体転移魔法」
その瞬間夜美の姿は無くなりいつもの見慣れた部屋についた。
「あれ?なんか光ってるわよ」
隣にいるミントが僕の携帯をさす。
珍しい。普段はあまりかかって来ないのに……
僕は携帯をパカッと開ける。その際、携帯につけているとあるアニメのキャラクターのキーホルダーが少し揺れた。
「いっ?23件着信!?」
僕は着信の件数に驚く。
だが、その全部が石田と福田からだった。
「なんだ、あいつら?」
携帯をみながら呆然と呟く。
「うわっ!!」 急にバイブレーションが鳴り出して驚く。相手は、福田?
「もしも―――」
「冨本ー!!お前どこ行ってたんだ!!」
言い切らない内に急に怒鳴り声が僕の耳をつんざく。
「っつ。何だよ急に?」
少し不機嫌になりつつ言葉を返す。
「わ、悪い。やっと、繋がったから」 少し落ち着いたのか元の声になる。
「で、急にどうしたんだ?」
「いや、お前。いつも星野と放課後なにやってんだ?」
「はっ?」
急にそんな事を言われ、聞き返す。
「いや……俺もよく分からないんだが、急に色んな記憶が舞い込んで来て……自分でもよく分からないんだが……」
「どういう事だよ?」
珍しく歯切れが悪い。
「お前……魔法、使えるのか?」
「なっ!?」
僕は驚きの声をあげる。
「な、何言ってんだよ……魔法なんて、漫画やアニメの世界じゃあるまいし」
とりあえず誤魔化す。
「……じゃぁ、質問を変える。ミント=クリア=ライトって、誰だ?」
「!!」
僕は驚きで声が出なくなる。
なんで、なんで、ミントの名を。
「その反応が答えだよな?もう、誤魔化さないでくれ。魔法って、なんだ?ミント=クリア=ライトって、誰だ?お前は、何を隠してるんだ?」
「―――っつ。ごめん。今は言えない。でも、待ってくれ。これは僕一人の決断で話す事は出来ない」
「……わかった。石田もそれでいいって言ってる」
「……悪いな。あと、この事は石田と福田、二人だけの秘密にしてくれ。他言、無用だ」
「わかったよ。じゃぁな」
ピ、という電子音と共に通話がきられる。僕は呆然としながら携帯を投げおきそのまま床に座り込んだ。
「どうしたの、シュウイチ?」
方眉をあげて尋ねるミント。
「ミント……何故かは分からないけど魔法の事、福田達―――僕の友人にばれた」
「えっ?」
予想をはんした答えだったであろう僕の答えに絶句するミント。
「どうしよう……あっ、そ、そうだ。前、ばれた時みたいに記憶を操作したり……」
「無理よ。記憶を操作するには魔法発動者がどの記憶を消したいのかを確実に知っている必要性があるの。あの時は消したい記憶の部分をシュウイチが全部把握していたから出来たけど、今回は全部把握を出来ていない。そんな状況で記憶操作をやっても中途半端に消えて逆に混乱を招くだけだし下手をしたら、記憶が全部消えちゃうかもしれないわよ」
「そ、そうなのか?」
僕は驚きながら聞く。
「えぇ。夜美が堕天使について断片的に記憶しているのもそのせいよ。夜美が堕天使にいた頃、何処で何をどう記憶していたかなんて全部分かる人間なんていないはず。だから、確実に知っていて、それでいて漏洩してはまずい事だけ消してるのよ」
ミントの説明に完全に積んだ事が分かる。
どうすれば……
「ねぇ、シュウイチ。これ以上隠しても逆効果だと思うの。だから、全てを話しましょ。だから、明日ミントも連れてって」
「わかった。じゃぁ、明日。透明なる姿で姿を隠しながらついてきてくれ。そして僕が合図したら出てきてくれ」
「了解」
ミントが微笑んで答えてくれた。
カサカサと木が風によって揺れるのを見下ろす。その風によって心なしか学生達が各々持ってきた弁当や学食の匂いが漂ってきたような気がした。
因みに僕の手にも購買で勝った二種類のパンを持っている。
「二人とも、今から話す事は到底信じられないかもしれないけど聞いてくれへん」
「あぁ」
「わかってるよ」
僕は振り返りながら石田と福田に話しかけた。
ついさっき石田達に昨日の事で話があるから屋上に来てもらうように頼んだのだ。
また、僕の隣には夜美もいる。夜美には昨晩の内にこの事は伝えていた。かなり驚いていたが今は平静だ。だが、すべてを話すとなると夜美が堕天使にいた頃の話もしなければならないだろう。その事も承知で平静でいられるのだから夜美はすごい。
「まず、会わせたい奴がいる。ミント、出てきてくれ」
僕は虚空に呼び掛けると「魔法削除」という声の後、そこから少女、ミントが出てくる。
「なっ!?」
「す、すげぇ。どんなマジックだよ……」
二人とも驚愕する。
「マジックじゃない。魔法だ」
僕は一応訂正をいれる。
「ふ〜ん。ばれたのってこの二人なんだ」
ミントは二人の視線をもろともせずそんな感想を呟く。
「始めまして。ミント=クリア=ライトよ」
「あっ、は、始めまして。石田湊人です」
「福田海斗です」
ぎこちない敬語を使いながら自己紹介をする。
「ミナトと、カイトね。分かったわ」
ミントは二人の顔を確認しながら頷く。てか、君とかさんとかつけないんだな、ミントは。まぁ、同年代だし問題はないが。「とにかく、ミントの事も含めて今から全部話す。聞いてくれ。まず、僕と魔法の出合いっていうのは―――」
僕はその後今まであった事を教えた。今まであった戦い。使用した魔法の数々。夜美の正体。堕天使について。
時折、人体転移魔法で石田達の後ろに移動してみたり透明なる姿で透明になってみたり、風をまとう剣で剣を出してみたりと魔法の実演をしながらできるだけ分かりやすく。魔法を出すたびに二人は驚いていた。
そして、二人がどうして魔法について知っているのかも聞いた。話を要約すると昨日、石田達が駅前のデパートに行った時突如頭の中に自分が経験したことの無い記憶が舞い込んできたのだという。
僕の想像と実際にあった事とも照らしあわしてみると多分、昨日、夜の魔女に襲われた後、精神乗っ取りを解除された二人に記憶を補完させるさい、こちら側の知られたくない秘密まで混入させたようだ。
「……驚きだな。正直、今でも魔法なんて信じられない……冨本がやったのはマジックじゃないのかと思うよ」
一通り話を聞いた後福田が呟く。まぁ、無理もない。
「でも、まぎれもない事実だ―――あれ、夜美?」
僕はさっきまで隣にいた夜美がいなくなっていたためキョロキョロと探す。
夜美の過去については先程の話の途中で夜美の許可を得て喋った。だから、もう隠す事も無いと思い普通に夜美と呼ぶようになった。
「星野なら、あそこ」
「あっ、いた」
石田が指指した方を見るとぼうっと空を見上げる夜美がいた。その姿は僕が初めて夜美にあったときに似ていた。
「……二人とも。確かに夜美は堕天使のメンバーだった。でも、今は抜けているしそれに巨大で非情な組織の前にあがらうすべは無かったと思う。だから―――」
「だから、夜美は悪だ、という勘違いをしないでくれ、とでも言うつもりか?」
僕の言葉を予期していたかのように言葉を続けた福田。
「あ、あぁ」
「ふん、だとしたら勘違いしているのはお前の方だな」
「え?」
言葉の意味が理解出来ず間の抜けた声を上げる僕になんのけなしに言葉を続ける石田。
「別に俺たちは星野の事を変な目で見たりなんかしねぇよ。ただちょっと変わった力を持ってるだけ、どうだろ?福田」
「あぁ、そうだな」
横にいた福田も同意をすえう。
「まっ、ちょっとというかだいぶスゲー力だけどな」
「確かに」
あはは、と笑う福田に石田も同意をする。
「くすっ―――ありがと、二人とも」
「お、おぅ」
「当たり前……だろ」
いつの間にか僕らの近くに来ていた夜美に照れ隠しでかぶっきらぼうに答える二人。
というかなんで照れるんだよ……って、別に僕がおこることは無いんだけど……なんかな……
「シュウイチ、何考えてるの?」
「ひゅいっ」
隣からミントがささやくように言われて驚く。確かに……ミントにとったら気持ちの良いものではなかっただろうけど。それにしてもこえーよ。てか、どうして僕の考えてることが読める!!そっちの方が怖いよ。
「シュウイチ?」
スーと目線の温度が下がってるような気がする。
「べ、別に何も考えてなんかいないよ――――――とにかく福田達もこれで納得してくれたか?」
視線から逃れるために二人に話をふる。
「あぁ、まっ、まだ魔法なんてすごすぎてまだ実感がわかねえけどな」
「だろうな」
石田の言葉に苦笑いで答える。
「俺は……一つ気になることがあるんだけど」
「ん?ナニ?」
ミントが興味ありといった顔で福田を見つめる。
「魔法の限度というか絶対に出来ないことってあるのか?」
「絶対に出来ないこと?」
ミントが質問の意図がつかめないのかそのまま聞き返す。
「えぇ〜っと……魔法は本当にどんなことでもできて創造をすればどんな魔法でも作れるのかっ、て事」
「あぁ、そういう事ね」 ミントは納得したように頷く。
「さっきも話したけど今は制限がかかってるけどそれを無視して考えた場合で考えるわね。魔法は何かの力を借りなくちゃいけないって話もしたわよね。生物、法則、物質のどれかに当てはまればだいたいの魔法は作れるは。例外として人間の力を大きくする魔呪もあるけどもそれに当てはまらないものは無理ね」
「それ以外にどんなものが?」
福田は分からないといった風に首をかしげる。
「そうね……例えば、無生物に命を与えることは不可能ね。生物、法則、物質――――――通称、理科三元と呼んでるんだけど、理科三元に当てはまらないし呪いにもこのようなものはないわね」
「そう、なのか?」 どこか釈然としないような態度の福田。
「う〜んとね……多分呪いってところにひっかかってるんでしょ」
「あぁ」
「分かったわ。魔呪には大きく分けて二つがあるの。それが迷信と願い。迷信は……この国では例えば茶柱とか朝蜘蛛とかね」
「あぁ、茶柱が立つと縁起がいいとか朝蜘蛛は殺すなとかか?」
僕もそれぐらいなら知ってる。他にもいろいろあるはずだが……夜に口笛とか火遊びのとか緑の夕焼けとか……
「そう、その迷信を魔法なりに改変したものもあるわよ。これは外国の迷信からできた魔法なんどだけど粉砕鏡の七不幸ってのがあるわね」
「あっ、鏡を割ったら七年間不幸になるってやつですか?」
「それそれ」
ミントは夜美に答える。それなら僕も聞いたことがある。
「うん、その七年間の不幸ってのを使った魔法で自分の思い描く不幸を七つ相手に与えることが出来るの。と言ってもそのうちの一個はすべてのスタートを切る為に鏡――――――ここでいう鏡は自分の姿を映すものだから氷とかでもいいんだけど、それを壊すというのがいるから実質的には6つ。そして生命の維持にかかわるほどの不幸な出来事は無理だしあくまでも一人で出来ることなので事故や第三者に襲われるといったものは不可能だからあくまでも誘導目的でしか使えないけどね」
「ふ〜ん」
僕は相槌をうつ。
「そして願いはさらに詳しく分けたら3つあるわ。自分に与えるもの。他者の幸を願うもの。不幸を願うもの。この3つ」
「そうなんだ」
と、僕は声をもらした。魔呪にも色々あるんだな……
「ところで、どうしてそんなこと聞いたんだ?」
僕は福田に問いかける。
「あぁ、いや。なんというか魔法ってなんでもありなのかなってちょっと思ってさ。もしそれなら……自分のの願いとか夢とかってなんでもかなえられるのかなって」
「つまり?」
「だからさ、堕天使っだっけか?そいつらの野望が制限のない魔法でなにを叶えたいのかなってちょっと気になったって感じかな。
まぁ、俺には何も分からなかったけどな」
福田は苦笑いを浮かべながら言った。
「なるほどね……確かに普通の人にして見たら魔法なんてものすごい力だもんね。うん、なんか別の視点から堕天使の目的が探れそうだわ。ありがと」
「お、おう」
ミントの笑顔に恥ずかしげに答える福田。たくっ、なに照れてんだか……
僕はふっとため息をつき石田も加えおしゃべりに徹してる3人を一瞥した後ちょっと離れたところで空を見上げている夜美を見る。
「……まだ、雲は嫌いなのか?」
「えっ……う、ううん。別に」
急に話しかけたからかびっくりしたような声を上げる夜美。
「なんで夜美は雲が嫌いなんだ?」
僕と夜美が初めて会ったとき夜美が言ってた言葉を思い出しながら尋ねる。
「……雲って風に流されてどこかに行ったり雨をふらせたり雷を鳴らしたり……いろいろ顔を変えるでしょ?あの時のわたしは感情を無くそうとしてたからそんな風に顔を変える雲がなんか自分を笑ってるような気がして嫌だったの」
「そっか……でも、それじゃぁ今は嫌いじゃないよな」
「うん」
夜美は嬉しそうにそれでいて過去の自分を悔やむように頷く。そして「今は雲はわたしの感情を教えてくれる先輩かな?」と冗談をゆうように肩をすくめて見せた。
夜美は本当に変わった。夜美の変わり方は本当にすごい……羨ましい。それに対して僕は夜美と違い過去を消し去ろうとしているな……最低かもしれない。
僕は心中でそう呟いて最後のパンの欠片を口にしたと同時にチャイムが鳴り響いた。
「それじゃぁ、ルールを確認するわよ、二人とも」
いつもの廃ビルで等距離に離れている僕と夜美に喋りだすミント。だが、今日ここにいるのは僕らだけじゃない。
「勝利条件は自分以外の二人を行動不能にすること、もしくはなんだかの手段で魔法を使用させなくすること。ただしAランク以上の魔法はカイトとミナトに当たったら危険だから使用禁止。そして流れ弾が当たりそうだったら率先して二人を助けること。これでいい?」
「分かった」
「はい」
僕と夜美は答える。そう、今日は石田が魔法どうしのバトルを見たいといったので石田と福田も来ていた。
「それじゃぁ、ミントから」
ミントは魔力消費を抑えるためか呪文を唱えた。
「光弾魔法」
ミントの手から光弾が発射される。
「それなら―――闇の玉」
夜美はそれを防ぐように闇の玉をぶつける。
「おぉ」
「これが魔法どうしのバトル」
魔法をぶつけ合う二人に歓声を上げる二人。さて……と。僕も動くか。
「混ざるは風と闇。光は闇の元に集まり還元されろ。闇は弾丸となりはじけろ。魔力合成・収縮されし闇と光の弾丸!!」
僕は魔法を発動させるとミントの手から発射される光弾が闇色に変わり夜美の闇の玉が押し切られていく。
「えっ?」
「そんなっ―――っと」
ミントは茫然として自分が出す光弾を見送り夜美は危機一髪のところで横にステップで避けて魔法をかわした。
「えっ、えっと……あっ、魔法削除」
なんとか我を取り戻したミントがやっとのことで魔法を解除する。僕の魔法は相手の魔法に依存するものなのでわざわざ魔法を解除しなくてもよい。
「さっきの秀一君の魔法だよね?でも……あんな魔法見たこともないし……性質もわからなかったし…… 今の何の魔法?」
僕の魔法を考察しながら夜美が尋ねる。
「あれは魔力合成。二つの性質を混ぜ合わせる魔法だよ」
僕は少し得意気に答える。
「二つの性質を合わせるなんて……さすがね」
ミントが感心したように笑いながら言ってくれた。
「僕もこの神から授かりし光の力を使って僕だけの力を造りたかったから頑張ったんだよ……よし、じゃぁ、実験も兼ねて行くよ!!」
僕はそこで一旦言葉を切る。
「魔力合成・嘘の嘘」「うわっ、すっげ」
「ちょい、怖いな」
石田達がそんな感想を遠慮なく言うのが聞こえる。
「えっ……嘘でしょ〜」
「どれが本物!?」
ミントと夜美が辺りをキョロキョロと見渡す。それもそうだ。今、僕は魔法の力のおかげで十数人に分身しているのだから。
「これは嘘の姿と光の屈折を混ぜた魔法で魔力消費を抑えながらより多くの分身を作れる。もちろん本体はこの中のどこかにいるよ」
「っ!!」
僕は手を二人に向けながら微笑を向けると危険を察知したように二人とも中央にステップをするように逃げて背中合わせで立つ。
「ヨミ、ここは共闘しましょ」
「はい……だったらわたしにいい方法があります」
二人がコソコソと話し合う。
「う〜ん……でも、試してみる価値はあるかもね」
ミントは少し悩んだような声をあげたがすぐに笑いながらいった。
「何をするつもりかわからないけど、これで決めるよ。魔力合成・小枝の矢」
草の性質の力で小枝を矢のように飛ばして風の性質の力で威力を上げ狙いを外しにくくする。
本物は一つだけだがミント達からみたら四方八方から飛んできてるように見えるはずだ。さぁ、どれが本物かわかるかな?
「じゃぁ、さっきの作戦で!!闇の弾」
「一か八かね。光弾魔法!!」
二人が魔法を同じ方向に飛ばす。しかし、その方向は偽物の僕のいる場所だ。勝った、僕はそう思ったが……
「「混ざれ!!二つの魔法!!」」
「んなっ!?」
なんと、二つの魔法が合体し魔法が爆発したように四方に飛びちり小枝とぶつかるが所詮ただの小枝なので当たり負けをして僕の元に闇と光を半分に分けたような魔法が襲ってきた。
「くっ!!魔法削除、人体転移魔法」
僕は素早く魔法を解除し転移して逃げる。
「なんだよ、今の」
僕はさっきの魔法の成功を喜んでいる二人に尋ねる。
「シュウイチのマネをしたのよ」 と、ミントが得意気にいった後「まっ、ヨミの考えなんだけどね」と付け加えた。その夜美はちょっと恥ずかしげにはにかむようにしながら説明をしてくれた。
「秀一君のマネをしただけだよ、本当に。ただ、わたしたちじゃ、一人で魔法を合成なんて出来ないからミントさんと力を合わせるように魔力をコントロールしたの。闇は風の性質に弱いからわたしの闇の玉の魔力を多くしてミントさんの光弾魔法は魔力を少な目にしてもらったら素直に融合してくれたみたい」
夜美の解説に僕は思わず苦笑を漏らしてしまう。というのも、僕が魔力合成を開発していたとき、夜美のいうように二つの性質に応じて魔力を操作するという事に気づくのにだいぶ時間が必用だったのを夜美はやすやすと答えにたどり着いたのだから。流石は知識の恵みこと、彩愛さんの妹という事かもしれない。
「すごいな、夜美は」
「ふふっ、ありがと」
夜美は笑いながら礼をいった。
「う〜んと、今のはシュウイチのが魔力合成というのならさしずめ助け合う魔法ってとこかしらね、二人必用だし」
「あっ、それいいですね」
ミントの提案に次は夜美がのった。
「お〜い、二人とも。今は全員敵どうしだぞ?」
僕は仲良さげな二人に声をかける。
「わかってるわよ。じゃぁ、行くわよ」
「おう」
「はい」
僕と夜美がミントに答えた刹那三つの魔法が中央でぶつかりあった。
「ふぅ〜疲れた」
僕は床に座り込む。戦いは結局のところ勝負がつかなかった。やはりAランク以上禁止はきつい。決定打を打ち込めない。そもそもB、Cランクはかくらんや立て直ししたいときに使うのが多いからなかなか、厳しいものがあったのだ。やはりバトルの基本となるのはAランク魔法だ。Sランクは……あれはまた別かもしれない。
Sランク魔法は威力は絶大だが魔力消費が激しすぎる。僕もいくつか教えてもらったが、ほとんど試していない。ゆいいつ試したのは風の性質で実在魔法の疾風の狐妖怪ぐらいだ。疾風の狐妖怪は見た目はキツネを擬人化したような可愛らしげな女の子で最初見たときは失敗かとおもった。しかしその強さはミントの全力の光弾魔法を次々と鎌で切り裂き、全て切り裂き終わった後は何事もなかったかのように僕の元に戻って来て甘えるように寄り添ってきたのだ。その姿に思わず三人そろって茫然としてしまった。
因みに、ミント曰くランクが高ければ高いほど実在魔法によって出てくる魔法の容姿や性格は魔法発動者の好みに影響するらしい。その事を聞かされた時二つのジトッとした目線を感じたのはたぶん気のせいだろう。そう信じたい。
ミントは今福田達に魔法の説明などをしている。
「秀一君、お疲れ様」
「あぁ、夜美もな」
僕は後方から話しかけた夜美に振り向きながら答える。
「にしてもよく一瞬で僕の魔法を考察できたな」
尊敬と少しの羨ましさからくる嫉妬を込めて夜美に言う。
「ありがとう。でも秀一君の発想が無かったらできなかったしやっぱ秀一君の方がすごいよ」
「……うん、そかな」
僕は一瞬謙遜を言おうか迷ったがとりあえずありがたく貰っておいた。
「ところでさ、夜美。ちょっと相談っていうか聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
「えっ、あっ……うん、なにかな?」
僕の真剣な瞳に夜美も頷く。
「あの……さ。変なこと聞くけど夜美はお姉さん、彩愛さんの事を今はどう思ってるんだ?」
「お姉ちゃん?そうだな……会いたいよ、今でもすぐに。でもね、もう無謀なことはしない。そう決めたの」
「どうして?」
僕は夜美に尋ねる。夜美が彩愛さんの事をとても好いていたのは知っている。だから会いたいという気持ちはかなりのものだろう。
「だって、お姉ちゃんがくれた命だもん。もし無謀な事をしたらお姉ちゃんに怒られちゃうし。それに」
そこでいったん言葉を切る。
「それにわたしには今は秀一君やミントさんがいるしね……言い方は悪いけどもしかしたらわたしは堕天使の時は彩愛お姉ちゃんに今は秀一君とミントさんに依存してるだけかもしれない。だけど……依存させてほしいかな」
「……うん、僕でよければ」
夜美の瞳をまっすぐ見て僕は答えた。
「ありがと……秀一君。好き、だよ」
「ん、なんか言った?」
小声でぼそぼそと呟いた夜美。
「う、ううん。何でもない。とにかくそういう感じかなわたしは」
夜美は顔を横にふりながら言ってからミント達の方に走っていった。
「好き……か」
一人取り残された僕は夜美の言葉を反芻した。僕には一歩を踏み出す勇気は皆無だった。だからさっきもとぼけた。とぼけて……逃げた。もう、大切な人たちを傷つけたくなんてないから。
ミンミンとセミの合唱がうるさく耳をさすこの夏。オレ達二人はいつもの通り一緒に遊んでいた。でも、今日はいつもの公園ではない。
「待ってよ、シュウちゃん」
「早く~、葵姉さん!!」
僕は立ち止まり後ろを振り向いて葵姉さんを待つ。今日は葵姉さんをつれて町一番の大通りにある大型ショッピングモールに来ていた。なぜここにつれて来たのかを葵姉さんにはまだ説明をしていない。まだ……秘密だ。
「さっ、早くいこ!!」
「ちょっ、待ってよ〜、もう」
オレは葵姉さんの手首をつかんでショッピングモール内に入った。その瞬間心地よいクーラーの風がオレ達を出迎えた。
「すずしい〜」
葵姉さんは気持ちよさげにのびをする。オレはその葵姉さんを横目で確認してからいった。
「こっちだよ、はやく」
オレはつかんだままの手首を再び引っ張ってエスカレーターに乗って目的の階に行きとある有名アニメ映画を多数放映している会社のキャラグッズを販売している専門ショップの前で止まる。
「……?それで、こんなところに連れてきてどうしたのシュウちゃん?」
ここに連れてこられた意味が分からないようで首をかしげる。
「葵姉さん……誕生日おめでとう!!」
「えっ?」
少しキョトンとして葵姉さんの瞳が揺れる。
「ふふん、何言ってんだよ。明日だろ葵姉さんの誕生日は。だから、ここにあるのオレが何でも買ってあげるよ」
オレは少し胸をはって見せる。
「……ありがと、シュウちゃん」
葵姉さんはしばらくビックリしたような顔をしていたが気をとりなおして笑顔で答えた。
「う、うん。あっ、でも、千六百円までな。金もそれぐらいしかないし」
照れ隠しをするために慌ててつけたす。
「うん。分かってる。じゃぁ、どれにしよっかな〜」
葵姉さんは鼻歌を奏でながら店の中を探し始めた。やはり、ここに来たのは正解だった。葵姉さんはここのアニメが好きだからだ。
オレ達はしばらくの間店の中を回っていたがやはり、と言うべきか葵姉さんの一番好きなアニメのコーナーで立ち止まり商品を両手にとり悩んでいたが片方の品を棚に戻してからスクッと立ち上がり残った方をオレに差し出した。
「シュウちゃん、これにする」
葵姉さんの手にはそのアニメの主人公の男の子とヒロインの女の子のキーホルダーがそれぞれ一つづつ入っているものだった。
「うん、分かった」
オレは葵姉さんからそれを受け取りレジで素早く会計を済ますと葵姉さんに渡した。
「はい、おめでと!!」
「うん、ありがと、シュウちゃん」
オレの手からそれを受けとると葵姉さんは袋を綺麗に開けて主人公の方を差し出す。
「シュウちゃん、これはシュウちゃんが持ってて」
「えっ?」
僕はおもわずポカンとしてしまう。
「シュウちゃんとおそろいのキーホルダー着けたいな。ダメ?」
「う、ううん。分かった」
オレはそれを受けとった。
「じゃっ、帰ろっか」
葵姉さんの言葉にオレは頷き一緒に帰路についた。
ガサッガサッと机の引き出しを開けて探していると引き出しの奥から一つの箱をやっとの事で見つけそれを手に持つ。
「あった」
先程、石田達を家に人体転移魔法で送ってから数分で見つけ出したそれを見て僕は小さく呟きそれを見つめる。
「……ふぅー」
小さく息をはき決意を決めてその箱を明けてみる。中にはあるアニメ映画―――葵姉さんが大好きだったアニメ映画のヒロインの女の子のキーホルダーが入っている。そう、あの時買ったものだ。そのキーホルダーを 僕は自分の携帯にぶら下げているキーホルダーに近づけてみるとまるであの映画のラストシーンのような仲の良い二人がいた。
本来なら、本来ならこのように二つのキーホルダーが並ぶのはとうの昔に叶っているはずだった。しかし、それが訪れづに今日まで長引いてしまった。
―――馬鹿だな、僕は。
心の中で自分自身をけなす。葵姉さんの事を忘れようとして片方のキーホルダーを箱にしまった。が、それならもう片方も直すべきだ。それが出来なかった。多分、それをしてしまったら心の奥底で否定していた事を認めてしまいそうで怖いのだ。―――葵姉さんが死んだという事を。頭では理解している。でも、もしかしたら帰ってきてこのキーホルダーをつけてくれるんじゃないか、なんて馬鹿な期待をしている。だから、その時の為にと僕はキーホルダーをずっとつけているのだ。
そう、僕の時間はあの日をさかいに止まってしまっているのだ。
僕が自分について考えていると後ろから二人分のトンという床に着地する音が聞こえた。そうか、もう三十分たったのか。思いの外時間は進んでいたようだ。僕はそのキーホルダーを手にしながらものおとをたてた二人―――ミントと夜美の方を振り返った。
「ありがと、二人とも」
二人に礼を言う。廃ビルを離れる前僕は二人に三十分後僕の部屋に来る事を頼んだのだ。葵姉さんの事を語る為に。
「別に、それはいいんだけど……シュウイチ、あんた」
そこで、言葉を止めて僕の顔を覗きこむミント。なんだ?
「……秀一君、無理してない?」
次は夜美が尋ねて来た。なにが?と、問い返そうとした時夜美が自分の手を片方目のほうにやったのをみて気がつく。瞳が少し熱くなっていた。
「……ッ!!」
僕は顔を見られないように顔をふせてから横にふり涙を振り払って顔をあげる。
「大丈夫だ、ありがと」
「……なら、いいけど」
ミントはまだ訝しげに見ていたが納得してくれたようだ。
「……これから、話す事は全て真実だ。もしかしたら、二人は僕を軽蔑するかもしれない」
「そんなことあるわけ無いじゃない!!」
ミントが僕の言葉に真っ先に反抗するようにいう。
「もしかしたら、だ」
「そんなこと、無い!!」ミントはまるで駄々っ子のように首を横にふる。
「……ミントさん、秀一君の事本当に信じているのなら秀一君の話し聞いてあげるべきです?」
夜美がミントにいった。
「わたしは秀一君を信じていますし、秀一君の辛さが多分、分かっていると思います。この辛さは話してわたしたちがそれを受け入れた時多少なりとも軽減されるはずです」
ミントを諭すように語る夜美。僕はそれを聞いてそうなのかもしれない、と自分も気づいた。
「それに、秀一君は悪い人じゃない、わたしは信じています、ミントさんもそうですよね?」
「……そうね」
ミントは夜美の言葉に頷いた。
「二人ともありがとう。あれは、このキーホルダーを僕の従姉の葵姉さん―――結心葵さんと一緒に買いにいった日の帰り道の最中に起きた事だ」
僕はそのキーホルダーを見せながら事件の事を二人に話した。
僕達はあの後二人でゆっくりと町中をあるいていたんだ。もしかしたら、それが間違ってたのかも知れない。もう少し早く歩いていたら、もっとモールの中でゆっくりしていたら。いや、過去は変えられない。歴史に過去にifはないのだから。自分の運命を呪うしか無いのだ。
「ふふっ、今日はありがとね。シュウちゃん」
「べ、別に……オレがやりたかっただけだから」「そっか、でも、ありがと。明日一緒にこのキーホルダー着けて学校いこうね」
「うん」
オレは葵姉さんの言葉に頷いた。オレも楽しみだ。
そんな事を話しながら赤信号が変わり前に進もうとしたその時。
「うっ、ガハッ……ガハッ、ガハッ」
僕達の前を早足で歩きもう横断歩道を渡りきったサラリーマン風の男性が急に倒れこんだ。胸には血がドロドロと溢れだしていた。
「……ふっ、ふふっ、アッハハハ。死んだ、クフフっ、死んだ、シンダ!!殺した……アハハ、俺が……コロシタ!!」
その倒れた男性の横にドロドロの血でぬれた包丁を携えた二十代後半から三十代前半の男が狂ったように笑いながら高らかに叫んだ。
その瞬間その場にいた人全員の時間が止まったように感じた。しかし、それはコンマ何秒で次の瞬間にはここはパニックの渦になった。
「うわー――!!!!!!」
「逃げろ!!!!」
「キャー!!!!」
多くの人々がにげまどった。
「フハハハッ、苦しめ。コロス、ゼンイン、コロス」
男はまだ笑いながら目を大きく開けて舌なめずりをしながら言った。
「シュウちゃん!!見ちゃ、ダメ!!逃げるよ!!」
葵姉さんはオレの手をつかみ半ば強引にオレを振り向かせて走り出した。
「う、うん。分かった」
オレも急いで自分の足で駆け出す。
「アハハッ、シネ!!シネシネシネシネ!!!!」
男はまだナイフを振り回して人を刺している。刺された人はそれぞれ痛みで悲鳴をあげる。しかも、運悪く男はオレ達の逃げている方向に向かってきている。
「きゃっ!!」
「っ!?」
その時やや前方を走っていたオレよりも幼げな女の子が誰かにぶつかり転んだ。ぶつかった人は気づいていないのかそのまま逃げ去った。
「ハハハハッ……うん?ガキ?ガキもコロス」
恐ろしい笑みを浮かべ男が女の子に向かってきている。
「やっ」
女の子は恐怖で身がすくんでしまっているのか動かない。
それを見た瞬間オレは葵姉さんの手をはなして女の子の前に立った。
「シュウちゃん!?」
葵姉さんは驚いたように自分の手とオレを交互に見て立ち止まった。
「増えた、ガキ。コロス」
男はオレを見てさらに獰猛さを増して笑ってナイフを振り上げた。その目は笑いっぱなしの顔とは裏腹にまるでなにも写してないかのような暗闇に満ちた空虚な瞳だった。
オレは死を覚悟して目をつぶった。
………………
……………………
…………………………?
来るはずの痛みが数秒たってもやってこなかった。おかしいと感じオレはうっすらと目をあけた。
「………っ。はぁ、はぁ。大丈夫?シュウちゃん?」「なっ、あっ、あ、葵姉さん!!」
オレは目の前に立ち苦しげな顔で、それでもニッコリと笑っている葵姉さんの名を叫んだ。
「……アレ?殺した奴が変わってるまっ、いっか」
男はニヤツキながらナイフを葵姉さんから引き抜いた。
「うっ、シュ……ウちゃん。にげ……て」
葵姉さんは最後にそれだけ言うとパタリと膝から崩れ落ちて倒れた。
「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!」
オレは葵姉さんの体を揺さぶるが反応はかえってこない。
「ウルセェ、シネ」
男は少し不快感をあらわにしてナイフをオレに向けて、オレに向けて、オレに?
「うっ、うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
僕は全力で叫び拳を男の腹に半ば飛びつくようなかんじで殴った。
「ぐふっ、ガハッ!!」
男はそれで軽く後退し、腹を押さえる。どうやら鳩尾に入ったようだ。
「ガキが!!し―――」
体制を立て直しなおも向かって来ようとする男が急に地にふせて動かなくなった。
「やった」
見ると倒れた男の後ろから、スーツケースを抱えたサラリーマン風の男性がたっていた。どうやらそれで 頭を殴ったらしい。
「葵姉さん、葵姉さん!!!!」
僕はそれを一瞬だけ見て状況を把握し、葵姉さんの元に戻った。
「やだよ、ねぇ、何か言ってよ、ねぇ!!葵姉さ―――ん!!!!」
オレの叫びはいまだざわついているこの道に轟いた。
「その後、男は駆けつけた警察によって逮捕された。結局、死者は七人、負傷者は重軽傷あわせて十八人だったよ。動機については意味不明な言葉を繰り返しており精神鑑定もなされたがいたって正常。事件当時の責任能力はあると判断されて死刑が言い渡された。男もそれをのみ控訴しなかったのでこの事件は幕を閉じたんだ。まだ、死刑の執行はされて無いらしいがな。8年前であの地名。そして、通り魔。このワードでこの事件を思い出さない人の方が少ないんじゃないかな?まぁ、ミントはもとより、夜美も堕天使にいたころだろうから知らなかっただろうけどな」
僕は全てを彼女らに話した。
「…………」
僕の話を聞き二人とも黙りこむ。無理もない。殺人者を目の前にして……逃げたいんだろうな。軽蔑するんだろうな。
「……ははっ、僕の話を聞いて僕が最低な奴って分かっただろ?最低だろ?」
僕はいったん言葉を切る。
「……僕はミント達を苦しめたくない。嫌になったら逃げてくれたらいい。もし、堕天使に神から授かりし光の能力を奪われたくないのなら、僕はそれをどのように奪い取るか分からないけどミントと夜美の力で僕を異空間にでも監禁したらいい。どうする?」
僕はわざとらしく笑いながら尋ねてみた。
「シュウイチ……あんたね」
ミントが肩を震わせて僕を見る。怒ってるのかな?そりゃそうだ。今までこんな大切な事を隠してたんだから。
「シュウイチ!!見損なったわ!!」
そら、やっぱり。ふぅ……ミントの魔法で死ぬのならそれもいいかも。
「シュウイチはミント達の事をそんな風に思ってたなんて!!」
えっ?どういう意味だ?
「そんな事でなんでシュウイチの事を軽蔑しなきゃなんないのよ!!」
「……えっ?」
僕は自分に言われている言葉が理解出来ず間の抜けた声が出てしまう。
「そんなの、シュウイチはなにも悪くないじゃない!!」
「いや、僕がちゃんと、葵姉さんの言うとおり逃げていたら……そもそも葵姉さんをショッピングモールなんかに誘ってなければ……確かに葵姉さんを殺したのはあの男だ。でも、そんな風な運命に導いたのはあの時のバカは“オレ”だ。きっと葵姉さんはバカな“オレ”が生きているのをみて恨んでいるだろうな」
あえて、オレと言って自らを嘲笑ってみせる。
「で、でも、結果論でしょ?そんなの、シュウイチに予測できるわけ無いんだからきっとアオイだって恨んでなんかいないよ!!」
「いや、きっと、恨んで―――」
いるよ、と続けようとした僕の言葉を今まで黙ってた夜美がこう遮った。
「秀一君。本当に馬鹿なの?」
それは今まで聞いた事の無い夜美からの暴言だった。
「ちょっ、ちょっと、ヨミ?」
ミントも戸惑って夜美を見ている。
「秀一君。なに逃げてるの?そんなにビビリ君だったっけ?いい加減にして。わたし、あなたの事を勘違いしていたの?」
妙な迫力を醸し出しながら僕に迫る夜美。
「秀一君……恨んでいるとかそういうことを言うの止めてよ!!」
珍しく僕に怒声を浴びせる夜美。だが、そこから一転して急に大人しいいつもどおりの夜美の口調に戻った。
「ごめんね、秀一君。ちょっと、言い過ぎちゃった。でもね、それは無償に腹がたったからなの。だって、秀一君が昔のわたしみたいだったから。自分を見ているようだったから」
「えっ?」
僕は夜美を見つめる。ミントも黙って夜美の言葉を待っていた。
「わたしもね、お姉ちゃん―――彩愛お姉ちゃんがわたしを恨んでるんじゃないかって思ってた時がある。でもね、秀一君教えてれたじゃない。お姉ちゃんの気持ちを。だから、次はわたしが教えてあげたいの……でもね、多分今の秀一君にはわたしからの言葉だけじゃダメ。だから」
夜美は僕からミントに向きを変える。
「ミントさん、秀一君のふりをして夜の魔女宛に伝言鳩魔法を送って下さい。内容はこうです。『ある条件をのんでくれれば僕は堕天使に入ります。その条件は―――』」
僕とミントは夜美の作戦を聞いていく。その作戦は多少無茶なものではあったが今作れる最善の作のような気がした。
「分かったわ。試してみるかちはあるわね。シュウイチ……あんたもそれでいいでしょ?」
「正直、僕はもう会いたくなんて無い。でも、それで二人が納得するなら」
僕は自分の素直な気持ちをさらけ出した。
「じゃぁ、それでいきましよう」
「そうね」
ミント達は盛り上がって来たといわんばかりの笑顔をみせた。
「無駄だと思うけど……」
僕は小さくネガティブなそして事実であろう事を呟いた。
……遅い。約束の時間を十分も過ぎている。
僕は多少苛立ちながら夜の魔女 を待っていた。いつものなにへんてつ無い約束ならこんなに苛立ちなんかしないがこれから嫌な事があるという時は少しの時間の遅れでも腹がたつ。そもそも目立たない場所をと思い廃ビルを指定したのは僕らだが日時を指定したのはあっちだ。
でも、何かがおかしい気がする。たしかに夜の魔女は人を小馬鹿にしたようなしゃべり方をしている。しかし、彼女は賢いはずだ。そうでなくては幹部にまで上がるはずがない。これも……考えの内か?っ!!もしかしたら!!
「気配の察知」
僕は魔法を発動させるとともに気配に意識を集中させる。
……やはり。
「出てこい。そこにいるんだろ?」
僕は出来るだけ低い声で虚空を見つめながら威嚇するように喋る。
「あ〜あ、やっぱ見つかったか。魔法削除〜」
夜の魔女は僕が見つめている先から突如現れて地上に降り立つ。
「本当に僕が一人だけで来たのかを確認していた……というところか?」
「まぁね〜」
嫌味な笑みを浮かべる夜の魔女。
「そうだ、ひとつ聞きたい事がある。あの日、お前と初めてあった時、僕は葵姉さんらしき人を見たんだ。それも、お前の仕業か?」
夜美や石田達と遊び場に向かっている時の事を思い出しながらきを抜かないように問う。
「ふふっ、私にその質問に答えるか否かの選ぶ権利は無いのかな?」
「いいからさっさと答えろ」
僕はむきにならないよう気を付けながらはぐらかした答えの真意をあばくために先程よりも少し強い口調でいった。ここから、いや、僕がここに来た時から勝負は始まっている。ペースを乱されるな。
「分かったよ。答えてあげる。犯人は私だよ。意識を完全に奪ってコントロールしたんだ。君がどういう反応を示すか気になってね」
「やっぱりお前か」
僕はそれ以上あえてなにも言わなかった。ここで怒りをあらわにしても意味が無い。
「ところで、本当かな?君の出した条件は」
「そうだな」
ここから駆け引きが始まったと言わんばかりに顔を互いに引き締める。
「ふふっ、分かったわ。これ以上ここで駆け引きしても無駄みたいだしね。さっさと、やらないと嫉妬の炎の瞳みたいになっちゃうかもしれないしね」
一つ皮肉気味な笑みを再びした。
「……」
僕は睨み黙れというオーラを出す。
「くすっ。いくよ。禁術・死者の生誕」
彼女が魔法を放つと葵姉さんが現れる。だが、意識が無いのか目をつぶったまま微動だびしない。
「続けて、解放」
「……葵姉さん」
僕は喋りかける。夜の魔女との取引。それは葵姉さんともう一度話をすること。そして向こうからの条件として葵姉さんと話す時間は30分。そして、夜の魔女がずっと見張っている。この二つの条件で葵姉さんと会話が許可された。
「……また?」
葵姉さんは周りを確認して呟く。
「葵姉さん……僕が頼んで呼び出してもらった」
「シュウちゃん……」
葵姉さんが僕の顔を見る。
「うん、冨本秀一。ぼ―――いや、オレだ」
ここはあえてオレと昔の一人称を使った。
「シュウちゃん……大きくなったね。あたしのなかの記憶だとシュウちゃん、あたしよりも小さかったのに……なんだか変な気分。あたしよりも背が高くて年齢も上の人に姉さんって呼ばれるなんて」
そう言って、微笑むように笑った。確かに、高校生の僕が小学五年生の女の子を姉さんと呼ぶのはおかしなものだ。
「そうだね……葵姉さん。これ、覚えてるかな。」
僕は左ポケットから二つの、あのキーホルダーを取り出す。
「あっ、それって!!」
葵姉さんは目を輝かせる。
「うん、僕が葵姉さんの誕生日プレゼントととして買ったやつ……そして、葵姉さんが……葵姉さんが」
僕はその先がなかなか言えなかった。でも一度強く下唇を噛んで決意を決める。
「葵姉さんが死んだ原因の一つだよ」
「あっ」
葵姉さんは手を口にあてて今まで忘れていたような顔をする。
「そっか、あたしが殺された日ってそれを買いにいった日だっけ」
「うん」
少し寂しげな顔をした葵姉さんが呟く。夜の魔女は後ろでニタニタと憎たらしい笑みを浮かべている。
ふぅっ。なんだか辛い
「葵姉さん。聞かしてほしいんだ。どうして、あの時、僕なんかをかばったの?」
「……?どういう事?」
「あの時、僕が無謀な真似をしなければ葵姉さんは死ぬ事はなかったんだ。なのに、一緒に逃げようとしてくれた葵姉さんに背を向けて……結局葵姉さんに助けられて。なんで?僕なんかほって逃げればよかったのに」
僕の言葉に顔をふせる。暫くの間沈黙が訪れた。だが、ぽつりと葵姉さんがいった。
「……バカ」
「え?」
「バカだよ、シュウちゃん……答えはとっくにわかってるはずだよ?」
「どういう……事?」
ポカンとして僕はききかえす。
「じゃぁ、シュウちゃんはなんであの……女の子だったかな?あの子を助けたの?」
「……それは、体が勝手に動いて」
「だよね?それに、あたしが初めて魔法でよみがえらせてもらった時色々情報を貰ったんだけど……シュウちゃんあの日絡まれている女の人を無我夢中で助けたんでしょ?まぁ、それもあの人の作戦の一部だったみたいだけどさ、それでも、シュウちゃんがそういう心を忘れていなくて嬉しかったな」
「葵……姉さん?」
「ふふっ、あたしもシュウちゃんも同じだったと思うよ。目の前の人を助けたいっていう気持ち」
優しく微笑む葵姉さん。
「でも〜、そんな偽善な気持ちが〜結心さんを殺したんだよ。ね、冨本君」
「うっ」
今まで黙ってた夜の魔女が口を挟む。そして、事実であるが故にかえす言葉がない。
「あなたは、黙ってて!!」
「…………あまり、大きな口を叩かせたくはないんだけど、でも今は許してあげるわ。ここで結心さんを傷つけたら冨本君が仲間にならなくなっちゃうもんね」
嫌みな笑みを僕らに浮かべながら後ろに下がる。
「シュウちゃん、あの人の事はきにしちゃダメ。あのね、あたしの考える正義っていうのはね、自分が正しいと思ったことを貫き通すという事なの。例えそれが偽善であっても、他の人から見たら悪であったとしても自分が正しい、正義と思えば正義なんだよ」
「葵姉さん……」
葵姉さんの言葉に心が揺れる。
「で、でも、それのせいで葵姉さん、死んじゃったんだよ?僕が殺したようなものなんだよ?」
僕は涙が出そうになるのを堪える。
「シュウちゃん……それじゃぁ、一生のお願いって……死んだあたしが使っちゃダメかも知れないけど生きてる間に使えなかったから今、使っていいよね?お願い、あたしの正義を悪にしないで。シュウちゃんがふっきれてくれないとあたしはあたしが行った正義を信じられなくなっちゃう。だとしたらあたしは最期に悪を行った事になっちゃうの……そんなのイヤ!!あたしの為にあたしの行動を悪にしないためにシュウちゃんの行動を正義にして?ダメ?」
潤んだ瞳で顔を横に傾ける。
「……それが葵姉さんの本心なの?」
「そうだよ、もし確信が欲しいなら何か魔法をで確かめてみてよ」
「分かった」
僕はブツブツと呪文を呟く。
「見破る嘘」
一瞬視界が暗くなってから目を徐々に視界が回復していく。それと同時に葵姉さんの回りに青色のオーラが見える。夜の魔女は……オーラが見えない。あいつこっそりと魔法をなんだかの方法で防いでやがる。微妙に腹がたつ。
「それじゃぁ、葵姉さん。僕の質問に答えて」
「うん」
「葵姉さん……さっきの言葉は本当ですか?」
「うん、そうだよ」
すっと、僕は葵姉さんのオーラに意識をはらう。でも、オーラは青色で変わらない。もし、嘘をついていたら赤色に変わるのだ。それは嘘の濃度と言うべきか大きな、重大な嘘ほど真っ赤になっていく。逆に言えばどんなに小さな嘘でも探知しほんのりと赤色になるのだ。でも、葵姉さんのオーラはとてもきれいな青色だ。
「……魔法削除。ありがとう……」
僕は滲む視界の中から葵姉さんの瞳を探しだし優しく笑いながら礼をいった。なんだか、心が浄化されたような。今までこびりついていた錆びが無くなったような。とても大きい岩が崩れて川が流れ始めたような。そんな気分だ。
「ううん、あたしも、ありがとね、シュウちゃん」
葵姉さんは近づきながら笑顔をみせた。
「さて、と。お話はもう終わりでいいかな?約束の時間も来ているしね」
夜の魔女が小さくあくびをしながらたずねる。
「あぁ、もういい……葵姉さん、もう会えないかもだけど。バイバイ」
「うん!!シュウちゃん、その頑張ってね」
「行くよ?魔法削除」
夜の魔女の声に呼応して葵姉さんの体は透き通っていった。
「シュウちゃん、じゃぁね!!」
最後に葵姉さんさ大きな声をあげ僕の胸元に抱きついてきた。僕はその葵姉さんの頭を優しく抱いた。しかし、すぐにその感触もなくなり僕の両手は空を切った。
「さて、と。冨本君。仲間になってもらうからね。逃げ出しても無駄だから。その時は私の禁術魔法、嘘の制裁者で死んじゃうからね」
「あぁ、お前に嘘はつけないんだよな」
「あれ?知ってるんだ?夜の音から聞いたのかな?」
僕がその禁術を知っていたのが以外だったらしい。
「あぁ、教えてもらった。どんなささいいな嘘でもいいので嘘をついている場面を知っていたらその嘘をいった相手の元に悪魔のような生物が現れ魂を抜く魔法だろ?」
「正解〜」
「恐ろしい奴だな。この世界に嘘をついたことの無い人間などいないだろ?いたとしたらそいつは逆に嘘つきな人間以上に嫌いだな」
僕はなにくわぬ顔でそういい放ちポケットに手をつっこむ。
「そうだね。嘘は誰しもがつくからね。嘘がつけない人間、この場合は嘘をつくのが下手なのではなく嘘をつけない偽善者なんていてほしくないね」
「お前が言うか」
僕は皮肉気味に返す。こんな悪逆非道な奴なら偽善者のほうがまだましだ。
「君も人の事言えないんじゃないのかな?これからを裏切るんだから」
「そうだな……」
一瞬下を向く。財布と携帯と家の鍵だけが入ったポケットの中に入れてある手をさらに深く入れる。
「……行くよ」
憂鬱そうな顔をして夜の魔女に言った。
……だが僕の視線は彼女の後ろを見た。
「夜をまとう剣!!」
「……っ!!」
驚き後ろを向き剣をかわす。
「……っち。冨本秀一!!どういうつもり!!」
剣によって受けた肩の傷を気にしながら僕を睨む。一方剣を刺した本人である夜美は悔しそうな顔をして呟く。
「後、もうちょっとだったのにな」
「ゴメンね。後ちょっとだけ右側だったわ」
そんな夜美に謝るミント。
「どういう事よ!?私は確かにここに来たときいたのは冨本秀一だけだった。なのになんであんたたちがいるのよ!!」
喚く夜の魔女を鼻で笑って見せる。
「お前は魔法におぼれすぎてるんだよ。この世には便利なものがあるんだよ」
僕はポケットから携帯を開けた状態のまま出す。画面には『通話中』と書かれたものの下に『星野夜美』と書かれている。
「……まさか!!」
「正解。携帯で夜美とミントに連絡を取りミントの人体転移魔法でお前の後ろに行き夜美が攻撃する。まぁ、今回は致命傷を負わせられなかったけど十分だろ」
夜をまとう剣の性質は暗闇なら魔法発動者自信の姿も見えなくなり気配も消せるというものと傷をおった場所が三日三晩傷が無くならず傷は通常の2,3倍の痛みを感じる。これは天体の寿命が長い事とそして重力があるという事傷がすっと押され続けているような痛みを感じる。
「でも、馬鹿ね。私は冗談ではなく本気で使うっていうのに。禁術・嘘の制裁者!!」
夜の魔女が魔法叫ぶが……魔法は発動しない。
「なっ!!どうして!!」
戸惑う夜の魔女に僕は余裕の笑みを浮かべてみせる。
「その魔法はお前は僕が嘘をついている場面をしっていないとだめだ。ところでお前は僕が嘘をついている場面を知っているのか?」
「だからっ!!伝言鳩魔法で仲間に……!!そこでだました!!」
「正解」
僕は夜の魔女が導きだしたであろう答えに頷く。
「ミントは僕に“なりすまして”お前に伝言を送った。その際ミントは秀一だ、と名乗って嘘をついておらず悪魔でも僕風に書いたのをお前が勘違いしただけだ」
「くっ」
悔しそうな顔をする夜の魔女。
「これでチェックメイ――――――っ!!」
「っふふ!!ふふふふっ!!あははっ!!」
急に壊れたように笑い出す夜の魔女。その姿に僕たちに緊張が走る。
「もう、我慢ならない。あんたのその勝ち誇った顔」
笑いながら言ってくる夜の魔女。
「なにがおかしい?」
多少おびえながら尋ねる。
「もう、いいですよね?」
そこまで言って笑い声を止める夜の魔女。
「神から産まれた悪魔様!!」
「光の矢」
その瞬間僕の胸に光の矢が貫かれた。この矢は放った後も術者が魔法削除しない限り軌 跡が残りそこに触れるだけでも傷がつく。
僕はその光の軌跡をたどる。その軌跡は彼女の元にたどり着いていた。
「ど……うして」
「そんな!!」
僕達はそんな彼女に驚きの声をあげる。
「任務完了しましたよ、神から産まれた悪魔様」
「ご苦労様。これで三つの欠片は揃ったわ」
三つの欠片?何を言って……
「まず、貴方様がもっていらした地獄の欠片。神から産まれた悪魔。天界の欠片、神から授かりし光。そして、地上界の欠片、刃牙狼魔法こと生命の調整機。はい、三つそろいましたね」
なんだと……あれは、魔法なんじゃ。それに、なんで……
「面倒でしたね」
「そうね、まぁ、仕方無いけど……欠片を奪うには欠片をもつものが倒す。さらに、天界の欠片は地獄界の欠片をもつものが、地上界の欠片は天界の欠片をもつものが。それぞれ、魔法を当て先頭不能にさせなければならない」
「くっ!!」
僕は自力で立っていられなくなる。しかし、光の軌跡のせいで倒れる事はなくもたれ掛かるような形に落ち着いてしまう。
「っ、大丈夫!!」
呆然としていた彼女も慌てて僕の元にやって来る。
「もう、長居する必要も無いでしょ。行きましょう」
「はい」
ぐっ、どうしてだよ!!どうしてだよ!!
「ミントー!!!!!!」
僕は最後の力を振り絞って僕をいぬいた犯人、ミントの名を叫んだ。
「ふんっ、貴方との生活そこそこ楽しかったわ。もし、なぜ私がこんな回りくどい事をしたのか、その真実を知りたいなら生きてもう一度私の前に現れなさい、冨本秀一。生きていればだけどね。魔法削除」
「うっ」
支えを失い僕は倒れこむ。
「……では、行きましょう。人体転移魔法」
夜の魔女が告げて二人は消えていく。
なんでなんだよっ!なんでなんでなんだよっ!!
「ミントー!!!!」
僕は夜美が握ってくれている手を一度だけ強く握り返して叫んでから力尽きた。
次回予告
わたしには夢があった。でも、その夢はある人物によって打ち砕かれた。でも、悲しくはない。別の夢ができたから。だから、ねぇ。起きてよ。秀一君!!
次回、クリアライフ4.5―――夢―――お楽しみに。
「夜をまとう剣」




