別れの告白
朝陽が見えようとする時刻、一台の馬車が止まっていた。
東江春館の前には、東と柊生がいた。
「…本当に蝶子に会わなくていいのか?」「うん。蝶子さんに会っちゃったら、行きたくなくなっちゃうから」苦笑しながら言う東を、じっと柊生は見ていた。
「…お前の事、本当の息子みてぇに思ってた」「旦那は本当の息子とあんな事しちゃうの?」
「うるせーよ」柊生は東の頭を乱暴に撫でまわす。「ちょっとやめてよ」笑いながら東は口だけの抵抗をした。
「東君、そろそろ」と、東を買った男が声をかける「はあい」と大きな声で東は答える。
「……じゃあね、旦那。元気で」「お前もな」二人はそれぞれ声を掛け合うと、同時に振り返ってそれぞれの道を歩き出した。
しばらく歩いていると、向こう側から走る音が聞こえる。柊生はその足音の主を見ると、笑いながらすれ違った。
「…いってこい、蝶子」
心臓の音が聞こえる。激しく鼓動を刻んで、生きていることを主張している。
走れ、走れ。足がちぎれても良い。東さんのもとへ行かなきゃ。
必死に走っていると、先の方に馬車が走っているのが見えた。これ以上引き離されたら、声も届かない。蝶子は自分の出せる限りの声で叫んだ。
「東さん!!!!!!!」
東さん、と名前を呼ぶ声が聞こえた。まさかと思いながら後ろを向くと、蝶子さんが必死の表情で走っていた。「蝶子さん!?」思わず身を乗り出してしまった。
「わっ、私ッ…!」息も絶え絶えにして、蝶子さんは叫んだ。
「私!東さんがっ、東さんの事が、好きです!!!!!!」
息が止まった気がした。何かが込み上げてくる。
「私、待ってます!いつまでも、待ってます!また、逢える日まで、ずっと、ずっと!!!」
足がふらついて、思い切り転んだ。痛いだろうに、顔をあげて馬車を見つめていた。目が合った気がした。
そのまま馬車は走っていく。蝶子さんはあっと言う間に小さくなってしまった。頬に、涙が伝った。息が苦しい。蝶子さん、蝶子さん。繰り返しうわ言のように呟いた。
俺も好き、大好きだよ、蝶子さん。いよいよ抑えきれなくなって、大声で泣いてしまった。
全身が痛い。呻きながら起き上がる。朝陽が完全に上っていた。人々に怪訝な顔をされながら、気にも留めずに立ち上がった。涙が止めどなく溢れる。東さん、さようなら。と、小さく呟いた。




