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東の蝶  作者: 明夢 優深
奴隷と色子
32/33

別れの告白

朝陽が見えようとする時刻、一台の馬車が止まっていた。

東江春館の前には、東と柊生がいた。

「…本当に蝶子に会わなくていいのか?」「うん。蝶子さんに会っちゃったら、行きたくなくなっちゃうから」苦笑しながら言う東を、じっと柊生は見ていた。

「…お前の事、本当の息子みてぇに思ってた」「旦那は本当の息子とあんな事しちゃうの?」

「うるせーよ」柊生は東の頭を乱暴に撫でまわす。「ちょっとやめてよ」笑いながら東は口だけの抵抗をした。

「東君、そろそろ」と、東を買った男が声をかける「はあい」と大きな声で東は答える。

「……じゃあね、旦那。元気で」「お前もな」二人はそれぞれ声を掛け合うと、同時に振り返ってそれぞれの道を歩き出した。


しばらく歩いていると、向こう側から走る音が聞こえる。柊生はその足音の主を見ると、笑いながらすれ違った。

「…いってこい、蝶子」



心臓の音が聞こえる。激しく鼓動を刻んで、生きていることを主張している。

走れ、走れ。足がちぎれても良い。東さんのもとへ行かなきゃ。

必死に走っていると、先の方に馬車が走っているのが見えた。これ以上引き離されたら、声も届かない。蝶子は自分の出せる限りの声で叫んだ。

「東さん!!!!!!!」


東さん、と名前を呼ぶ声が聞こえた。まさかと思いながら後ろを向くと、蝶子さんが必死の表情で走っていた。「蝶子さん!?」思わず身を乗り出してしまった。

「わっ、私ッ…!」息も絶え絶えにして、蝶子さんは叫んだ。

「私!東さんがっ、東さんの事が、好きです!!!!!!」

息が止まった気がした。何かが込み上げてくる。

「私、待ってます!いつまでも、待ってます!また、逢える日まで、ずっと、ずっと!!!」

足がふらついて、思い切り転んだ。痛いだろうに、顔をあげて馬車を見つめていた。目が合った気がした。

そのまま馬車は走っていく。蝶子さんはあっと言う間に小さくなってしまった。頬に、涙が伝った。息が苦しい。蝶子さん、蝶子さん。繰り返しうわ言のように呟いた。

俺も好き、大好きだよ、蝶子さん。いよいよ抑えきれなくなって、大声で泣いてしまった。



全身が痛い。呻きながら起き上がる。朝陽が完全に上っていた。人々に怪訝な顔をされながら、気にも留めずに立ち上がった。涙が止めどなく溢れる。東さん、さようなら。と、小さく呟いた。


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