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東の蝶  作者: 明夢 優深
奴隷と色子
20/33

闇に沈む

こつこつと、廊下に足音が響く。蝶子は、複雑そうな表情で東江春館を歩いていた。

(東さんは、だいじょうぶでしょうか…。)

ふと、あの男の顔を思い出す。穏やかで、優しげな笑みを浮かべていた。柊生の言うとおり、蝶子も初めは騙されていた。その前の主人たちは、初めから蝶子を人とは思わずに接していたが、斉藤は違った。何もしない、害はないと言う風に近づき油断させ、本性を現し絶望に満ちた顔を見てほくそ笑む。幼少期からの歪んだ性癖らしい。

(東さんみたいな綺麗な人に手を出さないわけがない…。どうにか、しなきゃ)

でも、どうしたらいい?

堂々と思考を巡らせ、眉間に皺を寄せる。自分が奴隷だという事が恨めしい。自分が普通の人間だったら、東を守ることが出来たかもしれないのに。自分が普通の人だったら。

目じりに熱が集まる。慌てて頭を振り、耐える。

(私が泣いても仕方がない。今は東さんをどうやって守るか考えなきゃ)

受付の少年に声をかける。返事はすぐに返ってきた。

「…すみません、東は貴女には会いたくないそうです」

「え…?」

戸惑いを見せた後、はっとした。東に何かあったに違いない、と。

「すみません、東さんは最近誰と会っているかわかりますか?」

「教えることはできません」

「……そうですか。では、失礼します」

礼をし、出ていく。少年はその後ろ姿を見て、息を吐いた。


「…蝶子さんは、帰った?」

「はい。」

「そっか、ありがとう」

「失礼します」

少年が戻っていくと、東は床に横になった。

「ごめんね、蝶子さん」

呟かれた謝罪は、誰の耳にも届かない。

「ごめんね…」

傷だらけになった身体を抱きしめ、唸るように言い続けた。


とんとん、と襖が叩かれた。

「どうぞ」

「東様、お客様です」

「誰?」

「斉藤様です」

斉藤。その名前を聞いた瞬間、震えあがるのが自分でもわかった。

「…うん、通して」

少年に向かって微笑む東。彼の本心は、底に沈んでいった。


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