白玉団子の嫉妬
「蝶子さん聞いてよ!!」
「はい、なんでしょう」
いつもより上機嫌な東に少し不信感を抱きながらも、蝶子は彼の言葉に耳を傾けた。
「今日ね、俺の別の常連さんが、草団子を買ってきてくれたんよ!すっごく美味しくてね、どこで買ったのって聞いたら、手作りなんだって!でね、また作ってくれるって!」
その草団子の味を思い出したんだろう、嬉しそうに両手を頬にあて、うっとりと顔を緩ませる。
「…そんなに美味しかったのですか?」
「うん。もうね、蕩けるっていうか、食べたことない味っていうか!なんかねー、あの人、俺の好み凄いわかってるんだよねえ。最近は特に!俺の欲しいもの全部わかってるっていうか…」
両手を頬に当てたまま嬉しそうに話す東に、蝶子は少しむくれながら言った。
「…では、私が作ってきた団子はいりませんね」
「えっ?」
蝶子の冷たい声に、東はぞっとした。その体勢のまま、蝶子の事を見た。今まで視界の端に捉えていた蝶子を中央に見据えた。そしてその顔を見た。その顔は、今まで見たことのない顔だった。
むっつりと顔を顰めて、拗ねたような表情。まるで自分の物を奪われた子供のような顔だった。
「……蝶子さん?」
「良かったですね。その草団子を食べればいいじゃないですか。私の白玉団子なんて、その草団子の足元にも及ばないですよね」
「え」
徐に袖から包みを出し、それを広げる。中身は白玉団子だった。
「あっ…」
「いただきます」
丁寧に両手を合わせ、一つ摘まみあげる。丁寧に口に入れ、咀嚼する。
「…あの、それ、俺にじゃないの…?」
「東さんには『常連さん』の草団子があるでしょう?」
少し早口で言いながら白玉団子を口に放り込んでいく。その眼はじっと東を見つめている。非難するような瞳だった。
「…蝶子さん、八つ当たりは良くないよ」
「八つ当たりなんかじゃないです。ただ、嬉しそうに話す顔が憎らしかっただけです」
団子はあっと言う間に最後の二つになってしまった。
「…嫉妬」
ぼそりと呟かれた言葉に、蝶子の両肩がピクリと動く。団子に伸びた手も止まった。その隙に、東は包みごと団子を奪い取った。
「あっ」
その声には少しの怒気と動揺が篭っていた。
「図星なんだね」
「…何がですか」
「嫉妬したって事」
東は団子を一つ摘まむと、口に入れる。その視線は蝶子に注がれた。本人は少し震えながら、キッと口を結んだ。
「…そうです」
思ったよりも早い回答に、思わず団子をのみ込みそうになった。改めて蝶子を見つめる。泣きそうな顔をしていた。
「東さんが、私以外の方と仲良くしているのが…その、お仕事だってわかっていても、少し、嫌で…。すみません、私…」
「あー、いや、俺こそごめんね。というか、普通違うお客さんの話をするのは駄目なんだよね。蝶子さんにはつい色んな事を話しちゃうなあ。本当にごめん」
団子を地面に置いて謝る東に蝶子は少し動揺しながら言う。
「あ、東さん、頭を上げてください。私の所為なんですから…」
「ううん、俺も悪かったなって。…今度、草団子蝶子さんにもあげるね。」
「…はい、ありがとうございます」
少し不満げに、でも嬉しそうに、蝶子は言った。
「でも、たまには私の団子も恋しがってくださいね」
「……勿論です」




