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青空と白球と君

この恋は失われない

作者: 桐 暁

「あ……」


間抜けな声が出たのに、気付いたのは一瞬後。

目に入った光景が焼き付いて離れない2年の秋。






別に特に関わりはなかった。

1年の時のクラスメイト。私と彼を表す関係はそれだけ。

その時のクラスには4人も野球部がいて、さらにはマネージャーの葉山さんもいたから、クラスの大半が試合の応援に行った。

私のポジションは、良くてその中の一人。

最悪顔も名前も覚えられていない。むしろその可能性が高い。



今年の夏も友達と野球部の応援に行った。

みんなはノリだったけど、私は一人違った。

去年の夏、野球をする彼に恋をしたのだ。



別に野球に詳しいわけじゃない。9人必要で、あれがピッチャー、あそこがライト。打ったら走って、ベースを4つ回ったら点が入る。そんなお粗末な知識で、応援というよりもアミューズメントな気分。周りはみんな似たり寄ったりな雰囲気だった。

試合が始まって、クラスメイトが活躍するとみんな盛り上がる。

近くの女子は相手のピッチャーがカッコイイなんて騒いでる。

そんな中で私の視線は彼に釘付けになってしまった。

いつもクラスでは無愛想で不機嫌な顔しか見たことがなかった彼が怒ったり、笑ったり。

野球をしてる時はくるくると表情が変わるのだ。

それに恋に落ちてしまった。




それから特に何かあったわけじゃない。

クラスにいる時も必要以上に喋ったことはなくて、そのまま2年はクラスが離れてしまった。

今年も友達と連れ立って応援に行ったけど、去年よりもさらに人が増えた気がする応援席で別に目立つわけでもない。


ただ、見ているだけだった。

ただ、好きなだけだった。

野球をしてる彼が好きなのか、その時に変わる表情が好きなのか、自分でもよくわからないまま片思いの甘さに浸っていた。


そして、今。

もうすぐ冬が来る。

寒さが段々と増す今日この頃。

窓から見える光景は、一足早く私を氷づけにした。

彼は野球をしていないのに、くるくると表情を変えていた。


「あれー、成田と葉山さんじゃん!」

「そう、だね」


友人が私の横から身を乗り出し、眼下に広がる光景を見つける。


「やっぱあの二人って付き合ってんだ!ちょっと前にウワサになってたもんねー」


そんなの知らない。

友人が事もなげに言う言葉は私を停止させる。

でも、彼が彼女に向ける表情と彼女との距離から二人の関係は明らかだ。


「ぎゃー!今の見た!?成田のあんな顔見たことないよ。むしろコワイ!」


ケラケラと笑う友人に、相槌を打つ。

友人が態度を変えないところを見ると、私の表情はおかしくないのだろう。

声も震えてはいないだろうか。


行くよー、と窓を離れる友人。

もう一度二人を視界に入れる。


「失恋か」


チガウッ、ちがうっ、違うっ!


ぼそりと呟いた自分の言葉に心の中で反論する。

そう簡単にこの恋心を失えるわけがない。

心を変えられるはずがない。



二人から視線を外し、窓から離れて歩き出した友人の後ろに付いていく。

ふりむかないで、心の中で友人に願い、頬を一筋伝うもの――。




焼き付いた光景が、忘れられない。


“この恋は失われない”




失われゆく望み。

だけど恋心はそう簡単には失くならない。

“失恋”は“恋を失う”と書きますが、恋心はそんな簡単に消えない!という気持ちが書きたかったんです。

恋人になりたいとか、告白したらどうだろうみたいな期待や願いは叶わなくなりますが、恋する気持ちはそう簡単に変わらないと思います。

そんな感じが伝わったでしょうか?



主人公はその他大勢のうちの一人。

きっと誰かと誰かが付き合えば、一人くらい知らぬ間に失恋する人がいるんじゃないかと。




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