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第三話 狩り

 一気に加速したスライムは、ホーンラビットに真正面から突っ込んでいった。何の策略もなく、まっすぐである。ホーンラビットはすぐさま、自分に向かってくる敵に気付くと、自身もまた突撃した。きらりと輝く角。あわや、スライムは串刺しになるかと思われた。ゴブリンに叩き潰されたスライムと同様、このスライムもまた粉々に砕け散ってしまう――魔王スライムはそう確信する。しかし、そうなることはならなかった。


 スライムはホーンラビットの突進を上手くかわし、逆にその顔に張り付いたのだ。彼は薄く広がると、ホーンラビットの顔全体を覆い尽くす。

 視界をふさがれたホーンラビットは、どうにかスライムを引きはがそうと暴れる。しかし、ウサギの前足は短くできているため、スライムを上手くはがすことができない。ホーンラビットは床をのたうちまわり、壁に体当たりするものの、顔についたスライムははがれない。


 一方、スライムも必死だ。蒼い身体が心なしか紅くなっているように見える。床や壁に叩きつけられ、前足の爪で引っ掻かれようと、はがれるわけにはいかない。はがれたらそれでおしまいだからだ。蒼い身体がボロボロになろうとも、スライムは意地で堪える。

 そうしているうちに、ホーンラビットの動きが弱まってきた。そしてついに、パタリと横倒しになる。あとにはふわふわした灰色の毛皮と、紅のライフクリスタルだけが残された。


 スライムは勝利の証であるライフクリスタルを取りこんだ。すると身体が膨張し、ひと回りほど大きくなる。もともと魔王スライムより一回り大きかったスライムであるが、今では二倍以上はありそうだ。彼は大きくなった体をプルプルと震えさせながら、魔王スライムの方へと近づいて行く。


『ふう、なんとか成功したぜ……』


『なかなか上手いじゃないか』


『まあな、それじゃ俺は帰るぜ』


 スライムはそういうと、さっさと巣穴の方へと帰ろうとした。魔王スライムは慌てて彼を呼びとめる。


『もっと狩っていかないのか?』


『ああ、あんなの俺はもうこりごりだぜ』


 スライムは心底疲れたような声でそう言った。ライフクリスタルを取りこんで傷はすっかり治っているのにも関わらず、だ。魔王スライムは内心で「臆病者め」と思ったが、口には出さない。そうしているうちにスライムは去り、残された魔王スライムは獲物を求めて迷宮の中を進み始める。


 しばらく進むと、魔王スライムは先ほど見たのと同じホーンラビットを見つけた。彼は息をひそめると、ゆっくりホーンラビットの方へと近づいて行く。そして――。


「キュウッ!」


 魔王スライムはホーンラビットに突撃する隙を与えず、一気に顔にへばりついた。不意をつかれたホーンラビットは慌てて顔をブンブンと振り、前足で魔王スライムを払いのけようとする。まさに全身がバラバラになるような衝撃。それが魔王スライムを襲った。さながら、ホーンラビットが暴れ馬で魔王スライムはそれに跨る騎手といったところか。今の衝撃は、まさに暴れ馬を制するロデオによく似ていた。

 しかし、そうして堪えているとホーンラビットの動きは弱まってきた。そしてすぐに糸が切れたように横倒しになってしまう。魔王スライムはライフクリスタルと毛皮以外が消えたことを確認すると、紅の結晶を回収した。

 彼は紅の結晶をしげしげと眺めると、ゆっくりと取り込んだ。すると――


『うおおお!』


 全身を駆け巡る衝撃。脳を焦がす快感。

 もともとの力が小さいせいか、ライフクリスタルを取りこんだ感覚は凄まじいものだった。魔王スライムが魔王だったころには感じたことのないものだ。全身を力が満たしていき、幸福感が心を満たしていく。さながら、人間が使う麻薬にも匹敵する快楽だ。

 それが収まったころ、魔王スライムの身体は一回り大きくなっていた。魔王スライムは身体を膨らませると、満足げに笑う。


『ふふ、なぜスライムが狩りをしないのか理由がわからんな。素晴らしいではないか!』


 こうして、魔王スライムは続けて狩りに出ることとなった――。







 それから数時間後。スライム達は巣穴でのんびりと過ごしていた。基本的に、スライム族というのは空気に漂う魔力さえあれば生きていける。だから安全な場所さえ見つけてしまえば、彼らはずっとのんびり引きこもって居られるのだ。ゆえに、インテリスライムたちはその大半がほとんど巣穴から出ない者たちばかりである。昨日、魔王スライムを連れて帰ってきたスライムはあれでも、インテリスライムにしては勇気のある行動派なのだ。


 そんなスライム達の平和な巣穴を、ドンと軽い衝撃が襲った。まさか敵――スライム達は一斉に「ぷぎー!」と威嚇音を発する。すると出入り口の穴から、蒼い流体がのろのろと侵入してきた。やがてそれは小部屋の中心部へ移動すると、大きな楕円を為す。それはスライムのようだった。しかし、大きい。先ほど巣穴へ帰ってきたインテリスライムよりも、さらに二回りは大きかった。


『誰だお前!』


『ん、なんだ? 今朝あったばかりではないか』


『ま、まさか――!』


 聞き覚えのある声だった。スライム達は巨大スライムの正面に回り込み、その顔を確認する。そして、その愛らしい顔を大いにひきつらせた。


『新入り!!!!』


 巣穴に現れた巨大スライム、それは紛れもなく魔王スライムであった――。


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