part3:偽りの転入生
:7時50分
再び何時も通りの日常を繰り返す。辺りは見飽きるほど見慣れた風景。
そうしてこれから先も変わることなく日常が過ぎ去っていく。
そう、思っていた。
登校中。学校間近で走ってくる足音。
「幸ー!!おはよー!!」
息を切らせながら来たのは親友の安条瞳。
高校に入って仲良くなったクラスメイトだ。
「昨日どうしたの?メールしても返ってこないし」
「メール…?ごめん、気付かなかった…」
彼女のメールに気付かなかったとなると、地下のあの基地に居たときだろうか。
先生が教室に入ると、教室中が静まり返る。
その後に続いて入ってきた男に目を疑った。
「今日からこのクラスでお世話になります。浅香尚です。よろしく!」
教壇に立つ姿はどこからどう見ても、つい先日会った竹市小暮だ。
爽やかに笑っているが、幸里と目が遇った瞬間意味ありげに笑みをつくった。
昼休みのチャイムが鳴ると共に浅香殊小暮を引きずって屋上へ向かう。その際、険悪な空気の二人(主に幸里)に生徒達はそそくさと道を開け去っていく二人の姿を眺めていた。
その後ろで二人を見送る瞳の姿があった。
「…あんた、なんで此処にいる訳?」
ビシッと指を突き出し睨む。
まぁまぁと、宥めるように言うとカバンから缶ジュースが出す小暮。
「それ……何時買ったの?」
「あ、別に是で釣ろうとか思ってないから、ほんと」
「質問に答えてないから。ていうか、そーゆーつもりだった訳ね」
冷たい視線を向ける幸里から逃げるように視線を反らすと、小暮は座りだす。それに習って幸里も腰を下ろす。缶ジュースを受け取り両手で包み込む。
微かにひんやりと冷たさを感じながら静かに目を伏せた。
「俺が来たの、迷惑だった?」
そう問う小暮に応えることは出来なかった。沈黙を続けていると、小さく小暮は笑う。
「これは俺のただの自己満足。幸里を守りたいっていうさ」
その言葉に意味が分からないと眉を寄せ見やる。
「………なんで、昨日会ったばかりなのに…」
呟いた幸里の言葉に、うーんと唸る。
「なんていうか…棗に似てる気がしたからかな」
棗ってのはメンバーの一人で安条棗っていう奴な、という捕捉を入れる。
「!安条…?」
「そ、俺が此処に来たのもそれが理由。棗の妹、安条瞳って何年か前に死んでんの。多分親が死を受け入れられなくて、その伝手にでも頼んじまったんだろうな。棗は絶縁状態だったから知らなかったんだ」
小暮の言っていることが一切わからず唖然とする。
「伝手って…それに死んだ人間をどうしたら甦らせるっての!?」
「まぁ、落ちついて。そうだな…その辺は本部で聞いた方が分かるかな。今日行ける?」
また行くの!?と思いながら、中途半端に聞いてしまったためとても気になる。
仲間になるわけじゃないから、と念を押して考える。
「今日は部活が…18時半に終わるから、その後なら…」
遅くになるが親の心配はないだろう。
そう言うと、わかった、と頷き、
「じゃぁ部活、紹介してくれる?」
にこーと笑って言った。