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配当錬金の設計士 ―利回りで世界を再構築する男―  作者: Tone
第三章:炉は商いの中で試される

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第九話:火力は上げない

商会から呼ばれたのは、

前回と同じ部屋だった。


机の配置も、

帳簿棚の位置も、

何一つ変わっていない。


変わったのは、

人の数だ。


前は一人だった男の隣に、

もう一人、年嵩の男が座っている。


服は地味だが、

視線が鋭い。


「座ってください」


中間管理職の男が言う。


声に、

前のような迷いはない。


帳簿が、

二冊置かれる。


「商会連携、順調です」


それは、

事実だ。


「問題も、特にありません」


それも、

事実だ。


だが、

次の言葉は違った。


「だからこそ、次の段階に進みたい」


年嵩の男が、

口を開く。


声は低く、

よく通る。


「効率を、上げてください」


「具体的には?」


聞き返す。


年嵩の男は、

帳簿の一頁を指で叩く。


「回転を早める」


「在庫を、

 もう少し攻める」


「利益率を、

 明確にする」


どれも、

商会としては正しい。


「そのために」


中間管理職の男が続ける。


「運用を、調整してほしい」


調整。


その言葉の中に、

火を強めろ

という意味が含まれているのは、

明らかだった。


俺は、

少し考える。


「壊れます」


短く言う。


二人の男は、

顔を見合わせた。


「今は壊れていません」


中間管理職の男が言う。


「数字も、証明しています」


「今は、です」


俺は答える。


「火を強めれば、回転は上がる」


「利益も、一時的には増える」


「でも」


言葉を選ぶ。


「壊れる可能性が、跳ね上がる」


年嵩の男は、

腕を組んだ。


「それは、あなたの感覚ですか?」


「設計です」


即答する。


「感覚ではありません」


帳簿を開く。


派手な数字の頁ではない。

静かな頁だ。


「ここ」


指で示す。


「余白です」


「余白?」


「余裕、と言ってもいい」


「何か起きた時、吸収する場所です」


「ここを削ると」


帳簿を閉じる。


「一度は、きれいに回ります」


「その次が、保証できません」


沈黙。


年嵩の男は、

しばらく黙っていた。


「商会は、保証を買っているわけではない」


そう言って、

視線を上げる。


「利益を、買っている」


それも、

正しい。


「条件を、整理しましょう」


中間管理職の男が、

場を繋ぐ。


「利益が一定ラインを下回った場合」


「即時、運用を見直す」


「切る、という選択肢も含めて」


切られる。


それは、

予想していた。


「……一つ、提案があります」


俺は言う。


二人が、

こちらを見る。


「火は、強めません」


「その代わり」


少しだけ、

言葉を区切る。


「炉を一つ、増やす」


「増やす?」


「同じ設計で」


「別の場所に」


「火を強めるのではなく、

 数を増やす」


年嵩の男は、

眉をひそめた。


「回りくどい」


「壊れにくい」


即答する。


中間管理職の男が、

帳簿を見下ろす。


数字を、

頭の中で組み替えている。


「……利益は?」


「すぐには、増えません」


「だが」


「落ちにくくなります」


また沈黙。


年嵩の男は、

深く息を吐いた。


「商会は、即効性を好む」


「知っています」


「だが」


彼は、

中間管理職の男を見る。


「最近は、即効性が裏切ることも多い」


一瞬、

空気が変わる。


「試験運用は、続ける」


年嵩の男が言った。


「だが、結果は見る」


「もちろんです」


俺は頷く。


条件は、

良くも悪くもない。


だが、

一つだけ確かなことがある。


火を強めずに、

通した。


建物を出る。


外は、

いつも通りだ。


帳簿を開く。


――商会連携:継続

――変更:炉追加案

――評価:未定


「……分かりにくいな」


自分でも、

そう思う。


分かりにくいから、

残る。


俺は今日も、

火を足さない。


その代わり、

置ける場所を、

静かに探している。

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