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配当錬金の設計士 ―利回りで世界を再構築する男―  作者: Tone
第三章:炉は商いの中で試される

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第八話:数字は正しいが、納得できない

商会の帳簿は、嘘をつかない。


少なくとも、

数字の上では。


男は机に向かい、

指先で頁をめくっていた。


街道。

倉庫。

流通量。


どれも、想定通り。

いや、想定より少しだけ良い。


「……合ってるな」


誰に言うでもなく、

そう呟く。


問題は、

合いすぎていることだった。


「事故、ゼロ」


「滞留、想定以下」


「苦情、なし」


帳簿を閉じても、

違和感は消えない。


隣の席で、

若い商会員が声をかける。


「順調ですね」


「そうだな」


男は頷く。


だが、

声は重い。


「順調すぎる」


若い商会員は、

意味が分からない顔をした。


「悪くない、ですよね?」


「悪くはない」


男は、

言葉を選ぶ。


「だが、理由が見えない」


商会は、

理由を食べて生きている。


なぜ利益が出たのか。

なぜ損が出たのか。

次も再現できるのか。


「説明できない数字は、次に使えない」


それが、

商会の常識だった。


「設計士、でしたっけ」


若い商会員が言う。


「配当錬金の」


「そうだ」


男は、

その名前を口にしてから、

少しだけ黙る。


名前は覚えている。

だが、

顔を思い出せない。


「何をしているか、分かります?」


「……正直」


若い商会員は、

首を傾げる。


「よく分かりません」


それも、

正直な答えだ。


「帳簿を整えて、流れを詰まらせないようにしている、とは聞きましたが」


「それだけ?」


「それ以上は」


若い商会員は、

言葉を濁す。


「聞いても、説明されないので」


男は、

短く息を吐いた。


「だろうな」


説明しない。

主張しない。

成果だけが残る。


「厄介だな」


男は言う。


「普通は逆だ」


成果を誇り、

理由を盛り、

評価を取りに来る。


「彼は?」


「……取りに来ません」


若い商会員は、

少しだけ困ったように笑う。


「聞かれない限り、何も言わないそうです」


帳簿の数字を、

もう一度見る。


合っている。

どこにも問題はない。


「切る理由も、見当たらない」


「続ける理由も、説明できない」


その矛盾が、

机の上に残る。


「上に、どう報告します?」


若い商会員が聞く。


男は、

少し考える。


「……こうだ」


ゆっくり言う。


「数字は良好。再現性は不明。担当者の裁量が大きい」


「それって」


若い商会員が、

言葉を探す。


「丸投げ、ですか?」


「違う」


男は首を振る。


「観察だ」


判断を、

先送りにする。


商会にとって、

それは珍しい。


だが、

否定もできない。


「設計士には?」


「何も言うな」


即答だった。


「今は、何も変えない」


「はい」


会話は、

それで終わる。


その頃、

俺は街道の外れで、

帳簿を見ていた。


数字は、

いつも通りだ。


増えも、

減りもしない。


だが、

商会の欄に、

小さな印が付いている。


――確認中


評価欄は、

相変わらず空白だ。


「……面倒な段階に入ったな」


そう呟く。


数字が合っているうちは、

口を出されない。


だが、

納得されないまま回る仕組みは、

いずれ、

説明を求められる。


その時、

どうするか。


答えは、

もう決まっている。


「同じだ」


説明は、

求められた分だけ。


それ以上は、

言わない。


俺は今日も、

火を強めない。


ただ、

商会という大きな器の中で、

炉が歪まず回っているかを、

静かに確かめている。

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