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配当錬金の設計士 ―利回りで世界を再構築する男―  作者: Tone
第三章:炉は商いの中で試される

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第七話:商会は静かな数字を嫌う

商会の建物は、派手ではない。


石造りで、装飾も控えめ。

だが、やけに大きい。


大きいということは、

それだけ多くの金と人が出入りしているということだ。


入口で名簿に記入する。


名前の欄は空けたまま、

職業だけを書く。


――配当錬金。


受付の男は、

その文字を見て一瞬だけ視線を止めた。


だが、何も言わない。


「こちらへ」


案内された部屋は、

広いが落ち着かない。


机が三つ。

椅子が五つ。

壁一面に帳簿棚。


ここは、

判断が下される部屋だ。


先に来ていた男が、

俺を見る。


商会の中間管理職だろう。

服は上質だが、

どこか疲れが滲んでいる。


「……あなたが?」


問いは短い。


「そうです」


名は名乗らない。


男は頷き、

帳簿を一冊、机に置いた。


「街道沿いの倉庫」


ページを開く。


「回転率が安定している。滞留が起きない。事故報告も少ない」


どれも、

悪くない評価だ。


だが、

声に熱はない。


「利益は?」


「大きくはありません」


即答する。


嘘をつく理由がない。


男は、

やはり、という顔をした。


「ですよね」


商会は、

派手な数字を好む。


急激な成長。

一目で分かる利益。

誰が見ても成功と呼べる結果。


「正直に言います」


男は椅子に深く腰掛けた。


「あなたのやっていることは、非常に評価しづらい」


予想通りだ。


「数字が小さい。伸びも緩やか。リスクも、見えにくい」


見えにくい、というのは、

商会にとって褒め言葉ではない。


「ただ」


男は、

別の帳簿を取り出した。


「壊れていない」


その一言だけが、

少し違った。


「市況が荒れた日も、他が止まった日も、ここだけは回っている」


机の上に、

二冊の帳簿が並ぶ。


派手な方。

静かな方。


商会の人間は、

派手な方を見る。


だが、

静かな方を捨てきれない。


「お願いがあります」


男は言った。


お願い、という言葉を使ったことに、

自分でも驚いているようだった。


「一部、うちの流通に組み込めませんか」


完全な契約ではない。

試験運用だ。


「条件は?」


「利益が出なければ、切ります」


率直だ。


「評価は?」


「商会内では、

 評価しません」


功績にならない。


「名前も?」


「出しません」


また、

名前のない仕事だ。


俺は、

少しだけ考える。


悪い条件じゃない。

だが、

良くもない。


「分かりました」


答えると、

男は目に見えて息を吐いた。


「助かります」


それが本音だ。


商会は今、

安定を欲しがっている。


だが、

それを正面から評価する文化がない。


だから、

外から借りる。


責任を限定した形で。


建物を出る。


外は、

いつも通りの街だ。


何も変わっていない。


だが、

俺の炉は、

一つだけ、

別の場所に繋がった。


帳簿を開く。


新しい欄を作る。


――商会連携:試験運用

――条件:不明

――評価:対象外


「……相変わらずだな」


評価されない。

名前も出ない。


だが、

切れなかった。


それが、

商会の答えだ。


俺は今日も、

火を強めない。


ただ、

火がどこまで届いたのかを、

静かに確認している。

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