第五十話:揺れたまま
制度は動き始めている。
条文は壁に貼られ、
報告書の様式は統一された。
旗は規則通りに振られる。
制度参加区間は整然と進む。
南側第三は、後ろから出る。
遅い。
だが、列は途切れない。
朝、若者が帳簿を開く。
――余白:三割
――緊急対応:六件
――停止:なし
――評価:D
数字は変わらない。
「上がりませんね」
若者が笑う。
「上げるためにやっていない」
俺は答える。
倉庫の火は弱い。
揺れている。
強くすれば、利益は増える。
枠に入れば、優先通行もある。
それでも、三割は残す。
若者が言う。
「もう、聞かなくても決められます」
帳簿に、配分を書き込む。
雨の予報がある日は四割。
晴れが続けば二割に落とす。
急ぎが重なれば断る。
順番は、その日で変わる。
「設計は覚えましたか」
俺は聞く。
若者は首を振る。
「覚えていません」
「選んでいます」
うなずく。
火を見る。
弱い。
揺れている。
それでいい。
昼過ぎ、新商会の代表が来る。
「例外対応、助かっている」
若者は頭を下げる。
「枠があるから動けます」
代表は笑う。
「外があるから、枠が守れる」
言葉は交わらない。
だが、対立もない。
夕刻、街道を見渡す。
制度参加区間は速い。
南側第三は遅い。
それでも、止まらない。
若者が帳簿を閉じる。
「火は、誰のものですか」
最初に聞いた問い。
今は、迷いがない。
「持った者のものだ」
若者はうなずく。
「守る順番は、変わります」
「そうだ」
「変えてもいい」
火が小さく揺れる。
制度は完成に近い。
街道も整っている。
それでも、
揺れる場所は残っている。
俺は一歩、倉庫の奥に下がる。
帳簿は若者の前にある。
区間は若者のものだ。
火は弱い。
揺れている。
消えない。
街道は、今日も止まらない。




