第四話:剣士は一日で結果を出す
剣士が強いのは、分かりやすい。
朝、依頼を受ける。
昼、魔物を斬る。
夜、金を受け取る。
結果が一日で出る。
冒険者ギルドの前で、
ちょうどその「結果」が広げられていた。
「おい、見たか?」
「三体まとめて討伐だってよ」
掲示板の前に、人だかりができている。
羊皮紙には、赤い印が三つ。
討伐完了。
成功率、百。
剣士の名前が、
大きな字で書かれていた。
「さすがだな」
「やっぱ、剣だよ」
誰かが言う。
誰も反論しない。
俺も、反論しない。
正しいからだ。
剣士は強い。
魔物が現れた瞬間、
世界を守る。
拍手される理由が、
ちゃんとある。
「で、次は?」
剣士本人は、もう次を見ている。
昨日の成果は、
もう過去だ。
今日もまた、
斬る予定がある。
「忙しいな」
俺がそう言うと、
剣士は少し笑った。
「暇よりはいい」
その手には、
まだ血の匂いが残っている。
「結果が出るからな」
一日で。
確実に。
俺は頷いた。
「羨ましい?」
そう聞かれて、
少し考える。
「いや」
正直な答えだ。
剣士の一日は、
俺の一日より派手だ。
だが、
俺の一日は、
明日も同じ形で続く。
剣士は、
怪我をする。
魔物が出なければ、
仕事がない。
結果が出ない日は、
存在しないのと同じになる。
俺の仕事は違う。
昨日も。
今日も。
明日も。
何も起きなくても、
動き続ける。
「設計士は楽でいいよな」
冗談めかして、
剣士が言った。
悪意はない。
「戦わなくていいし」
「血も浴びない」
「失敗しても、死なない」
全部、事実だ。
だからこそ、
続く言葉も事実になる。
「でもさ」
剣士は肩をすくめた。
「すげえって感じは、しない」
それも、正しい。
派手じゃない。
一目で分からない。
今すごいのかどうかも、判断できない。
評価しづらい。
「E評価だしな」
笑いながら言う。
俺も、少し笑う。
「そうだな」
ギルドの中では、
評価が全てだ。
討伐数。
成功率。
貢献度。
数値は、
短い時間で出た結果を好む。
長く続くものは、
測りにくい。
「まあ、俺は剣振るわ」
剣士はそう言って、
次の依頼へ向かった。
背中はまっすぐで、
迷いがない。
俺は、逆方向へ歩く。
街道の方だ。
倉庫の前で、
帳簿係が軽く頭を下げる。
言葉はない。
だが、
通り道を空ける。
それだけで、
仕事は進む。
夕方、
銀貨が一枚、帳簿に加わる。
昨日と同じ。
今日も同じ。
剣士は今日、
三体倒した。
俺は今日、
何も倒していない。
それでも、
帳簿は少しだけ厚くなった。
「測り方が違うだけだな」
誰に言うでもなく、そう呟く。
剣士の強さは、
一日で分かる。
俺の価値は、
数日では分からない。
それでいい。
分からないものほど、
長く残ることもある。
俺は今日も、
火を足さず、
火を消さず、
ただ炉を見ている。
評価は、
まだEのままだ。




