第二十六話:余白とは何か
東側の倉庫から戻る途中、
若者が口を開いた。
「余白って、何ですか」
唐突だった。
「空いている場所だ」
俺は答える。
「それは分かります」
若者は首を振る。
「でも、みんな“余白を残せ”って言う」
「余白があると止まらない、と」
少し考える。
倉庫に戻り、
火を見る。
弱い火と、
強い火。
「余白は、時間だ」
俺は言う。
若者は黙る。
「荷が来てから動かすまでの、余裕」
「急ぎを受けない選択の、余裕」
「失敗しても立て直せる、余裕」
若者は火を見つめる。
「じゃあ、空いている場所そのもの?」
「違う」
「決められる余裕だ」
若者はゆっくりうなずく。
「余白がゼロだと」
「断れない」
「断れないと」
「次も断れない」
連鎖だ。
東側の強い火を思い出す。
「強い火は悪いですか」
若者が聞く。
「悪くない」
「余白を全部消さなければ、強くてもいい」
若者は少し笑う。
「じゃあ余白って、余裕のことですか」
「選択肢だ」
俺は言う。
「余白がある区間は、選べる」
「余白がない区間は、流される」
若者は黙る。
帳簿を開く。
――北側:余白多
――東側:余白中
――南側:余白多
――全体利益:揺れ
「増えすぎた余白は?」
若者が聞く。
少し考える。
「責任が分散する」
「誰も急がない」
「誰も引き受けない」
若者は小さく息を吐く。
「だから東側は戻したんですね」
「そうだ」
その時、外で音がした。
馬車が止まり、
怒声が上がる。
使いが駆け込んでくる。
「東側で接触事故です!」
若者が息をのむ。
帳簿を閉じる。
余白を減らせば、
事故は起きる可能性が上がる。
だが、
余白を増やせば流れは鈍る。
どちらも正しい。
どちらも不完全だ。
火は、
誰のものか。
余白は、
誰の責任か。
倉庫の外へ出る。
夜の街道が、
少しだけ騒がしい。




