第二十五話:速さを選ぶ者
東側の倉庫が、久しぶりに騒がしかった。
火が強い。
音も大きい。
荷の出入りが早い。
管理人は若い。
評価も高い。
「余白を戻しました」
開口一番、そう言った。
「事故は?」
俺が聞く。
「ゼロではない」
正直だ。
「だが利益は戻った」
帳簿を見せられる。
確かに数字は回復している。
南側と北側が一割落とした分を、
東側が補っている。
「急ぎも受けている」
若者がつぶやく。
「はい」
管理人はうなずく。
「全部は受けない。だが選ぶ」
火は強いが、
暴れてはいない。
「設計は捨てたか」
俺が聞く。
「いいえ」
管理人は首を振る。
「一部を戻しただけです」
倉庫の奥を指さす。
強い火と、
弱い火。
混ざっている。
「全部を弱くすると、街道が鈍る」
管理人は言う。
「全部を強くすると、壊れる」
その通りだ。
俺の設計は、
一つの区間を弱くするものだった。
だが今は、
全部弱い、あるいは全部強い。
どちらかに振れやすい。
「選んだのか」
俺が言う。
「はい」
迷いはない。
「安定と利益、どちらも捨てません」
若者が少し驚いた顔をする。
「そんなこと、できるんですか」
管理人は笑う。
「難しい」
「だが、やる」
その夜、帳簿を確認する。
――東側:急ぎ二件受理
――利益:回復傾向
――事故:小規模一件
数字はきれいではない。
だが、動いている。
若者が言う。
「設計は一つじゃない、ってことですか」
少し考える。
「設計は一つだ」
「だが、配分は一つじゃない」
余白をどこに置くか。
それが違う。
翌朝、商会の会議。
「東側の方式を、他も採用できないか」
声が上がる。
北側の管理人は渋い顔をする。
「余白が減る」
「だが利益は戻る」
議論が始まる。
誰も間違っていない。
それが一番、難しい。
倉庫に戻る。
火は強弱が混ざり始めている。
弱いだけでもない。
強いだけでもない。
若者がぽつりと言う。
「火は、誰のものなんでしょう」
その問いは、
軽くない。
俺のものでもない。
制度のものでもない。
広がった以上、
もう制御できない。
帳簿を閉じる。
――安定:維持
――利益:回復兆し
――設計:分岐
広がりは止められない。
止めるべきでもない。
だが、
方向は定まっていない。




