第二十四話:増えすぎた余白
最初に違和感を覚えたのは、
北側の倉庫ではなかった。
南側だ。
荷の流れが遅いわけではない。
止まってもいない。
だが、
妙に静かだった。
倉庫の管理人が肩をすくめる。
「最近、みんな“余白”を残すようになった」
火は弱い。
どの区間も。
「真似だ」
管理人は言う。
「急ぎを受けない。余白を作る。詰めない」
悪いことではない。
だが、
数字が落ちている。
「今月の取扱量、一割減だ」
帳簿を見せられる。
確かに減っている。
事故は減った。
滞留も減った。
だが、
全体の回転が鈍い。
「何が問題だ」
俺が聞く。
「全員が同じ速度で走っている」
管理人は答えた。
「速い区間がなくなった」
それは想定していなかった。
俺の設計は、
“無理をしない区間”が一つあることを前提にしていた。
他が速く、
一部が安定する。
その差で全体が回る。
だが今は、
全員が安定を選び、
全員が遅くなっている。
同じ速さということ。
若者が隣で言う。
「悪いこと、ですか」
少し考える。
「悪くはない」
「でも?」
「設計が違う」
倉庫の奥では、
弱い火が並んでいる。
揺れていない。
だが、
勢いもない。
午後、商会から使いが来る。
「最近、利益が落ちています」
当然だ。
急ぎを断れば、
単価は下がる。
「事故は減っています」
若者が言う。
使いはうなずく。
「それは分かっています」
「ですが」
ここで言葉が止まる。
「利益も必要です」
その通りだ。
街道は慈善ではない。
夜、帳簿を開く。
――北側:安定
――南側:安定
――東側:安定
――全体利益:減少
安定は増えた。
だが、
設計の前提が崩れている。
若者がぽつりと言う。
「みんな、正しいことをしているのに」
その通りだ。
正しい。
だが、
同じ。
火は弱いまま並ぶ。
誰の火でもない。
誰の責任でもない。
そのはずだった。
俺は初めて少しだけ迷った。
余白は、
増えすぎても良くない。




