第二十三話:数字にならない変化
三日後、若者は評価札を持ってきた。
端が少し欠けている。
「下がったか」
「いえ」
若者は首を振る。
「変わりませんでした」
予想外でも、ない。
「急ぎを断った件は?」
「記録されています」
「だが減点はない、と」
若者はうなずく。
「理由は分かるか」
少し考える。
「……代わりに別の区間が受けた」
「そこが詰まりました」
「事故が一件」
帳簿をめくる。
北側は変わらず安定。
若者が断った夜、
街道全体の滞留はわずかに増えた。
だが、翌日には戻っている。
「評価は、討伐と依頼成功で決まる」
俺は言う。
「街道全体の安定は、直接は見ない」
若者は静かに聞いている。
「それでも…」
少し間を置く。
「記録は残る」
ギルドの掲示板に、
小さな張り紙が出た。
北側区間:三ヶ月無停止
事故減少傾向
監視継続
誰の功績とも書いていない。
だが、空白ではなくなった。
若者はそれを見て、
少しだけ笑った。
「名前はないですね」
「ない」
「でも、消えてもいない」
その通りだ。
制度は動いていない。
評価も変わらない。
街道保安維持案も、保留のまま。
だが掲示板には、
“止まっていない”という事実だけが貼られている。
夜、倉庫に戻る。
若者が言う。
「評価は上がらない」
「たぶん」
「でも、前より焦らない」
それが変化だ。
名前はついていない。
そう、それでも選択は残っている。
帳簿を開く。
――見習い:急ぎ拒否×1
――評価:D(変動なし)
――北側:無停止継続
火は弱いまま。
制度は、まだ空白を埋めていない。
だが空白の周りに、
小さな数字が増え始めている。
測れないものは、
すぐには評価にならない。
だが、
記録には残る。
街道は今日も止まらない。




