第十七話:利便性とその重み
会議の席が一つ増えていた。
俺のためではない。
商会Aの若い担当者が、
新しく加わっている。
「急ぎの案件ですが」
その男は、
紙を差し出す。
「今週中に回したい」
「余白は?」
中間管理職が聞く。
「使い切っています」
「設計士側は?」
自然に視線がこちらに向く。
「余白はあります」
答える。
若い担当者の眉が、
わずかに動く。
「では、こちらに回せますね」
「回せます」
少しだけ間を置く。
「急ぎは、受けません」
空気が止まる。
若い担当者が、
顔を上げる。
「急ぎです」
「知っています」
「今週中に必要です」
「条件が合いません」
淡々と答える。
「なぜですか」
「余白を削ると、次が詰まります」
若い担当者は、
苛立ちを隠さない。
「前提になっている以上、柔軟に対応してもらわないと」
その言葉に中間管理職が視線を落とす。
「前提は、止まらないことです」
俺は言う。
「急ぎを通すことではない」
若い担当者は、
小さく舌打ちした。
「面倒だな」
誰に向けた言葉か、
曖昧だ。
会議は少しだけ長引く。
結局急ぎは別の区間へ回された。
数字は、
そちらで落ちるだろう。
会議後、
廊下で声が聞こえた。
「設計士がいると、判断が重くなる」
若い担当者の声だ。
「だが、止まらない」
中間管理職の声は、
低い。
「急ぎの件が通らない」
「止まるよりはいい」
沈黙。
「……便利だが、扱いづらい」
その言葉が、
一番近い。
倉庫に戻る。
帳簿係がこちらを見る。
「何かありましたか」
「急ぎを断った」
「文句は?」
「少し」
帳簿係は、
苦笑した。
「嫌われますね」
「知っています」
前提になるということは、
判断の基準になるということだ。
基準は、
自由を減らす。
自由が減れば、
不満が出る。
夜、
帳簿を開く。
――急ぎ案件:拒否
――影響:軽微
――評価:変動なし
評価は、
やはり動かない。
だが、
空気は少し変わった。
便利なものは、
軽い方がいい。
だが、
軽いものは壊れる。
俺は重いままでいる。
火を強めない。
急がない。
止まらない。
それだけが、
前提だ。




