第十六話:同じ火、でも違う火
北側倉庫からの使いが来たのは、
炉を置いて三日後だった。
慌てた様子ではない。
だが、
歩幅が少しだけ早い。
「管理人が来てほしいと」
「止まりましたか」
「いえ」
少し間があった。
「……止まりかけました」
倉庫に着くと、
管理人は入り口で腕を組んでいた。
顔に怒りはない。
だが、
納得もない。
「入ってくれ」
中に入る。
炉は、
確かに動いている。
火は弱い。
揺れていない。
「何がありました」
「急ぎの荷が二つ重なった」
「受けましたか」
「受けた」
即答だった。
「断れませんでした」
「なぜ」
「向こうが、前提にしていた」
その言葉に、
少しだけ頷く。
前提。
便利で、
重い言葉だ。
「余白は?」
「使った」
「全部?」
「全部だ」
俺は、
炉を見る。
火は弱いまま。
設計は変わっていない。
「設計は崩していません」
管理人が言う。
「だが、詰まった」
「設計は崩れていません」
もう一度、同じことを言う。
「崩れたのは?」
管理人は、
言葉に詰まる。
「……判断か」
「はい」
同じ設計でも、
扱いが違えば結果は変わる。
「急ぎは、受けない前提でした」
「だが断れない」
「断れないなら、余白を戻す」
管理人は、
黙る。
「数字が落ちる」
「落ちます」
否定しない。
「評価も?」
「変わりません」
管理人は、
しばらく火を見ていた。
「お前は、どうして断れる」
少しだけ、
声が低くなる。
「最初から期待されていないからです」
管理人は、
苦笑した。
「便利だな」
「不便です」
本音だ。
評価が低いから、
急がされない。
急がされないから、
崩れない。
崩れないから、
前提になる。
循環だ。
「じゃあ、どうする」
「急ぎを一つ戻す」
「どちらを」
「条件の軽い方を」
管理人は、
深く息を吐いた。
「文句が来るぞ」
「来ます」
「責任は?」
「あなたです」
同じ答えだ。
管理人はしばらく黙った。
そして、
うなずいた。
「戻す」
その一言で流れが変わる。
夕方、
帳簿を確認する。
北側の数字は、
少し落ちている。
だが、
止まってはいない。
管理人が小さく言う。
「楽ではないな」
「楽ではありません」
「儲かるわけでもない」
「少しだけです」
管理人は苦笑した。
「真似するだけじゃ、足りないか」
「はい」
設計は、
形だけでは足りない。
扱いまで含めて、
設計だ。
夜、
倉庫に戻る。
帳簿を開く。
――北側倉庫:余白再設定
――急ぎ:一件戻し
――結果:安定
評価欄は、
やはり空白だ。
同じ火でも、
同じにはならない。
違うのは、
火ではなく、
決める側だ。
俺は、
火を強めない。
代わりに、断る。
それだけで流れは変わる。
街道は、
今日も止まらない。
少しだけ、
そう、少しだけ遠回りをして。




