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配当錬金の設計士 ―利回りで世界を再構築する男―  作者: Tone
第五章:前提として置かれる炉

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第十五話:設計の複製

朝、

帳簿係がいつもより少し早足で倉庫に入ってきた。


紙束を抱えている。

それだけで、

雑談ではないと分かる。


「北側の倉庫から、問い合わせです」


「内容は?」


帳簿係は、

一瞬だけ言葉を探した。


「……炉の置き方について」


それを聞いた時点で、

俺は察する。


評価でも、

契約でもない。


模倣だ。


「説明は?」


「向こうで、同じことをしたいそうです」


同じこと。


誰も「真似」とは言わない。

言わなくても、

意味は通じる。


昼前、

北側倉庫の管理人が来た。


顔は知っている。

街道の荷のやり取りで、

何度も見かけた男だ。


年は、

俺より少し上だろう。


「座っていいか」


「どうぞ」


男は腰を下ろし、

倉庫の中を一度だけ見回した。


「……静かだな」


声は低い。


褒めているのか、

確認しているのか、

判別しにくい。


「最近、こっちは止まらないらしいな」


「ええ」


否定はしない。


「うちは、たまに詰まる」


「いつ?」


「急ぎが重なった時だ」


「減らせませんか」


「減らせない」


即答だった。


「だから、同じやり方を」


ここで、

はっきり言っておく。


「急いだまま、同じにはできません」


男は、

少し黙った。


視線が、

床に落ちる。


「……条件は?」


条件、

という言葉を使う。


商会と、

同じだ。


「火を弱くする」


「回転を詰めない」


「余白を残す」


男は、

眉を寄せた。


「それだと、数字が落ちる」


「落ちます」


はっきり答える。


「だが、止まりにくくなります」


「評価は?」


「変わりません」


「責任は?」


「あなたです」


言い切る。


男は、

深く息を吐いた。


「……全部か」


「全部です」


「保証は?」


「ありません」


少しも迷わず、

同じ答えを返す。


男は、

椅子の背にもたれた。


「それでも、やる価値は?」


「止まりたくないなら」


それ以上は、

言わない。


説得もしない。

背中も押さない。


男は、

しばらく黙っていた。


倉庫の外で、

馬車の音がする。


いつもの音だ。


「設計図は?」


「口頭で」


「書かないのか」


「書くと、調整しなくなります」


男は、

小さく笑った。


「面倒だな」


「壊れにくいです」


午後、

北側倉庫へ向かう。


道すがら、

男は何も話さない。


倉庫に着くと、

中を見回す。


「……詰めてるな」


「どれくらい?」


「半分」


男は、

思わず振り返った。


「半分?」


「はい」


「それで回るのか」


「回ります」


「儲かるか?」


「少しだけ」


男は、

首を振る。


「普通は逆だ」


「普通は、壊れます」


炉を置く場所を決める。


火は、

弱い。


管理人は、

しばらく黙って

それを見ていた。


「これで?」


「これで」


特別な作業はない。

儀式も、

契約もない。


ただ、

置いただけだ。


夕方、

元の倉庫に戻る。


帳簿を開く。


新しい行が、

一つだけ増えている。


――北側倉庫:試験運用

――条件:同設計

――責任:先方

――保証:なし


評価欄は、

相変わらず空白だ。


夜、

街道を見る。


いつもと、

何も変わらない。


だが、

確かに違う。


同じ設計が、

別の場所で

使われている。


俺は、

それを数えない。


数え始めたら、

管理になる。


管理になると、

火を強めたくなる。


それは、

やらない。


今日も、

止まらない。


どこで、

誰の責任で、

止まらないのか。


それだけが、

増えていく。

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