第十二話:選ばなかった先で、何が起きるか
街道が、少し騒がしくなった。
音の数が増えたわけじゃない。
人が増えたわけでもない。
ただ、
止まる時間が増えた。
「……またです」
帳簿係が、
昼前にそう言った。
「北門側で、荷が詰まっています」
「原因は?」
「急ぎすぎ、だと思います」
急ぎすぎ。
それは、
商会Bの匂いだった。
街道の分岐で、
馬車が三台、止まっている。
御者同士が、
声を荒げていた。
「予定より早いって言われたんだ!」
「こっちもだ!」
「順番を詰めろって、上から!」
上。
誰が言ったかは、
聞かなくても分かる。
俺は、
少し離れた場所から
様子を見る。
介入は、
しない。
理由は二つ。
一つ目。
これは、
俺の仕事じゃない。
二つ目。
直すと、原因が隠れる。
しばらくして、
無理に順番を詰めた馬車が
動き出す。
一台が、
角で止まった。
荷が、
崩れかけている。
「おい、待て!」
声が飛ぶ。
結局、
全体が止まる。
一時的に
回転を上げた結果だ。
「……出たな」
独り言のように言う。
夕方、
商会Aの中間管理職が来た。
顔に、
いつもより疲れがある。
「最近、街道が少し荒れている」
切り出しは、
遠回しだ。
「ええ」
否定しない。
「あなたの所は?」
「いつも通りです」
それも、
事実だ。
男は、
少し黙る。
「別の商会が、同じことを始めた」
「聞いています」
「……結果が、違った」
声が低くなる。
「数字を追いすぎた」
「余白を、削った」
言葉は、
慎重だ。
だが、
内容ははっきりしている。
「こちらに、影響は?」
男は聞く。
「直接は、ありません」
即答する。
「ただ」
少しだけ、
言葉を足す。
「回り道は増えます」
「回り道?」
「急いだ分、止まる」
「止まった分、迂回する」
「結果として流れは乱れます」
男は、
深く息を吐いた。
「こちらが正しかった、という話ではない」
そう前置きしてから、
続ける。
「だが、あなたのやり方は“説明できなかった”」
「はい」
「今は、少しだけ説明できる気がする」
それ以上は、
言わない。
評価が上がったわけじゃない。
契約が変わったわけでもない。
ただ、
言葉の重さが変わった。
男は、
帰り際に言った。
「当面、今のままで」
「分かりました」
それだけで、
話は終わる。
夜、
帳簿を開く。
数字は、
相変わらず小さい。
増えもしないし、
減りもしない。
だが、
別の欄が増えている。
――街道全体:乱れ
――影響:軽
――自炉:安定
「……そうなるよな」
選ばなかった結果は、
直接は返ってこない。
だが、
周囲の揺れとして届く。
俺は今日も、
火を強めない。
揺れが来た時に、
吸収できるように。
それだけを考えて、
炉を見ている。
第四章は、
もう一つだけ話が残っている。
次は、
揺れの中で、
誰がこちらを見るかだ。




