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流転、魔王子  作者: 川田てんき


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 ルシウスはネクロムの姿をした()()()に剣を向けたまま言った。


「デアドロ、玉座の間で胸に剣を突き刺した瞬間に、おまえが肉体を捨てて逃げたのは気づいていたぞ。だが、勇者たちが乗り込んできた混乱で、不覚にも行方を見失ってしまったのだ。しかし、おまえもうかつに動けず、ネクロムに憑依してやり過ごすつもりだったんだろう? おまえはネクロムに気づかれずに憑依したつもりだろうが、ネクロムはおまえに気づいて俺に知らせてくれたぞ」


「そうか、あのとき、魔王が死んでも自分の体の中で生きているとかなんとか言ってたな(*第3話)。しかし、気づいていたなら勇者どもに助けを求めれば、わしを倒せたかもしれんぞ」


「おまえを倒すのはおれだ。さあ、ネクロムの体からとっとと出てこい。言っておくが、この魔剣は霊体だろうと切り裂くことができるから覚悟しろ」


「く、たしかにその魔剣はやっかいだな。今この体で闘うのは不利か……」

 そう言うなり、あたりが闇に包まれた。


「しまった。ネクロムの術を。逃げるな」


 どこからかデアドロの声がこだまする。「ルシフォーンの息子よ。今日のところは生かしておいてやろう。だが次は容赦せぬから覚悟しておけ」


 黒い霧が晴れ、デアドロの気配も消えた。あとには地面に倒れたネクロムだけが残された。


 ルシウスがかけよると、弱々しい声でネクロムが言った。「ルシウス様……」


「すまなかった。おまえが命をかけてくれたというのに、やつを逃がしてしまった」


「よいのです。ですが約束してくだされ。いつか必ずやつを倒すと。わたしはもうお供できそうにありませんが……」


「そのようなことを言ってはならぬ」


 ネクロムはなにかを言おうとして咳き込み、その顔からはどんどん生気が失われていった。


「ネクロム、しっかりしろ。ネクロム」


――ああ、魔神でも人間の神でも誰でも良いから力を貸してくれ。


 そのときルシウスの額からまばゆい光が放たれた。その光がネクロムを包み込む。


◇◇◇


 どのくらいの時間がたっただろうか。ネクロムが目を開けると、必死に自分を呼ぶルシウスが見えた。


「王子、いったいなにがあったのですか?」


 ルシウスは、いつの間にやら傷が回復しているネクロムを呆然として見つめた。あの光はすでに消えていた。


「突然おれの額から出た光が、おまえの傷を治した……らしい」


「それは、あのヒーラーの娘の力でしょうな。おそらくなんらかの福音……」


「別れ際にあの娘がおれの額にした口づけか」


「はい、しかし、これほどの力とは。それに、まるでこうなることを予期していたかのような。とすれば、もしや我々の正体も⁉ あの娘は一体……」


「そんなこと、今はどうでもよい。おまえが無事なら」ルシウスは涙を流しながら言った。


「王子、人前で泣いてはならぬとあれほど」だが、ネクロムも涙で言葉がつまり、その先は言えなかった。


 思う存分泣いてから、二人は泉で顔を洗い、馬に乗った。


「さて、これからどこへ向かいましょう」ネクロムが尋ねた。


「そうだな、悔しいが今の俺ではまだこの魔剣を使いこなすことができないようだ。かといって俺たちふたりにはほとんど魔力も残っていない。だから、俺は旅をして剣術を学ぼうと思うのだ」


「なるほど。よいお考えです」


「というわけでな、もうしばらくおれと一緒に旅してはくれぬか」


 それを聞いてルシウスはうれしそうに笑った。「当たり前ですとも。このネクロム、王子がいやと言ってもついて行きますぞ」


 だが、ネクロムがその言葉を言い終わらないうちに、もうルシウスの馬は駆け出していた。「遅いぞ、ネクロム」


「ああ、王子、お待ちくだされ」


 ネクロムは慌てて馬の脇腹をけり、ルシウスを追いかける。


 長かった夜がようやく明けた。二人の乗った馬は、爽やかな朝の光の中を軽快に駆け抜けていった。(完)

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