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ネクロムとルシウスは馬に乗り、魔王城を取り囲む広大な森を勢いよく駆け抜けた。
森の外れにある泉までやってくると、馬から下り、馬に泉の水を飲ませた。
「ルシウス様、そろそろ『闇の霧』の効力が消えた頃でしょう。しかし、これだけ離れれば勇者どもが追ってくることもありますまい」
「うむ」とルシウスは返事をした。
その表情は引き締まり、眼光は鋭く、先ほどまで玉座の間でめそめそしていた面影はない。
「ネクロムよ、我が父、魔王ルシフォーンが憎きデアドロに殺されてから今日まで、おまえには苦労をかけた」
「なにを他人行儀な」
「この魔剣に魔力を込めるため、かつてルシフォーン魔王軍最強と言われたおまえは、魔力のほとんどを失ってしまった。本当にすまないことをした」
「そんなことお気になさいますな。このネクロム、魔力どころかこの命さえも捧げる覚悟はできておりました。しかし、もはやわたしが使えるのは『闇の霧』くらい」
「なにを言うか。あの術で、魔王城にいる者たちに、おまえが四天王の一人だと錯覚させたおかげで、楽々と玉座の間にたどり着くことができたのではないか。そして勇者たちにも、デアドロの胸を刺し貫いたのがおれであることを疑われずに済んだのだ」
「しかし、わたしにもっと魔力があれば、あんな勇者どもなど蹴散らしてやったものを。王子にもつまらぬ芝居に付き合わせてしまい、面目ありません」
「気にするな。それよりな。ここまで来れたのはおまえのおかげだ。父の死後、まだろくに言葉もしゃべれぬ幼子だったおれを、今日までよく導いてくれた。心から礼を言うぞ」
「なんともったいないお言葉。そのお言葉だけですべてが報われますぞ」
「おまえに育てられて本当に幸せであった」ルシウスの頬に一筋の涙が伝った。
「次期魔王となられるお方が涙などみっともないですぞ」ネクロムはそう言って、ルシウスの姿を目に焼き付けるように見つめた。
ネクロムは、頼もしく成長したルシウスの姿に目を細め、それから小さくうなずいた。
次の瞬間、ルシウスの漆黒の剣がネクロムを切り裂いていた。「許せ、ネクロム」
「王子、お、お見事です……」ネクロムは今にも消え入りそうな声で言った。
だが、その直後、ネクロムの口から不気味な声が発せられた。
「ルシフォーンの息子よ、いつ気づいた?」




