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流転、魔王子  作者: 川田てんき


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「貴様、なんのまねだ」ネクロムが気色ばむ。


「つまり、こういうことだろ。魔王を殺した犯人はわからんが、次の魔王はその息子だよな。なら、息子を殺せば報奨金が手に入るってことさ」


「それは無理よ」エレーナが言った。


「え?」


「あれはあくまで魔王の報奨金だから、息子を殺しても魔王の分を請求することはできないの」


「でもこいつが次の魔王になるんだろ?」


「それでも、まだ魔王になっていない子を殺したら、こっちが罪に問われるかも」


「ぐぬー」アイクは苦々しげにルシウスを睨みつけた。


「そういうことじゃ」ネクロムはルシウスを促し、悠然とした足取りで歩き出した。


「ちょっと待って」ラースが口を開いた。

「この子はまだ子供だ。この先魔王になるかなんてわからないだろ。まずはぼくの屋敷であずかって面倒をみてやろう」


「言っていることは間違ってないのかもしれないけど、あなたが言うとなんだか素直に受け取れないわ。まあ魔王城を出てひっそり暮らしたいならそれでいいじゃない」


 アイクとラースはまだ納得していない様子だが、そんな二人をよそにエレーナはルシウスの前に歩いて行った。

 そして、おもむろにルシウスの額にキスをした。「困ったことがあったら思い出してね」


「え、なに?」額に手をあてて困惑するルシウス。


 みながあっけにとられていたが、ワンチャン自分もキスできるかもとにじり寄るラースを見てネクロムが我に返った。


「こら、なにをするか、無礼な。おまえらのような破廉恥な連中の相手をしていたら王子がけがれるわ。くらえ、『闇の霧』特濃バージョン」


 あたりが一瞬で暗黒に包まれた。


「うわ、サイアク。なんかネバネバしてる」とラース。


「クソッ、逃がすか」アイクが剣を振り回す轟音が闇に響く。


「ちょっと、危ないから剣を振り回さないで」エレーナとラースが魔法で灯りをともしたが、すでに二人の姿はなかった。


◇◇◇


 数時間後、ようやく霧が晴れた魔王城で、勇者一行は魔王軍の残党狩りと、魔王を暗殺した犯人の捜索をしていた。


「だめだな、城はもぬけのからだ。犯人の手がかりも見当たらないな」アイクは、玉座に腰掛けた魔王デアドロの死体を見ながら言った。

「それどころか、あいつら魔王の胸に刺さっていた剣を持って行きやがった」


「魔剣みたいね。おそらく自分の魔力をよりしろにして、相手の魔力を封じる剣だと思うけど、魔王相手となると剣の持ち主も相当の魔力を失ったんじゃないかしら。まあ、餞別がわりってことで」


「なんだよ、餞別って。だけどよ、小僧はともかく、あの悪魔は捕まえるか、たたき切るかした方がよかったんじゃないか。一応四天王のひとりだろ?」


「まあ、王子の世話とかあるからいいんじゃない? そんなに悪い悪魔でもなさそうだし」


「悪くない悪魔なんているのか? それにしてもあの小僧、自分の父親の死体をほっぽって行くなんて薄情なやつだな。やっぱり魔王の息子だな」


「まあ、少なくとも魔王の息子というのは本当みたいね」

 エレーナは意味ありげに微笑んだ。


「おーい」そこに城内を捜索していたラースがやってきた。

「こんなの見つけたよ」と言って、かついでいたものを床に置いた。

 それは猿ぐつわをされ、体をぐるぐる巻きにされた女の悪魔だった。


「死んでるのか?」


「いや、眠らされているだけみたいだよ」


「ふーん、なかなか強い魔力の持ち主ね。もしかしたら手配書に載っているんじゃない?」


 ラースが手配書をめくる。「あ、これかな。デアドロ軍、魔王四天王唯一の女悪魔ヴェラニカ」

「あれ」ラースが考え込む。「魔王四天王って何人だっけ?」


 アイクが馬鹿にしたように言う。「おいおい、四天王なんだから四人に決まっているだろ」

 アイクは、まず床に転がるスニートとベアベルクの首を、それから真っ二つになっているナルシウスを指さし、最後に床に倒れている女悪魔ヴェラニカを指さした。「これで四人だろ。それにさっきの……。あれ?」


「ほらね」


「待てよ、そういえば、おれ、昔この女悪魔と闘ったことがあるぞ。こいつ、そのとき四天王の一人と名乗っていたはずなのに、なんで今まで忘れていたんだろう。じゃあ、あのネクロムとかいう悪魔はいったい何者なんだ」

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