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ラースは呆けたように魔王の息子ルシウスを見つめていたが、皆の視線を感じて慌てて咳払いをした。ネクロムはラースからかばうようにルシウスの前に進み出た。
気まずい沈黙を破ったのはエレーナだった。「ラース。あなたもしかして、そのー、そっちの趣味が?」
「お察しの通りだよ。驚いたかい?」
「いえ、全然」
ずっこけるラース。
「おかしいと思ってたのよ。魔術師なのに謎に筋トレしては鏡ばかり見てるし、クマがかわいそうとか、肌のことを気にしたりとか。それになにより、私が水浴びしているときにのぞきに来なかったし」
「当たり前だろ。仮にも勇者のパーティの一員がそんなことするか」
「あら、アイクはいつもこっそりのぞきに来てたわよ」
「わーッ。なんでその秘密を」狼狽するアイク。
「気づいてないと思ったの? 精霊たちの力を借りてうまく隠したからよかったものの」
「なるほど、いつも鳥だの魚だの森の動物だのが邪魔して、肝心なところが見えなかったのはそういうわけか」
「な、なんとあさましい。恥を知るが良い」思わず正しいことを言ってしまうネクロム。悪魔なのに……。
「それで」ラースが自嘲気味に言う。「こんなぼくは勇者のパーティにいる資格がないって言いたいのかい?」
「そんなことない! お互いが納得していれば男同士だってなにも問題ない!」熱く語り出すエレーナ。
「いや、問題はそこじゃなくて、相手が魔王の息子ってことだろ」アイクがつぶやく。
「それよ! 魔術師と魔王の息子の禁断の恋‼」
なにかのスイッチが入り俄然ヒートアップするエレーナ。「ああ、こんなことしてる場合じゃない。早く帰って執筆しなくちゃ」
「執筆?」
当惑するラースにアイクが説明する。
「なんだ、知らなかったのか。エレーナは趣味でBL小説を書いているんだ。たしか、エレ・ノアってペンネームで」
「な、なんだと」ネクロムが驚いてエレーナに歩み寄り両手を握る。
「おまえ、いや、あなたがエレ・ノア先生でしたか。コミケで先生の作品を購入するのをいつも楽しみにしておりましてな」
「ネクロム、おまえ毎年夏と冬に数日休みを取っていたのはそのためか」すっかり涙の乾いたルシウスが冷ややかに言った。
「王子、これはその、人間どもの生態について知るための任務の一環でして」
「そこで知ることができるのは、かなり限定的な人間の生態だけどな」アイクが口を挟む。
「ちょっと、アイク、偏見はやめて。それにしても、魔族にもわたしの作品の良さがわかってもらえるなんて光栄だわ。これからもよろしくね」
「はあ、しかし」言葉をにごすネクロム。
「なに、言いたいことがあるなら言って」
「では、お言葉に甘えて。新作の『ダークムーン♥セレナーデ』は、筋トレ好きの魔術師と勇者のカップリングはなかなか面白いのですが、勇者がありきたりというか、平凡過ぎていまいち作品に没入できないというか……」
「そうなの。耳が痛いわ」エレーナはアイクを見てしみじみと言う。
「勇者がね……。そこでよ! 新キャラの魔王の息子でテコ入れしたいの。なんなら勇者は退場させてもいいから」
「それは大変ありがたいのですが、魔王デビューを前に、過度なメディアへの露出は控えさせていただきたいのです」
「なんだよ、魔王デビューって。ていうか、勝手に俺を退場させるな。いや、そもそも勝手にBL小説に登場させるな」
エレーナはアイクを無視してネクロムに言った。「いいのよ。無理を言ってごめんなさい。平凡な勇者でなんとかがんばってみる」
「おい、無視すんな。さっきからけっこう傷ついているんだけど」
ネクロムも傷ついたアイクを無視してエレーナに言った。
「王子は無理ですが、こんな話はいかがでしょう。勇者に物足りなさを感じる魔術師。そこにイケオジ悪魔が現れ……」
「それ、いいかも。おじさん枠は根強い人気だし(*個人の感想です)。アイディア料は売り上げの3パーセントでどう?」
「おやおや、エレ・ノア先生ともあろうお方がご冗談を。せめて10パーセントはいただきませんと」
「OK、決まりよ。とんだ悪魔ね」
「おい、悪魔と契約すんな。まったく、なんの時間だったんだよ。さて、そんなことより」アイクは思い出したように剣をルシウスに向けた。




