石じじいの話・引用:ママ
家の怪異は、怪談の主要なジャンルのひとつです。
じじいの話にも、不思議な家についての話がたくさんあります。
初出:
体験した怖い話 作り話を語り合うスレ
245 :名無し百物語:2023/05/24(水) 22:41:52.87 ID:DHqwMrbQ.net
石じじいの話です。
家に関連した話をひとつ。
じじいは、石探しのために山に行く時に街を歩いていました。
その日は、春先の眠くなるような陽気でした。
ある古い家の横をとおりがかったとき、「ママ、ママ、起きて!」という子供の声が何度もしてきたそうです。
家の外でも聞こえるような大きな声でした。
昔でしたから、自分の母親を「ママ」と呼ぶ家庭は非常にまれでした。まずそれを奇異に感じたそうです。
しかし、国鉄の駅のある町なので、そういう「モダンな」家庭もあるかもしれん、と納得して、ちょっとその家の玄関を覗いて通り過ぎました。
路地に面したその家の玄関の戸は開いていましたが、中は暗かったそうです。
眠っている母親を子供が起こしているんだろうか?
その路地のむこうから男性が歩いてきました。彼はじじいに、低い声で話しかけてきました。
「この家の中から、子供の声が聞こえましたかな?」
「はあ、聞こえましたい。お母さんを呼ぶ声でしたが。」
「ママ、ママ、いうとりましたろう?」
「はい。」
「あの家には、もう、だれも住んどらんのですわ。母親は、去年死んでしもうて。ひとり子供がおったですが、父親がおらんかったんで、遠い親戚に引きとられておらんようになったんです。」
では、母親を呼ぶ、あの子供の声は?
「子供がおらんようになってから、ときどき、あがいな声が家の中から聞こえるんですらい。ここらへんの人はみんな聞いとります。」
幽霊だろうか?
「あやしいけん、家の中をしらべてみたんですが、だれもおらんし、人が入ったあともないんです。」
さっき見たら玄関が開いていたのだが。
「おお、たまに開いとることがあるんよ。だれかしのびこむんかもしれんが、盗るものは何もないんやが。でも、人が入ったあとはないんで。それやったら、玄関しめとらんといけない。あんたも気にしなさんなや。」
そう言って、その男性は、その家のほうへ歩いていきました。
子供の時に母親に死なれたじじいは、母の死の時を思い出して、複雑な気持ちになったそうです。