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映画研究倶楽部はオカルト好き  作者: 祭神輿
二つで一つの存在証明
8/30

二つで一つの存在証明・壱

 つづらさんはその場にいると、自分の存在を証明できるものって、何があると思いますか?


 別に、なぞなぞとかそういう意図で質問したわけではないので、気軽に答えてくださって結構です。ボクとの会話を楽しみましょう?

 ……ふぅん、声、音を出す、ものを動かす、他人の視界に映る、ね。

 ふっはは、アナタ幽霊みたいな思考回路ですね。それじゃまるきりポルターガイストじゃないですか。ちょ、叩かないでくださいよあははははは!!


 失礼、面白すぎました。ええそうですね。だいたい正解です。マ、この質問に正解も不正解も無いですけど。


 そうだ、一つだけ忘れてはいけないものがあります。何か理解らないって? 顔にマジックで書いてありますよ、思考すべてが。おやまだ分からないんですか。

 ほらほら、アナタの下に居るじゃないですか。アナタが居ないと存在できない、唯一無二の存在が。



 ※※※



「そこのけそこのけーーー!!」


 廊下をスリッパでぱたぱた駆けぬける。

 私はメロスより早く走って、かの人に会わなければならなかった。かの人は約束を破ると、小一時間嫌味で刺してくる男なのだ。


「も、なんでよりにもよって今日上履き忘れちゃうかなぁ!!」


 思い返せば、今日は散々な日だった。

 占いは最下位、気温は最高37度。朝から水撒きに巻き込まれ、上履きを忘れ、弁当は汁漏れ。

 今だって、部室まで行こうというタイミングで荷物を任され、自分の教室から一階の事務室に届け物をして、五階の旧コンピュータ室に行く途中である。


「やっぱり人生はクソだ、理不尽だ、神は死んだ――あれ?」


 外廊下の端に誰かうずくまっている。

 頭を抑えているようだが大丈夫だろうか……いや、いやいや。これ以上かの人を待たせたらやばい。どれくらいかって、テストで零点とるよりやばい。


「うう……」

「あのぅ、大丈夫ですか」


 考え直したら、体調不良でうずくまる人を放っておくほうが億倍やばいことに気が付き、声をかけることにした。よく見るとすごい汗をかいている。

 黒髪男子はこちらを見ることなく言った。


「き、きもぢわる……頭いたい」

「わ、わ、ちょっと待ってて!!」


 慌てて一番近くの自販機に走る。スリッパが片方脱げたけど、かまってる暇はない。

 財布を開けたら百円玉が二つ。スポドリと水を買うためには二百と六十円。うん、足りない。


「く、ギザ十とぴか十(ぴかぴかの十円玉)を使うしかないのか」


 ワッと勢いつけて自販機に金を入れる。

 あばよギザ十とぴか十。また機会があれば会おう。


「ね、スポドリと水。日陰に移動して、水は首とかに当てて、スポドリはゆっくり飲んでね」


 たぶん熱中症だろう。今日は暑いから。

 彼は小さく頷いたので、落ち着いたら保健室に行くよう指示して、また廊下を駆けた。

 スマホを見たら、約束の時間から二十分も経っていた。


「も、むりだぁ」


 もう頭には言い訳どうしようの文字しか残っていなかった。




『遅い』


 一言目にいただいた言葉はこれに尽きた。

 机に溶けて、腕で顔を覆う。昨日の事が尾を引いているのだ。私のメンタルも、もちろん先輩のご機嫌も。


「なに、今日すっげー辛気臭くない?」

「先輩の機嫌損ねちゃった。部活が憂鬱」


 幼馴染である成瀬は、脳天を親指でぐりぐりやってくるので、ガアと唸って威嚇する。下痢になったらどうしてくれる。


「そりゃあ、約束の時間から二十分も遅れたのは悪いって思ってるよ。大悪党もくやだよ。でもさ、あんな機嫌の損ね方ある?」


 あのあと、急ぎすぎてスリッパが片方どっかにいったため、もう片方も脱ぎさって靴下で駆けたのだ。

 ぜいぜい言いながら部室に着いたときには、それはもう御冠おかんむりで腕を組んだ先輩が立ちはだかっていた。

 知らず気をつけをして弁明するも、情状酌量の余地などありはしない。むしろ、言い訳をして機嫌がもっと悪くなった。

 小一時間みちみちと当て擦られたが、それを凝縮させると以下の通りになる。


『ボクというものがありながら、それを差し置いて他の男を優先させたのか』


 面倒くさい彼女か。

 曰く、放課後は暇すぎるから自分に時間を使えとのこと。わがままお嬢様気質が過ぎると思う。

 結局、最終下校いっぱいまで拗ねてそのまんま。スリッパも片方失くして担任に怒られて帰った。ほんとうに散々な日だった。


「彼女みたいなこと言うのねその先輩」

「ホラー映画貸す約束でさ、あの人拗ねてた癖にちゃっかり映画は持ってったよね」


 映画研究倶楽部は自由参加型とは言っていたが、これはもうその括りではない。

 部長のその日のさじ加減で部員の参加不参加が決まる、恐怖政治が敷かれている。


「文化部のくせに先輩後輩の上下関係厳しいのウケるわ」

「部員が二人しかいないし部長が一個上の先輩だからね。仕方ないというか何というか」


 何はともあれ、何かメル先輩の機嫌を上げるものを用意しなければ。あの人の好きなものはホラー、オカルト。私の知っている話はたぶん知り尽くされているだろう。なにか新鮮な話はないだろうか。


「おーい雀部、お客人」

「あ、え、私?」

「雀部はお前しかいないだろ」


 見れば、なんだかソワついている人物が出入り口付近に立っていた。手には片方のスリッパを持っている。あの黒髪男子は昨日の……。


「なになに告白? スリッパ持って」

「どんなシチュの告白? 多分、昨日落としたスリッパ届けに来てくれただけだよ」

「それこそどんなシチュエーション? シンデラかよ〜」


 何がなんでも告白にしたいらしい。もう恋愛とかそういうのはしばらくご勘弁いただきたい。


 私が近づくと彼はパァッと顔を輝かせた。


「君、昨日は助かった!! これは昨日の金と、あの時忘れていったスリッパだ!!」

「うん、ありがと……」


 昨日の弱った様子とはだいぶかけ離れたパワフルさだった。好青年って感じでいいと思うけど、声のボリュームを考えてほしい。


「スリッパ届けてくれたのは助かったけどお金は別にいいよ。私が勝手にやった事だし」

「いや、それではおれの気がすまないんだ! ぜひ受け取ってくれ!!」

「ウワッ」


 両手を取られて金を握らされる。後ろで喜色めいた声があがった。


「……」

「あの、何か……?」


 黒髪男子は私の手握ったまま私の顔を見る。

 気まずい。気まずすぎる。至近距離で顔を見ないでくれ。


「なあ、大事な話があるから今から人のいない所に来れないか?」

「キャーーーーーーー!!」

「うわうるさっ」


 背後がいきなり湧いた。特に女子の機嫌が最高潮だった。なんだなんだ、何ごとだ。


「告白よ」

「やばだわ。やばやばよ」

「でも雀部さん巡って幼馴染と部活の先輩彼女とでやりあってるんじゃなかったかしら」

「コロシアムだわ」

「まってナニその話、とりあえず先輩彼女って誰やねん!」


 私の知らぬ間に泥沼三角関係が出来上がっていただと? 部活の先輩彼女ってもしかしてメル先輩のことか。


「さあ行くぞ!」

「エッ嘘でしょこのまま!? 成瀬!!」

「いってら〜」

「こ、この裏切りものぉ!!!!」


 縋れる味方などいなかった。

 かくして私は手を引かれるまま引きずられるまま、校舎裏まで強制移動させられることとあいなったのである。

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