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日常に愛に恋

 学生のイベントはなにが一番か、皆々様にはすぐ答えられるだろうか。テスト、校外学習、スキー研修に文化祭、修学旅行などなど。各々思い浮かべるものは十人十色であろう。そこであえて私は『夏休み』を全力で、全身全霊すべてをかけておす。


「夏休みは別に学生のイベントじゃなくね?」

「社会人に夏休みなんて無いじゃん」

「雀部は社畜の星からやってきたのか?」

「この年でもう社畜根性が染み付いてるのね」

「違います」


 今日は終業式であり、明日から待望の夏休みがはじまる。


 さて、夏といえばホラー。ホラーといえば夏。今年の夏休みはたくさんそれ系の小説やスレッドを読み漁ると去年の夏から決めていたので、今からわくわくが止まらない。


(今日はついでに本屋寄ろうかな〜)

「つづちゃん、なんだかそわそわしてるわ」

「あ〜こいつ、最近彼氏できたからサ」

「エッそうなのか!?」

「違います!!」


 今度は力強く否定した。頬に一気に熱が走る。たぶん、いま私は真っ赤だと思う。

 その様子に、成瀬がケラケラ笑いながら手を叩くので足を踏んづけようとしたが、私の足はアスファルトを踏み抜くばかり。避けられた、だと?


「そー何度もおんなじ攻撃受けませーん」

「ンイーーーーーーッ!!」


 くそ、あの顔、にやにやしちゃってマア。むかつく。すごくむかつく顔である。


「むかつく!」

「カルシウム足りねんじゃねーの?」

「うーーーーーーッ!!」

「か、彼氏……まじか……彼氏……まじか」

「先を越されたわね」

「だから違うってぇ」


 私の否定はどうやら恋バナフィルターに引っかかって通らないらしい。

 噂好き、特に恋愛に関しては好きを通り越してもはや愛している生徒が多くいるこの学校。彼らも例に漏れず、みな等しくそれに当てはまっていた。


 結論から言わせてもらうと私はメル先輩と恋仲ではない。所詮(いわゆる)お友達という関係におさまっている。というのも、彼は長らく眠っていた為に色々リハビリしなければならず、恋愛にかまけている暇など無いのだ。今日も今日とて歩行練習やら検査やらで忙しくしている先輩の邪魔はしたくない。

 あと、本当に、切実に、単純に『恋』というものが理解らないのだ。いま先輩に抱いている感情が友に対するそれなのか、はたまた先輩に対してだけなのか、判断しかねている。

 だからもしそれがいつか理解る時になったら、今度は私が恋を飛び越えて愛を伝える番になるのだろう。その時まで、どうか待っていてほしいとはつい先日先輩に話したことだった。


「ってことで、私はそろそろ行くよ」

「今日もリハビリの付き添いなのね」

「海尋先輩によろしく言っといてくれな」

「ういー」


 いつもの三人に適当に返事して、意気揚々と歩き出す。向かうはもちろん渚病院。御見舞はホラー小説にしよう。


「……ふふ、女の子ね」

「ああ、嬉しそうだよな」

「あれ無自覚だぜ? 毎日毎日病院通ってリハビリ付き合ってさぁ。あんなん、普通に好きじゃんね〜」



 ※※※



「失礼しますよー」

「だからノック。何回言えばアナタの矮小(わいしょう)な脳みそは入室前のノックを覚えるんです?」

「エいきなり辛辣」


 御見舞の品である花とホラー小説をサイドテーブルへ置く。

 全くもって不本意な話だが、メル先輩の罵倒にはもう慣れてしまった。しかも、今や妙な安心感をそれに覚えてしまっているのだ。なんだ、『ああ、今日も生きてるな』みたいな。こんな事で生命を感じたくなかったと心底思う今日このごろ。

 ああ、辛辣なところに安心する理由がもう一つだけあった。


「はあぁ」

「なんのため息なんです、それ」

「……先輩のセクハラについてのため息」


 指と指の間にしっかり差し込まれた手は右へ左へ動かしても離れることはない。

 じとりと()めつけると、メル先輩はニコーと嬉しそうに破顔(はがん)した。ウッ、顔が大変よろしい。もうこれだけで許してしまいそうになるんだからなるほど美人とは得なものだ。


「ふ、照れてるんですか。かわいいですね」

「や、」

「ボクのことお好きでしょう? ボクはアナタのこと大好きですよ」

「やめてやめて」

「わかります? どきどきしてるでしょう」

「ひん、も、かんべんして下さい!!」


 これがもう一つの理由である。

 この様に、目の前の人は誰だこいつと百人中百人に疑われるだろう有様になってしまった。白昼堂々口説いてくるのだ。

 いったいどしたんですかと聞いたら「自分の恋に素直になったんです」なんて言っていた。つまるところ、この男は開き直ったのだ。恋は盲目を体現しているというかなんというか。

 お友達からお願いしますと宣言してから秒コンマで告白しなおされたのは今や成瀬のお笑いネタ。目が荒んだ。先輩、私を確実に落としにきている。


「そんな顔しないでくださいよ。アナタはつまらない日々のループから救って下すったんです。惚れずにはいられないでしょう?」

「それはそれとしてですね、ダダ漏れすぎなんですよ。ほんと、も、心臓がばかんなる」


 手をブンッと振って手を無理やり解く。残念そうな声があがったが無視だ無視。


「……ね、つづらさん」

「なんですか?」

「ボクはいつか、アナタにひとりぼっちになって、もしたった一人だけが自分のことを見留みとめてくれたらどう思うか、という質問をしましたよね」

「ん……あ〜、一路くんのときの」


 確か、誰も見つけてくれない、話し相手も居ない。そんな中手を差し伸べてくれるヒトが現れたら、みたいな感じだっただろうか。


「ね? 恋愛小説の主人公とヒロインの様で素敵じゃないですか、ボクたち」

「……それだと、ヒロインはメル先輩になっちゃいますね」

「ふふ、確かにその通りだ」


 時間は午後四時。いつもならば部活動をしているような時間帯。

 私は先輩の手をとり、ゆっくりと立ち上がるのを支える。


「歩けるようになるのがお早いこって」

「ボクの王子様が献身的にしてくださってるおかげですね」

「お褒めにあつかり光栄ですよ、マイレディ」


 どこかの何かの映画で見た台詞をお巫山戯で口にする。


 この調子ならば、きっと他の回復もはやいのだろう。そしたらこの人は学校で、またあの部室で、ホラー映画を見漁るに違いない。そして私が何かに巻き込まれたときの駆け込み寺みたくなるんだ。


 まだまだ長く、バタついた付き合いになりそうな予感がして、私は騒がしい日常を想った。願わくば、先輩が眠っていた五年の月日を埋めるような、楽しい出来事がたくさん起きますように。


 勿論、ホラー・オカルト以外で!!



 映画研究倶楽部はオカルト好き・告白(終)


『映画研究倶楽部はオカルト好き』はこのはなしでお終いになります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク、評価して頂けると、作者は跳んで喜びます。

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