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獣道は結構役立つ その1

「凄く寒いし、お腹もすいた......」


 寒さと空腹、それと喉の渇きで目を覚ます。

 太陽はまだ完全に顔を出していないようで、辺りは薄暗く肌寒い。いちおう寝る前に焚火を用意しておいたけどもう火は消えて炭に代わっている。


「取り合えず火を付けて、暖をとってから......ご飯と水探しだな」


 ファティアは私の懐で小さく寝息を立ている。ファティアは私の服を風除けにしているから、凍える心配はなさそうだった。


「あったかぁ......やっぱ火がないと明け方は厳しいな」


 温まりながら今後の方針を考える。


「まず、ご飯と水の確保が最優先」


 ご飯と水の残りはもうない。昨日みたいにキノコを沢山見つければ食料不足のほうは解決できるかもしれないけど、水のほうは......


「川か湖、井戸のほかに水を得るほうはないのか?」


 古書になら何か書いてるかと思い、いろいろページを捲ってみる。


「雨水とか朝露を貯めるのが楽そうだけど......」


 残念ながら雨がふっている様子はないし、朝露っぽい物もない。

 それに雨や露で水を確保できたとしても、それは一時的なものでいずれはまた水不足に悩まされる時が来るだろう。


「やっぱり、水辺を...........って誰?」


 突然遠くの茂みがガサガサと揺れて何かが凄いスピードで飛び出してきた。

 色は茶色、体の表面はやわらかそう毛が密集していて、大きさは私の背丈よりは小さいけど今まで見てきたモグラとかツチネズミなんかよりは全然大きい。


 その生物と私は目を合わせて向かい合う。


「あっ逃げた」


 数秒間見つめあった後、その生物は飛び出した茂みに戻る。


「初めての生物だな......」


 これまでに地上で見た生物と言えば、ハエとかイモムシとか地下生活でもたまに見れた物ばかりだったけど、今のは地下では見れない種類だ。


「古書になんか書いてあるかも」


「どうしたのアミュ? 朝から何か調べもの?」


「あっごめん起こしちゃった?」


「大丈夫アミュのせいじゃないよ、普通に目覚めただけ......それよりそんな熱心に本を読んでどうかしたの?」


「それが、すごいのを見つけて」


 私はアミュに、知らない生物を見つけた話をする。


「なるほど、私が寝ている間にそんな事が。それでその生物の名前は?」


「多分ハイランドコニーっていうウサギの仲間だと思う」


「へぇ、危険性とかないの?」


「説明によれば危ないとか、襲ってくるとか、そういう事は書いてない。逆にご先祖様達はこのウサギを捕まえて食べてたらしいよ」


 あのハイランドコニーを捕まえて食べることが出来れば、一時的ではあるもののキノコを探し回る必要もなくなる。

 でもまぁ、どうやって捕まえるかが問題なんだけど......


「そのまえに水じゃない? ご飯も大切だけど、飢えよりも脱水のほうが命の危険性が高いから」


「そうだね、今日も昨日とおんなじで水辺を探しながら、キノコ探しも並行で進めようか......ってのとこのページ見て」


「なに?」


「水辺がある可能性がある場所を教えてくれてるんだよ」


「ほう」


 古書によれば、ハイランドコニーっていう生物は山脈などの中腹あたりで暮らしているらしい。つまりここら辺の森は標高が高い山の中腹だと推測できる。


 そして、そして、この古書には『水辺の探し方ー荒地編』、『水辺の探し方ー台地編』など色々な場所で水を探す方法が紹介されている。


「で、水辺の探し方ー山脈中腹編ってによると」


「うんうん」


「尾根伝いに山脈を下りながら、谷に川がないかを注視する......」


「どういうこと?」


「えっとわからない......あっほかにも」


「スイミャクトリカジっていう植物は水辺がある方向に根を伸ばすらしいけど......」


「こんな形の植物は見てないわね」


「あっ他にも書いてある......動物は獣道? ってのを利用して水辺に行くらしいから、獣道を辿れば水辺にたどり着けるかもって」


「獣道?」


「うん、動物が生活によく利用する道なんだって」


「んでも、獣道なんて......」


「いや、ここに......」


 私はさっき獣が飛び出してきた茂みをかき分ける。


「ほら、これって獣道じゃない?」


「確かに、説明通り草が薙ぎ倒されてるし、枝とかに毛が絡まってる」


「じゃあ、これを辿れば!」


「水辺に行けるかも」


 獣道。

 古書の説明によれば、それなりに大きさのある動物が、巣や餌場などを行ったり来たりする時に出来るものらしい。

 でつまり獣道を辿れば、ハイランドコニーの巣を探せる可能性がある。


 となれば、水辺を探した後はハイランドコニーの巣探しだな。


「ねぇ、なんか聞こえない?」


 歩き始めてから数時間、そろそろ喉の渇きが耐えられなくなり始めた頃、頭の上でへばっていたファティアが起き上がる。


「いや、私には聞こえないけど」


「じゃあ結構遠くだね」


 ファティアは人間より耳がいい......というか感覚全般が人間よりも冴えてる。暗いところは人間より目が効くし、鼻も敏感だったりする。


「方向とかはわかる?」


「だいたいは......」


「じゃあ案内して体中が干からびてきてるから」

 

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