初めて見る地上の世界
「ねぇアミュ! 太陽が浮かんでるの! はやく起きて」
興奮したファティアの声で目を覚ました。どうやら私はあの壮大な光景を眺めながら眠りに落ちてしまっていたらしい。
眠たい目を擦り目を開けると、昨日とは比べ物にならない程外が明るかった。
「まぶしっ」
生まれてからずっと地下暮らしだったせいで、太陽の強い光に目が慣れていない。私は薄目の状態から段々と目を開けて光に目を慣らしていく。
「うわあ色がある」
「なに? その感想」
十分ぐらいかけて目を開き、初めて地上の世界を目にした私が最初に零した言葉は、なんとも稚拙なものだった。
「いや、だって色が沢山色が......その、すごく凄く綺麗」
「そうだね、この景色を見れただけでも地上に出た甲斐があったかも」
「あのさ、朝ごはんの前に少し歩かない?」
「いいよ、私も同じこと考えてたから」
私とファティアは何の目的もなくただ地上を歩き回った。本で見たり、言い伝えで地上の世界については色々と知っていた。というか知っていた気になってた。
自分が知る狭い世界が全部だった。ご飯を探して飢えをしのぎ明日を生きることしか考えてなかった。
でもこの景色を見て、そんな狭い生き方から抜け出す必要があると、抜け出すことが出来ると確信した。
「そろそろ朝ごはん食べようか」
「そうだね」
私とファティアは最後の朝ごはんを食べながら今後どうするかを話し合う。
「多分この景色から推測するに......ここは森の中だと思うんだよ」
「なるほど」
「で、この本によれば森にはキノコ、木の実、根菜類とか鳥とか小動物とか? 食べられる物が多いんだって」
「じゃあ生活するのに適してるってことだ」
ファティアは目を輝かせる。
「だから今後の予定は、食べ物を探しつつ飲み水も確保したいね」
「飲み水はどうやって確保するの? 地下生活みたいに井戸を掘るとか?」
「うん、井戸を掘るのもひとつの方法だけど、川とか湖とか? なんか水が多く溜まってる場所が地上にあるらしいんだよね」
「じゃあ食べ物探しと同時進行でその場所を探すのか」
「そうだね」
「ねぇ、これキノコじゃない?」
食べ物と水を探し始めてから一時間ぐらい経った頃、ファティアが倒木の陰にひっそりと生える白いキノコを見つける。
大きさは私の手に収まるぐらい......想像していたよりも小さい。
「一時間でやっとひとつ......結構探すの大変だなぁ」
「いやいや、まだこのキノコが食べられるかどうか分からないよ」
「あぁ、毒あるかもしれないのか」
私はキノコが沢山載ってる章を開いてこれと同じ見た目のものを探す。
「えぇっと......似てるのはリトルニンフマッシュルームか、ホワイトルーフのどっちか......あ、ピクシーコンクかも」
「それで、そのキノコは食べられるの?」
どうやらファティアにはキノコの名前などどうでも良く、食料になるかならないかが重要らしい。まぁ私もそうだけど。
「えっとねリトルニンフマッシュルームか、ホワイトルーフは食べられる。ピクシーコンクは......吐血するらしいよ」
「じゃあ正確な種類を割り出す必要があるのね」
「そうだね」
古書によれば、ホワイトルーフは海岸に自生するらしいので、見た目は似ているが可能性から除外する。
リトルニンフマッシュルームはレースパインという木の近くに生えることが多いらしく、ピクシーコンクはグリーンオークの森でよく見つかるらしい。
「じゃあ、ここら辺の木の種類が分かれば良いのよね?」
「うん、確か木のページは......」
私はページを捲り、木の種類が沢山載っているページを見る。そのページでは焚火にすると効率が良い木だったり、加工するのが簡単な木など今後の生活の欲に立ちそうな事がいろいろ書かれている。
で、ここら辺の木は......
「レースパインだよね?」
本に書かれていたレースパインのイラストと葉っぱの形が似ている。
グリーンオークの幹は沢山のコケがへばり付いて緑色に見えるらしいけど、この辺の木でそんな木は見つかんなかった。
となればこのキノコは
「たべられる!」
私はキノコを丁寧に土から引っこ抜いてカバンの中にしまう。
「まだまだ探しに行こ!」
あんな小さいキノコがひとつだけでは、お腹がいっぱいになる訳がない。私とファティアは次なる食料を探しに森を歩く。
リトルニンフマッシュルームは日向よりも日陰に生えていることが多いとも説明に書いていたので岩陰や倒木の裏などを中心に探すと、立て続けに4個も見つけることが出来た。
「大量だね! これなら晩御飯でひもじい思いをする必要はなさそう」
「そうだね、欲を言えばあと何本かほしいけど......」
キノコ探しを続けたいけど、段々と空が暗くなっている。古書によれば太陽は隠れたり、姿を現したりするらしい。
多分もうじき太陽は姿を隠すのだろう。
「暗くなったら危ないし、今日はここで晩御飯食べて寝よっか」
早速私とファティアはキノコを食べる準備をする。
古書には鍋で炒めて食べる方法が紹介されてるけど、地下から鍋は持ってきていないので、魚?を焼くときに使用する方法の串焼きとやらを応用してみる。
ナイフで硬い部分を切りおとして、枝にキノコを刺したらあとは焼けるのを待つだけ。どれぐらい焼けばいいのかわからないから取り合えず数分待ってみる。
「どうかな?」
「そろそろいいんじゃない? なんか匂いもするし」
キノコを火から離す。
「あちっ火傷しないようにしないと......」
ファティアが食べやすいように、小さく切り分ける。ナイフを入れたときにキノコから汁がジュワっと溢れ出す。
「じゃあ、いただきます」
......!
「これ、おいしい」
少し土っぽい匂いもするけど、今までに食べたことない味で......というか元々パンと大豆とトマトぐらいしか知らない舌だから、この世界の殆どの物を食べたことないんだけど。
「おかわり! アミュ! おかわりほしい」
「わかった、わかったから急かさないで」
ファティアにもキノコは好評だったようで、5つあったキノコはすぐ無くなってしまった。お腹が膨れる程の量ではなかったけど明日また歩き回るには十分な栄養補給が出来たと思う。
「じゃあ寝よっか」
ご飯が終わったところで、私は木にもたれ掛かり眠る体制に入る。見上げれば綺麗な景色が広がっているのだが、ご飯はまだまだ足りないし、水も確保しなければならないので、ここで遅寝して貴重な日中の時間を潰すわけにはいかない。
「おやすみアミュ」
「おやすみファティア」




