地上へ向けて
「希望の本......これだよね」
私とファティアは半日歩いて希望の本を見つけることが出来た。
一番上の階層に戻ってきたのは数か月ぶりのことだったので、少し道に迷ってしまったけどなんとか書庫にたどり着けた。
「中身は......」
分厚い本の適当なページを開いて中身を確認する。
開いたページは地上で生活する際方角を見失わないようにする方法がイラスト付きで何個も書かれていた。本には他にも食べられる植物や気を付ける音?なんかが細かく記されていた。
「希望の本ってより取扱説明書みたい」
役立つ道具の作り方が書いてある章のページをパラパラと捲りながら、ファティアはそう呟いた。たしかに文字がぎっしり詰まっていてなんかの説明書みたい。
「じゃあ本も持ったことだし......あれ昇るか」
書庫を出て、ほんの少し歩いて中央集会所にたどり着く。
中央集会所は、まだ地下でたくさん人が生活していた時に生活の決まりとかを偉い人たちが話し合っていたとかなんとか。
そしてこの中央集会所には地上へつながる唯一の縦穴がある。その縦穴にはご先祖様の気遣いで、いつか子孫が地上へ出る日の為に梯子が残されている。
「......だけど、これを昇となると先が思いやられる」
梯子はかなり高くまで続いている。ファティアは飛べるからいいけど、私は手足の力を使ってこれを上らなきゃならないのか......
とはいえ、迷ってる時間はない。私は梯子に足をかけて上を目指す。
* * * *
「いまどれぐらい? 半分は超えたよね?」
「えっと......まだ半分にも届いてないよ」
「嘘だぁ、こんだけ昇ったのに? まだ全然なの?」
昇ってから十数分。私の腕と足は限界を迎えている。手足だけじゃない、地面が遠くなるにつれ落ちて怪我をするのが怖くなってなかなか進めない。
「もう下りたいよ」
「でも餓死しちゃうよ」
「わかってる、わかってるけどさぁ......」
泣き言を言ったとたん、手につかんでいた梯子が『ギシッ』と音を立てながら傾いた。
この梯子が作られたのは半世紀以上前のことなので、朽ちて脆くなっている箇所がたくさんある。もたもたしていたら梯子が根元から崩れ落ちるかもしれない。
「はぁ、はやく昇らないと」
それから数時間かけて梯子を昇った。
途中先祖様達が用意してくれた休憩ポイント?(人一人ぐらいが入れる小さな横穴)で休みながらなんとか梯子を昇り切る
「これ、ドアだよね?」
梯子を昇り切った先には、上下気に開閉するであろう木製のドアが現れる。私とファティアは顔を見合わせて頷きあう。
「あけたら死んじゃうかも」
「じゃあ開けないで帰る?」
「ここまで登ってきたのにそれはない......じゃあで開けよう」
「わかった」
私は片手で梯子をつかんだまま、もう片方の手でドアに力を入れる。微力ながらファティアもドアを押してくれている。
最初はびくともしなかったけど、何度か押しているうちに段々と軽くなってきた。
「せーのっ............うわぁっ」
何十回このドアに力を掛けたのか、私もファティアも忘れてきた頃ドアが突然音を立てて落ちてくる。そしてそれに続くように土や石がボロボロと降り注ぐ。
多分ドアの付け根が壊れて、そのドアに積もっていた物がドアと一緒に落ちてきたのだろう。
幸い落ちてきたものの量は少なく、小石があたった程度で怪我はなかった。ファティアも私の陰に隠れてやり過ごいたらしい。
「よいしょっと」
私は手で土を押しのける。希望の本には『太陽の光が差し込んだら地上と繋がった合図だ』と書いてあったが実際はそうではなかった。
「ここが地上? 洞窟の中と同じぐらい暗いけど......」
私とファティアは確かに縦穴から抜け出した。しかし期待したような眼を眩ますほどまぶしい太陽の輝きは見られない。
まだ死の霧が空を覆ってるのかな?
でも、そうだったら私とファティアはとっくに塵になってるはず......
「ねぇアミュ、上を見て!」
興奮するファティアが指さす方向を見ると、高く暗い天井に無数の細かい光が瞬いている。地下で暮らしているだけでは絶対に見ることの出来なかった景色......なんて言い表せばいいのかわからない。
多分希望の古書を開いて、ページを捲ればこの景色の名前を知ることが出来るのかもしれない。でも、そんな気は起きなかった。
今はこの景色を楽しんでいたい。