地下生活の終わり
むかし むかし 夜空に お星様が浮かんで キラキラと 輝いていた時代
人間と エルフ ドワーフ が中心となって 街を作り
大きな国へと 発展させました
やがて 国が いくつも誕生し 大陸は 活気に 満ち溢れました
しかし ある日の朝 大陸の 南にある 死の谷から
黒く 忌々しい 死の霧 が 溢れ出し 大陸全土 を 包み込み
たくさんの 生物を 飲み込み 塵に 変えました
大陸にすむ みんなは 魔法や 分厚い 土の壁 を つくり
なんとか 霧を 抑え込もうと しましたが 成果は 出ませんでした
地上からは すべての 命が 消えました が
いちぶの ひとびとは 霧から 逃れるため 深い 深い 穴を掘り
じっと 息をひそめ 暮らしていたのでした
* * * *
「あ、あった! 見つけたわアミュ! 倉庫あったよ」
地下深くの大きな洞穴の中で星屑妖精のファティアの声がこだまする。
穴の中では声が反響するせいで音のする方向が分かりづらいけど、感覚を頼りになんとかファティアの場所まで辿り着くことができた。
「これ、掠れてるけど倉庫って書いてあるよ」
「本当だ......じゃあ早速」
私は朽ちかけた木製の扉を勢いよく蹴り飛ばす。かなり分厚い扉だけど蝶番を止める釘が錆びてボロボロになっていたお陰で簡単に開いた。
「うーん、なーんもないね」
ホコリがまう倉庫にはファティアの言う通りなんにもなかった。壊れかけた木製の棚が並ぶだけで、探し求めていた食料はおろか少しの水もなかった。
「ここに何もないとなると......もう残りはこれしか」
糸のほつれた革製のリュックサックの中には、二日分の保存食とガラス瓶2本分の水しか入っていない。
この倉庫に何もなかったという事は、私たちの命がのこり数日しかないと宣告されたも同然......
「あぁ......終わった」
私は膝から崩れ落ちて頭を抱える。ファティアも打つ手なしといった感じで地面にへたり込んだ。
そもそも、なぜ私たちが泥だらけになりながら食料を見つけるために洞穴を彷徨っているかと言えば、かなり前まで遡る。
死の霧から逃れるために地中に潜った先祖様達は、なんとかして地下世界で暮らせるようにといろいろと策を講じたらしい。
聞いた話によると、穴をアリの巣みたいに開拓して住むスペースを広くしたり、水が湧き出る場所を井戸のように変えて飲み水を確保したり......
とまぁこんな感じだ。
そして生物が暮らすとなれば、やっぱり大切なのは食料。
ご先祖様達は魔法を使って小さな太陽を作り出し、地下でも作物が育つようにしてくれた。
しかし、この洞穴を最初に開拓したご先祖様達がなくなり、数十年が経ったのち開拓者二世、そして開拓者三世が亡くなり......と世代交代をしていく度に魔法を扱える人がいなくなり、二年前最後の魔法適性がある住人が亡くなってしまった。
そこからどうなったかは......ご想像の通り。
太陽が消滅したせいで作物が育たなくなり、私たちはこの大きな洞穴を徘徊し各階層に残る食料を探してなんとか食い繋いできたわけだけど......
今生き残っているのは私とファティアだけ。
そして、今生き残れている私とファティアももう少しで......
「あのさファティア、私たちこのまま死ぬのかな?」
「そうね、その可能性は高いと思うわ。多分食べ物がなくなったらまず体の小さい私が死んじゃうでしょ? それをアミュが有効活用したとしても......四日しか持たないでしょうね」
「そ、そっか......その、冗談きついよ」
「冗談のつもりで言った訳じゃないんだけど......」
なんというか、会話がかなり重たくなってしまう。
最後の最後でなんか変な空気感ってのも嫌だしなんとかして話題を変えよう。
「ぐ、偶然食べ物が湧いてこないかなぁ、ほら空からパンと煮豆の山が降り注いでくる......って地下だから空見えないけど」
って暗い話題のままじゃないか! 全然話の方向性が全然変わってない。
これじゃあファティアも......
「それよアミュ! 最後の希望に賭けてみるのよ!」
ファティアは突然地面から起き上がり小さな羽をパタパタと動かして元気に私の周りを飛び回る。ここ数日で一番楽しそうにしている。
「最後の希望?」
「地上よ! この穴から出て地上で暮らすの!」
「でも死の霧が立ちこめて....」
「そうだけど、ここで飢えながら死ぬより試したほうがいいでしょ?」
「まぁ確かに」
「ほら地上で暮らすための本......なんだっけ“希望”だっけ?」
「あぁ、あの保管庫に眠ってる古書ね」
希望とはかつて地上から逃れたご先祖様達が、いつか死の霧が晴れて地上でまた暮らせるようになった日のために、地上での暮らしを記録した本のこと。
小さいころ一回だけ見たことがあるけど、物凄く分厚い本だった。
「じゃあ取り合えず保管庫に行って本を見つけよう......それで地上を目指そう」
「そうこなくっちゃ」