第1話 最悪の入学式
本来付き合っているものどうしで浮気とは信頼関係を壊し、相手を傷つけてしまう行為だ。しかし元々信頼関係もなく、傷つく相手もいなかった場合はどうか?そんな状態で付き合ってるのが異常だが、例外は色々ある。例えばこの2人。表向きは彼氏彼女だが、互いの利益のために共にいるだけで恋心は存在しない。この時どちらかが本当に好きな人が出来ても果たしてそれは浮気と言えるだろうか?
「う…うぅ…」
目を開けると自分の部屋の天井だった。確か高校の入学式に行ったはずじゃ…?
「イテッ」
なんだか身体中痛い。それとなんだ?枕が柔らかくて少し暖かい。気持ちいい。
「起きた?」
突然声がしたと思うと、見えていた天井の景色が俺を覗き込む少女に変わった。
「ファ?」
思わず変な声が出てしまった。
何これ、どういう状況!?何故か入学式の日に俺は少女に膝枕をされて自分の部屋で寝ている。
「随分寝てたわね?そんなに私の膝枕気持ちよかった?」
「ひ、膝枕!?」
痛い身体を起こして状況を確認する。
「お、お前は…」
「さっきは助けてくれてありがとう。私、蒼羽香帆。よろしくね。」
助けた?そうだ、確か俺…
「17番真壁新。」
「はい。」
入学式を終えて教室で担任教師が出席番号と名前を確認している。
高校とも対して中学と変わらなさそうだな。のんびり過ごそう。
「それじゃぁ明日から授業が始まります。高校生という自覚を持って行動して下さい。」
ホームルームが終わり教室ではクラスメイト達が各々話をしている。友達作りが得意ではない俺は、特にだれとも話さず教室を出た。
昇降口に向かうと何やら人が集まっていた。どうやら女子生徒が3人組の男に絡まれてるみたいだ。
「ねぇあれって3年生の不良グループの人達だよね?」
「あの子可哀想…」
まぁ俺には関係ないしさっさと帰ろ。
「離してください!私もう帰ります!」
「んな事言うなよ1年。」
「俺達とどっか行こうーよ。」
ってあれ?確かあいつ同じクラスの…
見ている一瞬その女子生徒と目が合ってしまった。やばい、気まずい。
急いで帰ろうとした時、女子生徒が大声で叫んだ。
「私彼氏いるので先輩方とは出かけられません!」
なんだ、あいつ彼氏いたのか。だったらさっさと彼氏が助けに行ってやれよ。
「へぇ、彼氏?どこにいんの?」
不良の1人が迫ると、女子生徒は真っ直ぐ指を指した。
「あそこに居ます!」
その場にいた全員が向けられた方向に視線をおくる。
「…ん?」
なにこれ、なんか皆俺の方見てるんですけど。
慌てて後ろを振り向くが誰もいない。
すると不良から怒鳴り声が発せられた。
「おい、お前か?こいつの彼氏は?」
「いえ、違い…」
すぐに否定しようかと思ったが。不良に掴まれた女子生徒と再び目があった。
口元が動いている。
『た・す・け・て』
口パクだったが確かにたすけてと言っている。
「…はい、そうです。そいつの彼氏です。」
こんな公衆の面前で俺にこんなこと言わせやがって。あの野郎覚えてろよ。
「そうかよ。彼氏、ちょっとこっち来いよ。」
うわ。これ彼氏持ちだからって帰ってくるタイプの奴じゃないじゃん。1度彼氏宣言してしまったしもう帰る訳には行かないな。
「よう、彼氏くん。ちょっとこの子と出かけたいんだけどいいかな?」
俺よりも少し背の高い3年生が高圧的に聞いてくる。
「それは困ります。そいつ俺の彼女なんで。」
こういう奴らには淡々としておいた方がいい。俺の経験上。
「はぁ?何生意気な口聞いてんだよ。」
あれ?
「じゃぁてめぇがこいつと別れてくれればいいって話だな。」
どうやら逆効果だったみたいだ。
「今すぐこいつと別れる宣言しろよ。じゃなきゃお前の彼女を殴る。」
とんだやばい奴らだ。こんな面倒なことになるならさっさと帰れば良かった。クソッこうなったら…
「わかりました。」
「おぉ、随分と素直じゃねぇか」
「俺が殴られます。その代わり彼女を殴るのは勘弁して下さい。」
「はぁ?」
さすがにこれだけ人が見ていれば殴りはしないだろ。高校で暴力は停学か退学だぞ。
「んやろう、舐めやがって!」
ブチ切れた不良が俺に右ストレートを食らわせてきた。
「グハッ」
いきなり殴られ、受身が取れず吹っ飛ばされる。
「立てオラァ!」
よろけながら立つ俺に不良が言ってくる。
「女を殴るのはやめてやるよ。その代わりお前が動けなくなるまで殴る。」
まぁいい、これであいつは逃げられるだろう。
「ありがとうございます。約束ですよ。」
「てめぇ、彼女の前だからって調子乗りすぎだろ!」
3人係で俺は殴られ、身体にはアザが出来ていく。
「ヴッ…」
はぁなんて入学式だ。新しい制服もボロボロ。
すると今まで怯えていた女子生徒が不良の1人に掴みかかった。
「もうやめて下さい!十分でしょ!」
あいつまだ帰ってなかったのか?
「うるせぇ!てめぇは黙って見てろ!」
逆上した不良が女子生徒を殴り飛ばした。
「キャッ…」
「おい、そろそろ専攻が来るぞ。」
「これだけ人がいれば呼ばれてるか。」
「俺は最後にこいつにもう1発食らわせて…ヴッ…グハッ…」
俺は女子生徒を殴った不良の顔面に渾身の一撃を食らわせた。
「おい、約束が違うんじゃないのか?」
残りの2人が俺の反撃に怯んでいる。
「お、おい!こいつ動かないぞ!」
もう喧嘩しないって決めたのに…1人やっちゃったら2人も3人も変わんないか。
「お前ら覚悟しろよ。」
まずは1人を蹴り倒し、再び顔面に拳を振り下ろして失神させた。
「あとはお前だけだぞ。」
最後は、最初に女子生徒に絡んでいた奴だ。
「ま、待て!お前3年に逆らっていいと思ってんのか!?」
もうどうにでもなれだ。
「約束守って俺を殴るだけにしとけば許してやろうと思ったのによ…オラァ!」
そう言って俺は最後の1人を殴り飛ばして馬乗りになり、動かなくなるまで殴り続けた。手は血だらけになり、もう不良の顔は誰だか分からなくらるくらい形がかわっていた。
はぁ短い高校生活だった。
「おい、大丈夫か?」
女子生徒に駆け寄り怪我の状態を確認すると頬に少しキズが出来ている。クソッなんだかまたイライラしてきた。あの野郎もう1発殴ってやる。
もう動かなくなった不良を殴りに行こうとすると女子生徒に腕を掴まれた。
「…もうやめて。ごめんね。巻き込んで。…本当にごめんなさい。」
涙を浮かべながら言ってくる。
「いいって。ちゃんと保健室行けよ。キズ残っちまうぞ。」
その頃教師たちが騒ぎを聞きつけ、走って向かって来るのが見えた。
はぁ退学かぁ両親になんて言おう…
「ヴッ…」
突然頭がクラっとしてよろけてしまう。さすがに殴られすぎたか…?
ドサ…
俺はそのまま倒れてしまった。