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第四章

 一瞬感じたのは、あからさまな敵意と殺気だ。

 それを敏感に感じ取った阿修羅は、太刀の切っ先をそちらに向ける。

「阿修羅?」

「どうかしたの?」

 突如というべき動きで鵺達が撤退したことに安堵の吐息をついた勇一だが、阿修羅の動きに不思議そうに声をかけた。

「……気のせいか」

 幾分か苦さが込められた呟きに、勇一は軽く目を見張る。

「何かいたってのか?」

「さて、な。気のせいということもある」

「ふーん」

 どこか納得できないようではあったが、それ以上のことは聞かずに勇一は手の中に現れた太刀、龍牙刀(りゅうがとう)をしみじみと見やる。

 今回は上手くいったが、次に上手くいくとは限らない。何とかこれを瞬時に出せるよう訓練しなくては、勇一は拳だけで闘うこととなってしまう。それでは何の解決にもならないことは重々承知はしてるのだ。

 課題にしては大きいが、自分の身を守るためには、修行しなくてはならないと勇一は重い溜息を吐き出した。

 それの余りの大きさに、勇一は慌てて那美へと視線を転じる。

 いくらなんでも、こんなことに巻き込まれた上、心配させるような色合いの息をついたのだ。那美が不安げに見つめてくることは十分なことだろう。

 だが、那美の視線は勇一ではなく、勇一の背後へと向けられていた。

 安心すると同時に、疑問が勇一の中に生まれ、それを押し殺すことなく勇一は那美へと声をかけた。

「那美?」

「え?」

「なんかあったのか?」

「ううん。何でも無い」

 慌てて那美は勇一の言葉に笑って首を振る。

 気のせいだろう、と那美は自分自身に言い聞かせた。

 一瞬ではあったが、風になびかせた制服のスカートが見えたきがしたのだ。とはいえ、それは視界の端に引っかかったものであり、目の錯覚であった可能性も否めない。

 これ以上勇一を困らせたくはなかった那美としては、気のせいかもしれない事柄まで口にすることはないだろうと考えるのは当たり前のことだ。

「しっかし、何だったんだ。こりゃ」

 倒した鵺の死体が、さらさらとした砂状になり、風に乗って周囲に散らばっていく。それを苦々しい気持ちで眺めながら、勇一は顔をしかめてそう吐き出した。

「刺客、にしては、少し変に思えるんだけど」

「ってか、完全に遊ばれたような気がするんだけどな」

 那美の言葉は的を得ている。前髪を掴み上げ、勇一はじっと考え込んでいる阿修羅に視線を転じた。

 難しげな顔は、今回のことを考えているのは一目瞭然のことではあり、意見を求める勇一と那美の表情に気付き、それを消し去るようにして阿修羅は細い息を吐き出して言を綴った。

「実力を試していた、と言うのが正しいだろうな」

「あ?」

「……ようするに、どれだけ勇一の神力が覚醒したのか知りたくて、あの化け物を使ってみせた。そういうことかな?」

 勇一などよりも格段に察しがよい答えを出した那美に、阿修羅は微かだが顔をほころばせて軽く頷いてみせる。

「そうだろうな。あれほど低級なアヤカシを使ってきたのだ。どこからかこちらのことを観察していたのだろう」

「悪趣味だな」

 切って捨てるようにそう吐き出した勇一は、自分が倒した鵺達がいた場所へと視線を向ける。

 風に乗って塵芥とかした鵺の身体は、以前倒した羅刹天と同じような末路を辿り、この世界を害することなく消えていく。それが正しいのかどうか分からずに、勇一は難しい顔付きでその場を見つめた。

「でも、あれくらいなら、勇一も平気で倒せることを実証したって訳よね」

「確かにな。本人がこちらを襲うつもりならば、もう少し策を練ってくるだろう」

「けど、あれも刺客だったんじゃ」

 軽く頭を上下に振った阿修羅の姿に、那美は気遣わしげに勇一を見つめる。

 それに気づき、勇一は安心させるために那美へと笑って見せた。

 それでもまだ心配を拭い取れずにいるのだろう。眉を小さくひそめる那美に、阿修羅は事実を述べるように語りかけた。

「勇一ばかり狙っていたのだから、そうみるべきだろう……だが、安心しろ、この程度でやられることは無いと証明された。そう心配することもあるまいよ」

 複雑な表情でそれを聞いているな那美の頭を、阿修羅はくしゃりと撫で付ける。

 それを受けて、那美は視線を阿修羅に転じる。阿修羅の顔面に浮かんでいるのは、不敵といえる表情であり、心配することはないと語っているものだ。

「けど、いったい誰だろうな。鵺はそう簡単に操れるもんじゃねぇだろ」

「まぁそうだ。だが、今はそれを考えたところで仕方あるまい」

「わぁってるよ。けど……」

 何かを言いかけ、勇一は苦々しげに鵺達の消えた方向へと目線を転じる。

 いったい誰が、との疑問に答えるすべはなく、勇一は唇を軽く引き締めた。

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