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七夕の願い。

作者: 零雅

時は7月6日。





『お前知ってる?


七夕の7月7日午後7時7分7秒に願い事をすると


その願いが叶うんだってさ』





その話を聞いたのはメールでだった。


でも、あたしはその年。


その言葉どうりのお願いはしなかった。


それからちょうど一年後―――――。





時は…7月6日。


それが今日という日。





―――――――――――――――――――――――――





「いらっしゃしませ〜」


ここは、あたしの家から徒歩十分の大きめのスーパー。


店員さんは相変笑顔をタダで振りまいてくれる。


…そっか。今日は7月6日なんだ…。


あたしは、スーパーに入ったところでやっと気づくことができた。


よくあるでしょ?


スーパーの入り口とかに小さい子用の笹とか短冊とか。


それがこのスーパーにもあったんだってことにあたし『月島 紫苑』はいまさら気づいた。


それでようやく、あたしは去年の今日のことを思い出した。


あいつに教えてもらったおまじない。


つくづくあいつも変なやつだ。


男子の癖にこんなこと知ってやがる。


あたしだって知らなかったのに。


…知ってても出来なかったけどね。


あたしは、笹と短冊の前を素通りして手早く買い物を済ませる。


………でも。


やっぱり目に付くこの笹の葉。


あてつけかこのヤロー!


心の中がたかがスーパーのささやかな七夕にあたしは毒づいた。


そうしてスーパーを出ると、もう一つの七夕の思い出が出てきた。


いや、出てきてしまった。


「よお!月島!」


「高原」


こいつは『高原 東亜』


あたしと同じ部活の男子。


そして同じクラス。


そして…片思い中の相手。


「お前も買い物?」


「うん。夕飯の買出し。高原も?」


「おう!家帰るとこき使われっぱなし。


少しは中2のかわいい息子に静かに勉強させてあげよーとか思わねぇのかな?」


「高原全く勉強しないじゃん!」


「うるせー。家では勉強すんの」


二人で笑いあった。


高原といると会話がはずむ。


楽しいし、話題にも困らない。


「それじゃ、俺も買い物行くわ。じゃな!」


「うん。じゃあね」


お互いの横をすり抜けて目的地へ向かう。


少ししてあたしは振り向いた。


黙々とスーパーに向かう高原。


これじゃあ振り向いてくれる様子もない。


あたし、脈ないなぁ…。


ただでさえへこんでるのに、余計へこませないでよね。


もう一つの思い出に毒づきながら、あたしは家路についた。





―――――――――――――――――――――――――




家に帰るとただいまも言わずに荷物だけをリビングに放り投げて自分の部屋へ向かった。


体をベットへ投げ出す。


ケータイを見るとやっぱり、


『7/6』という表示。


あたしにとってはもう七夕は苦い思い出。


本当は、あのおまじないもやってみようと思っていた。


でも、出来なかった。


次の日、つまり去年の七夕の日に学校へ行ったあたしは聞いてしまったのだ。


『高原と清水さんが付き合うことになったんだって〜』


『え〜!いいなぁ。織姫と彦星みたい』


『二人ともかっこいいし可愛いもんね』


なんて会話。


その後、あたしはすぐさま教室へ戻って高原のところへ行った。


そしたら、高原の隣には当然のように清水さんがいた。


二人とも楽しそうに笑ってる。


そこを周りの男子が冷やかしてる。


高原は恥ずかしそうに文句を言ってるけど、清水さんは楽しそう。


…やっぱり付き合ってるんだ…。


そこであたしの気持ちとおまじないへの期待は一気にはじけてなくなった。


そんな苦い思い出の日に、いくらあたしだって告白しようなんて思わない。


ましてや彼女がいるやつになんて。


告白できるわけがない。




―――――――――――――――――――――――――




「今日は七夕だね」


教室でそんな声をあたしは聞いた。


いや、聞かないはずもないんだけど。


「うん、そうだね」


あたしは出来るだけ深入りしないように曖昧な返事を返した。


一日たった今日は見事に晴れた七夕の日。


こんなにカラっと晴れてくれちゃってさ。


おかげでこっちはブルーだよ。


そんなブルーのままあたしは部活の時間を迎えた。


「あれ?高原いないね」


もうとっくに部活が始まってる時間なのに高原は姿を見せていなかった。


どしたんだろ?


もしかしてまた告られてるとか?


…ありえる。


諦めてるとはいえ、結構心配。


てゆーか、すっごく心配。


部活に来てまた高原に彼女が出来たなんてうわさ聞いた日にはもう泣くしかない。


そこであたしは忘れ物をしてることに気づいた。


…とってきちゃおうかな。


いつもなら次の日にーなんて後回しにする部活少女のあたしだけど今はちょっと別。


ほかにも教室に行きたい理由もあるし。


そっと部活を抜けてあたしは教室に戻った。


階段を上って行くとかすかな声が聞こえる。


「………付き合ってください!」


誰の声かはわからないけど語尾を強めたせかあたしにもはっきりと聞こえてしまった。


それを聴いた瞬間あたしの心臓は跳ね上がった。


だってこれって告白だよね?


気づかれないように階段を上ると隣のクラスの女子と…高原がいた。


余計に心臓の鼓動が増す。


…高原はなんて答えるんだろうか?


静かな沈黙の中で声にならないあたしの言葉だけがぐるぐると頭を回る。


「えっと…」


もちろんこの沈黙をやぶったのは高原だった。


「ごめん。俺、好きな人いるんだ」


…スキナヒト?


あたしの頭の中ですぐにその言葉が漢字に変換されなかった。


意外だったわけじゃないけど、心構えするにはあまりに時間が短かった。


その間にも話は続く。


頭には入らないけどとりあえず耳を傾ける。


「やっぱり…清水さん?」


「…いや、違う。他に好きな人がいるんだ」


あたしはその後の二人の言葉を全くといっていいほど覚えていない。


そこでただ固まっていた。


好きな人がいる?それも清水さんじゃない人で?


…意味わかんない。


だって、高原は清水さんと付き合ってたんじゃ…。


(ガラッ)


あたしの思考を現実へと引き戻したのはドアを開く音。


つまり…


「月島!」


高原が教室から出てくる音だった。


「………えっと」


沈黙に耐えられず小さくつぶやく。


その途端。


(ッカァァァァァ)


音がするんじゃないかってくらい高原が赤くなる。


首から耳まで真っ赤。


?そんなに高原が恥ずかしがるようなこと言ってたかな?


「…お前、聞いてた?」


「えっと、告白されてたところだけは聞いてたけど」


「その後は?」


「ううん、何も聞いてない」


「…そっか…」


安心したようにあたしへと近づいてくる。


「お前さ…、今日何の日だか知ってる?」


「七夕でしょ?」


あんたのせいで覚えてんのよ。


「今日晴れてるな」


「?うん、そうだね」


いまいち今の高原の会話には脈絡がない。


「あのさ…今日の夜。開いてるか?」


「今日の…夜?」


「あぁ、夜の6時半ぐらいから」


「別に開いてるけど…どして?」


「…今日だけの特別なもの、見せてやるよ」


そういって高原は階段を駆け下りていった。


「学校の前に6時半!絶対来いよ!」





―――――――――――――――――――――――――





その後のあたしといったら部活も帰り道をそれからも、


全くといっていいほど物事が手につかなかった。


だって…高原がだよ?


あの高原があたしを誘うなんて…絶対に何かある!


ポジティブに行けば傷つくこともあるかもしれないけどあたしの考えは止まらない。


部活から帰るとあたしは征服を手際よく脱いで私服に着替えた。


親にも友達の家に行くとごまかした。


今がちょうど6時10分。


普通に歩いていけば6時半に前には学校に着く。


あたしは家を出た。


だいぶあたりも暗くなってきていつもとは少しだけ違って見える風景。


通いなれた道をたどって学校へ着く。


「よお」


もう高原は学校についていた。


「6時25分か…んじゃ、もう行くか」


「行くってどこに?」


「言ったろ?特別な場所」


それだけ言って高原は歩き出した。


あたしもただ着いていく。


いつもの高原と違って、あのはじけるような笑顔がない。


今までに見たことないほど真剣な目。


その瞳のせいであたしは高原に一言も声をかけられなかった。


それから行ったのは学校のすぐ近くにある小学校。


そこについてみてあたしは少しびっくりした。


「お兄ちゃん今年も来たんだ!」


小学生に声をかけられた高原は優しく返答をする。


そうか…今日は、


「小学校の天体観測の日なんだ」


うろ覚えだったけどこの小学校にあたしも通っていただけあって


天体観測のことはかすかに覚えていた。


でも、何でこんなところに。


「悪いけど今日は遊べないんだ。ごめんな。


月島、行くぞ」


「え?ここに来たんじゃないの?」


「いや、もっと特別な場所」


そして高原はまた歩き出す。


向かった先は、校舎の中。


それも、屋上だった。





―――――――――――――――――――――――――





「開けるぞ」


高原が屋上の扉に手をかける。


そして開いた先には…


「綺麗…」


一面の天の川だった。


「だろ?俺の特別な場所」


それは本当に特別というにはふさわしい場所だった。


「でも、高原はどうして知ってるの?この場所…」


「俺な、昔小学校の天体観測の日に友達と喧嘩したんだ。


それでいづらくなって校舎が開いてたから入ったんだ。


俺昔から星とか見るの好きで、外には出れないから


校舎の中からでもよく見える場所がないか探したんだ。


それで、たまたまこの場所を見つけたってわけ。


その後聞いてみたら、望遠鏡とかは屋上の倉庫にしまってあるから


普段の日は空けないんだけど、天体観測の日だけ開けるんだって言ってたんだ」


「本当に特別なんだね…」


その日の高原だからこそ見つけられた場所。


嬉しそうに天の川を見上げながら語る高原の姿がよりいっそうにその“特別”を引き立てていた。


「お前さ…去年メールで七夕のこと話したの覚えてるか?」


「うん、覚えてるよ」


「それ…ためしたか?」


「…ううん、ためしてない」


だって試せなかったし…。


「それさ、今からやってみないか?」


「え?」


「ほら、もう後一分切ったぞ」


「ちょ、ちょっと待ってよ」


とりあえず願い事を考える。


…考えるほどのことじゃなかったけど。


「後10秒…9 8 7 6…」


「「5 4 3 2 1 …!」」


そのほんの一秒にあたしはとびっきりの思いを込めた。


高原への思いを…。


「あたし…高原が好き…」


その言葉は思うよりもずっと簡単に口にしていた。


あの時はこんなに重かった口が今では簡単に動く。


「高原が好きだよ」


あたしなりの、とびっきちの思いに笑顔を乗せて…。


「俺の願い、叶ったみたい」


「え?」


「お前と両思いになれますように…てな」


「高原…」


「俺も…月島が好きだよ」


そう微笑んだ高原。


ずっと言いたかった言葉が言えて、ずっと聞きたかった言葉が聞けた。


「あたしの願いも…叶ったみたいだね。


すごいね…このおまじない」


「だろ?」


そうはじけるように笑った高原は、とびっきりの笑顔だった。






―――――――――――――――――――――――――





皆さんは知っていますか?


このおまじない。


七夕の7月7日の午後7時7分7秒にお願いをすると叶うんです。


短冊に書くことが出来ない大切なお願いをこのおまじないに託してみてください。


きっと皆さんのお願いが叶いますように…。





『お前知ってる?


七夕の7月7日午後7時7分7秒に願い事すると


その願いが叶うんだってさ…』

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもおもしろかったです!!(^w^) 七夕に試してみたいと思います(笑)
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