第3話 燃えよサイキック(9)
その顔を見て、俺はすべてを理解した。
未来で活躍するという、俺とパウラとの間に生まれる子ども。その子が生まれるのを阻止するために未来から刺客が送り込まれた。その刺客から俺たちを守るためにヴィオレッタも未来からやってきた。
回りくどい手段で存在そのものを消そうとされるほど、その子のサイキックは強力なんだ。単純な話、それだけサイキックが強いのであれば、その子自身が未来からやってくるのが理に適ってるよな……。
『な、なんでてめえがこの時代に存在してんだッ!』
焦るオウロの声で、俺は我に返った。
「悪党に説明する義理は無い!」
ヴィオレッタはそう叫ぶと、巨大な火球をサイコキネシスで少しずつ押し戻していく。
「A級サイキッカーの力、見せてあげる!」
『ひいいいぃぃ!』
悲鳴とともにカラスが屋根から飛び立った。
「アイツ、逃げルヨ!」
「冬馬、私はここで炎を処理する。あいつはもうサイキックを使い果たしてるはず。パイロキネシスで攻撃される恐れはない。パウラと二人で、やっつけちゃって!」
「わかった! パウラ!」
「ハイ!」
俺は火傷を負った右手をパウラへと伸ばした。パウラがそっと手を握ってくれる。
次の瞬間、俺たちは空中へとテレポートし、カラスの行く手を阻んだ。もうヘロヘロだが、ここで決着をつける!
「お前は絶対に許さん! 仲間を操り、無関係な人を巻き込み、俺の家を焼き、パウラを泣かせたっ!」
『ゲエェェェーッ!』
「二度と来るなっ! こんの、イキリクソバードォォォォォォォッ!」
そう叫びながら、俺はカラスの首に巻き付いたアポイタカラを左手でつかみ、そのまま力任せに引きちぎった。
「カアァァァァッー!」
『おおおぉぉぉぉっ!』
カラスの鳴き声が耳に、オウロの思念が頭に入ってくる。
俺とパウラはそのまま地上へと落下していく。が、地面近くへとテレポートし、どうにか軟着陸することに成功した。俺はへとへとになりながら、
「だああっ!」
左手に持ったアポイタカラをコンクリートの舗装に叩きつけて、粉々に砕いた。
これで、オウロの精神体は元の時代へ戻ったはずだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
俺はパウラの手を離してそのまま地面に倒れ込み、空を見上げた。もう、すっかり暗くなっている。
終わった、やっと終わった……!
もう、一歩も動けん。サイキックは使い果たしたし、火傷で体のあちこちが痛む。せ、精魂尽き果てた……。
「トーマ!」
パウラが涙ぐみながら、俺を心配そうに見下ろしてくる。
「パ……!」
パウラ、と口にすることもしんどい。
「はぁ、はぁっ……!」
荒い呼吸を繰り返しているうち、遠くから消防車のサイレンが聞こえてくる。
遅せぇよ、もう……。
そこで俺の意識は途切れた。
★ ★ ★ ★ ★
気が付くと、長椅子に座っていた。
あれ? どこだ、ここ?
周囲を見渡すと、俺は病院らしき建物の廊下にいるようだった。俺以外の人間は誰もいない。なんでこんなところにいるんだっけ?
頭の中にもやがかかったような気分でいると、目の前にあるドアの向こうから、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
赤ちゃん。そうだ、生まれたんだ。俺と彼女の……。
俺はふらふらと立ち上がり、ドアに手をかけた。
会いたい。一刻も早く!
愛する妻子の顔を見るため、俺は勢いよくドアを開けた。
★ ★ ★ ★ ★
「あ、目が覚めたみたいだよ!」
「良かッタ! トーマ、ダイジョブ?」
二人の声が聞こえ、徐々に視界がはっきりしてきた。パウラと、Tシャツ姿の女性が俺を見下ろしている。
『見下ろしている』という感覚から、俺は自分がベッドで寝ていることに気が付く。
ドアを開けたつもりが、ベッドで寝ている。……さっきまでの光景は夢だったのか。
「パウラと……ヴィオレッタか」
Tシャツを着たショートカットの女性は二〇歳過ぎに見えた。褐色の肌だけでなく、顔立ちもパウラの面影を感じさせる。ヴィオレッタの素顔はあのとき一瞬見ただけだが、忘れようもなかった。
「ええ……」
ヴィオレッタはうなずくと何か言いかけたが、
「トーマーッ!」
パウラが俺に猛烈な勢いで抱き着いてきたので口を閉じた。
「良かッタ、良かッタヨ~!」
「ははは……」
泣きながら頬ずりしてくるパウラの体温を感じていると、自然と笑いが込み上げてくる。
助かったんだ、俺もパウラも。もう、命の危険は無いんだ……。
「昔からずっとお熱いんだね、お父さんとお母さんは」
ヴィオレッタが苦笑しながらつぶやいた。
次で完結です。




