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第3話 燃えよサイキック(6)

 翌日の月曜日、俺は私服でホテルから登校することになった。

 なんせ衣服も燃えた家の中にあるのだから、どうしようもない。日曜のうちに急いで量販店で買ってきたのだ。なるべく制服に近いデザインの白いシャツと黒いパンツを選んだけど、どうやったって目立つ。学校には親から事情を連絡済みだから、問題はないが……。

 ホテルの出口付近では、しっかり制服を着たパウラが待ってくれていた。

「オハヨウ、トーマ」

「おはよう。……なんか、眠そうだな」

 パウラの目が、なんだからとろんとしている。

「ンー、トーマいなイし、寝てルトキ襲われタラ危なイッて、ヴィオレッタ言うから。テツヤ? ダヨ」

 パウラが目をこすっている。まあ、万が一を思うと正解だろうが……。これからずっと徹夜するわけにもいかないだろうとは思う。

「大丈夫かぁ?」

「ダイジョブ。学校で寝ルから」

「はっはっは、それがいいよ」

 学校の方がまだゆっくり眠れる。それなりにまじめな高校生としてはどうかと思うけど、命がかかってるんだから、しょうがない。

「パウラ、これから安心して眠るためにも……決着をつけような、今日」

「ウン」

 俺の言葉に、パウラがまっすぐこちらを見て力強くうなずいた。


 案の定、私服での登校は目立った。見知らぬ生徒からじろじろ見られるのは無視しておけばいい話だが、クラスメイトからの質問はそういうわけにもいかない。

「玄葉、どうしたんだよ。制服じゃないじゃん」

 朝、教室に入って自分の席に座ると、事情を知らない福崎が話しかけてくる。どうせ隠すことはできないのはわかっている。

「学校には許可を得てるから、問題ないんだよ」

「許可? なんで?」

「土曜の夜、うちが火事になった」

「うっそぉ!」

 福崎が叫び声をあげ、クラスメイト達の視線がこちらへ向けられた。

 そこからはもう、俺の私服に気が付きながら遠巻きに見ていた女子も含め、矢継ぎ早に質問を浴びせられる。なんだか、ちょっとしたヒーロー扱いである。

 適当に質問をいなしながら、こんな形で目立ちたくはないもんだ、と思う。一〇人近いクラスメイトに囲まれていると、

「もうその辺にしといてやれよ。玄葉にとって、楽しい話題じゃないんだからさ」

 という声がした。龍田だった。

「それもそうか……すまん」

「ごめんね、玄葉くん」

「いやいや、別に気にしないでいいよ」

 龍田の言葉で冷静になったクラスメイト達が、自分の席に戻って行く。俺はため息をつき、

「悪いな、龍田」

「ああ、気にすんな」

「しかし、誰があんなことするのやら……」

「ひょっとして、心当たりあるのか?」

「……いや、ない」

 実際は心当たりどころか、確実な容疑者がいるわけだが、今この場で言うわけにはいかない。そうこうするうちに先生が入ってきて、教室は静けさを取り戻した。


 放課後、オカ研の活動の際に白瀬先輩へ火事の話をすると、

「えー! 大変じゃないの? オカ研でだらだらしてる場合じゃないんじゃない?」

 と言ってくれた。

「まあ、いろんな手続は未成年の俺じゃ何も手伝えないので、ホテルにいてもやることありませんし……。とりあえず普通にオカ研にいますよ」

「そう?」

 白瀬先輩は心配そうな様子だったがそれ以上は深く突っ込まず、俺たちは文化祭の展示について雑談交じりに話し合った。


 オカ研の活動が終わって四人で校門を出ると、一人だけ帰る方向が違う白瀬先輩と別れ、俺、パウラ、龍田で帰り道を歩く。午後五時半を過ぎ、薄暗くなってきている。

「なあ、玄葉」

 龍田が何気ない調子で話しかけてきた。

「なんだ?」

「お前が泊ってるホテルって、どこなんだ?」


 今かな。


 俺はパウラに目で合図した。パウラはうなずき、俺とパウラは早足で前に出て、龍田と距離を取る。そして龍田へ振り返り、

「お前に言うわけにはいかないな!」

 そう言って、俺はパウラにキスをした。力がみなぎってくる。

 唇が離れると、すぐにパウラがテレポートする。打ち合わせ通り、龍田の後方数メートルの位置だ。

 そこから地面に手をつき、ジルバラを倒したときと同じ、回転を利用した蹴りで龍田の頭を狙う。

 が、わずかに遅かった。

 龍田は気配を察したのか素早く振り向くと同時に、パウラの足を掴んだ。直接はヤバい、直接は!

「パウラ逃げろ!」

 俺が叫ぶと同時に、パウラは再びテレポートする。パウラが俺の側に戻ってきたことを確認してから、龍田を見る。

 さっきまでパウラの足を掴んでいた右手が、炎に包まれている。

「パウラ、大丈夫か」

「ウン、危なかッタけど」

 あと〇・一秒でも遅かったら、パウラは大火傷していたかもしれない。

 俺たちと龍田……いや、龍田の体を支配しているオウロは路上で睨み合った。

「……いつ気付いた?」

 オウロが余裕のある声で問いかけてくる。

「最初におかしいと思ったのは、白瀬先輩がオカ研に復帰した日だ。先輩が、また眼鏡をかけるようになったのに、龍田はそこに反応しなかった。あれだけ眼鏡好きだったのにな。それに、俺が『クールに去るぜ』って言ったのに、何も返してこないのも不自然だった。龍田なら『スピードワゴンかよ』とでも言う方が自然なんだ」

「そんなことで……」

「あんた、そのパイロキネシスは恐ろしいけど、大根役者だよ。せっかく龍田の肉体と精神を乗っ取っても、そいつになりきれていない」

「……」

 わざと挑発的な物言いをしてみたが、オウロは俺を睨みつけるだけだった。

「そして、俺の家に火をつけたことだ。俺の家は明かりがついていて、パウラの家は消えていた。だから俺の家を狙うってのはわかる。でも、確実に俺たちの命を狙うのなら、寝静まった夜中に放火するのが手っ取り早いはずだ。夜中の二時にでも火をつけられていたら、死んでいた可能性は高い。なのに、なぜそうしなかったのか。あるいは、できなかったのか?」

 オウロが龍田であることに辿り着いた過程を述べながら、俺はどうやってオウロを倒すか考えていた。

 不意打ち作戦が失敗した以上、俺とパウラが同時に攻撃するしかないか……?

「大人の精神を乗っ取っていたのなら、夜中に行動できるはず。夜中に行動できないってことは、親と一緒に生活している学生。あえて行動が制限される学生に寄生するってことは、俺やパウラの様子を探るため関係の深い人間を選んでいるはず。この時点で、龍田のことを強く疑ってたよ」

「ちっ」

 オウロが舌打ちする。俺はパウラの手を握った。

 一度手を握った後、手を離すのが攻撃の合図だ。

「確信したのが、今日さ。教室でお前は、『誰があんなことするのやら』と言った俺に対し、『心当たりあるのか』と返した。放火されたなんて俺は一言も言ってないし、報道もされていないのに、だ。あそこは『誰かに火をつけられたのか?』と驚いてみせるのが、自然な反応なんだ」

 俺はあらん限りの悪意を込めて叫んだ。


「何度でも言ってやる、この大根役者! バカ丸出しだッ!」

「てめぇッ!」


 俺の煽りにとうとうキレたのか、オウロが突如火球を俺たちに放り投げてきた。

 が、手を繋いだまま俺たち二人は地上から三メートルほどの位置にテレポートして回避する。

 手を離すと、パウラは一人だけで再びテレポート、オウロの頭を狙って鋭い蹴りを入れる。俺は地上に落下しつつ、ポケットからスチール弾を数個取り出し、

(龍田、すまん!)

 どうしたって体を傷付けてしまう友人に心の中で謝りつつ、サイコキネシスで狙撃した。

 が、パウラの蹴りも、俺のスチール弾も、龍田の肉体を傷付けることはなかった。龍田の肉体がその場に倒れ込んでしまったからだ。

 パウラの蹴りは空振り、俺の放った球は地面に当たり、そのまま転がっていく。

「なっ……!」

 龍田が意識を失った。

 ということは、奴は別の肉体へ逃げようとしている! 野郎、キレたように見せて、逃げ出すための目くらましに攻撃してきたんだ! どこへ……!

『そこ! 塀の上!』

 ヴィオレッタの叫び声が頭の中に響いた。

 コンクリートブロックの塀の上を、アポイタカラが蛇のように素早く動き、この場から離れようとしている。

「逃がすか!」

 俺はサイコキネシスで塀を破壊した。

 が、一瞬早くアポイタカラは塀から飛び上がった。アポイタカラが飛んだ先を見て、俺はショックを受けた。


 アポイタカラが、カラスの体に素早く巻き付いていたのだ。


『動物は知能が低いからよぉ、乗っ取るくらいあっという間なんだぜ』

 カラスがこちらを見てカァと鳴くと同時に、オウロの声がテレパシーで聞こえる。

『あばよっ!』

 そう言うとカラスは翼を広げ、上空へと飛び立った。空へ逃げるのは想定していなかった!

飛ぶだけなら俺だってサイコキネシスで可能だ。だが、奴に追いつけるのか……?

『冬馬、パウラのテレポートと組み合わせれば、追いつける!』

 ヴィオレッタが言う。

『ここで奴を逃がすわけにはいかない、でしょ?』

「ああ」

 またカラスから別の誰かに憑依されると、今度こそ正体がわからなくなってしまう。なんとしても今、あいつを倒しておきたい!


『じゃあ、とりあえず……パウラをお姫様抱っこしましょうか』


 ヴィオレッタの声は、予想外の単語を口に出した。


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