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第3話 燃えよサイキック(5) 

 それからは、嵐のようだった。

 我に返った俺は急いで消防に通報し、数分後には消防車が到着、すぐに消火活動が開始された。予想できたことだが、火災現場である俺の家にやってきた消防士の中には、父さんも含まれていた。

「冬馬! 無事か!」

 消防服を着込んだ父さんが、俺に声をかけてくる。

「父さん……」

「パウラちゃんもいるのか! 聞きたいことは山ほどあるが、話は後だ! 今はとにかく、火を消す!」

 それだけ言って、消防車へと駆けていく。

 父さんが消防士であることはもちろん知っていたが、実際に消火活動を行うところを見るのは一六年生きてきて、初めてだった。


 しばらくすると、どうにか火は消えた。が、俺の家は焼け崩れてこそいないものの、煤で真っ黒になっていた。とても住めるような状態ではない。

 他の家にはほとんど被害が及んでいないようなのが、不幸中の幸いと言っていいかもしれない。パウラの住む隣の家は、外壁が少し焦げた程度に見えた。

 その後、父さんを含めた消防にも、遅れてやってきた警察にも、深夜まで話を聞かれた。

 ま、しょうがない。鉄骨を落とされた事件で、警察に事情を聴かれるのは経験済みだ。そんなにストレスは感じなかった。

 一段落するころには、日付が変わっていた。母さんにも連絡は行ったが、新潟にいるので帰ってくるのは朝になる。

 いっぽうで、パウラの家族は夜中に大慌てで帰ってきた。ヴェルメリオさんが俺を心配し、

「冬馬くん、今夜はうちに泊まるといいですよ」

 と言ってくれた。俺はありがたく申し出を受けることにした。現実問題、寝るところがないのだから……。


 ヴェルメリオ家のリビングにあるソファで横になり、暗闇の中で考える。

 本当だったら今頃はパウラと二人で寝ていたのに……ということも頭に浮かぶが、すぐに火事のことに思考を切り替えた。

 どう考えても、ほぼ間違いなくオウロと言う炎使いの仕業だ。警察も、家の外から放火された可能性が高い、と言っていた。

 俺たちがコンビニへ出かけたあの時間に、ついに奴が仕掛けてきたのだ。警察には心当たりをたずねられたが、オウロのことは当然話していない。

 コンビニは徒歩五分の場所にあるので、家の照明は点けたままで外に出た。外から見れば、人がいると思うだろう。

 いっぽうで、パウラの家の照明は消えていた。おそらく、俺たちが外に出たタイミングで火を点けたのはたまたまだろう。奴の計画では、家の中にいる俺たちの息の根を止めるつもりだったのだ。

 もしコンビニに出かけていなかったら? パウラのテレポートで脱出できていたかもしれないが、気付くのが遅れていたら死んでいた可能性だってある。

 あるいは、もっと遅い時間帯であれば完全に眠っていたのでは? 

 別の日だったら、俺たちだけじゃなく父さんたちも命を落としていたのでは?

 ぞっとする。同時に、オウロへの怒りが湧いてくる。

 

 許さねぇ、絶対に……!

 

 暗闇の中で、俺は決意した。今度はこっちから攻める番だ。


 日曜になると、新潟から帰ってきた母さんと合流した。いつまでもヴェルメリオさんの家に泊めてもらうわけにもいかないので、とりあえず数日はビジネスホテルに泊まることになった。

 もちろん、ずっとホテル暮らしすることもできない。ホテルを出た後は、家が復旧するまでマンスリーマンションでも借りるしかないだろう、と父さんが言っていた。

「明日の月曜は学校を休んだほうがいいと親に言われたけど、行くことにしたよ」

「ソウ……」

 夕方、チェックインが完了した後でパウラがホテルに来てくれたので、俺たちはロビーでお茶を飲みながら話していた。

「ホテルにいても、やることないからな。それに、パウラを一人にするわけにいかないだろ。危険だ」

「……アリガト」

 パウラが申し訳なさそうに言う。

「いいっていいって」

 オウロがどこまで俺たちの現状を把握しているのかはわからんが、俺とパウラがバラバラに行動することになれば、奴の思う壺だ。

 いくらパウラが強いと言っても、あの炎の前には敵わない。一緒にいることが大事になってくるだろう。

「それより、新聞読もうぜ」

 俺はそう言って、ロビーにおいてあった新聞紙を持ってきて、机の上に広げた。パウラは目をぱちくりさせ、

「ナンデ? 漫画読ム?」

「この状況で四コマ漫画読まねーよ! 昨日の火事が記事になってないかと思ってさ。お、載ってた」

 地域のニュース欄に、小さくではあるが記事になっていた。パウラと一緒に読む。父さんの名前が出ている。死者は無く、火災の原因は調査中、と書いてある。

「ま、こんなもんか」

「ンー、全然わかんナイ」

 新聞記事はまだパウラには難しいようだ。

「パウラ、勝負は明日だよ。家を燃やされちまった以上、これまでと違って学校の外だと二人で行動するのが難しくなる。長期戦は危険だ。だから、こっちから仕掛ける」

 俺がそう言うと、パウラはびっくりしたようだった。

「仕掛けルッて、どうやッテ? 誰が敵かわかんナイ」

「いや、見当はついてる」

「エッ?」

「だから明日、尻尾を出させる。そのために打ち合わせしたくて、パウラに来てもらったんだ。ヴィオレッタも一緒に、頼むぞ」

『ええ』

 ヴィオレッタの返事が頭の中に響く。


 いい加減、ケリをつけてやる!


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