第2話 ときめきに死す(8)
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ジルバラと連絡が取れない。
「これは、失敗したかな」
オウロはベンチに座り缶コーヒーを飲みながらつぶやいた。
今の人間の体に憑依してから、たまたま自販機で買ったところ気に入ってしまい、毎日三本は飲んでいる。犬に憑依していたときは味わえなかったものだ。
ジルバラはただ失敗したわけではないだろう。オウロのようにうまく逃げたのなら、なんらかの報告があるはずだ。
それぞれが思い思いに行動するが、連絡は取り合って情報共有することにはしている。それすらも無いということは、奴らに捕まったか、アポイタカラを破壊されたか。
自分でも驚くほど、動揺していない。むしろ、余計なことを考えなくて済み、助かるくらいだ。いくら精神操作に長けているとはいえ、あの女のやり方は生ぬるいし、回りくどい。
何事もシンプルがいい。シンプルに、標的を殺すのが。
ちょうど、乗っ取ったこの体も馴染んできた。パイロキネシスの調子が上がっている。やはり犬の体よりは、人間の体の方が慣れているだけ動きやすい。
知能が低い分、憑依後の肉体掌握が簡単だからと犬を選んだのが失敗だったのだ。最初から人間の体を乗っ取っていれば、あいつらを楽に始末できたものを……。
玄葉冬馬とパウラ・ヴェルメリオ。
大事なのは、二人が一緒にいないときを狙うことだ。キスによりサイキックが強化されると、厄介なことになる。どちらか一方だけなら、オウロの能力であれば確実に始末できる。
ただ、そんなことは玄葉冬馬たちも理解しているだろう。可能な限り、二人で過ごしているはずだ。こちらとしては、襲撃するタイミングをじっくり考える必要がある……。
缶コーヒーを飲み干すと、オウロは空き缶をゴミ箱に入れず、パイロキネシスで焼き尽くした。スチール製の空き缶が一瞬だけ音を立てて激しく燃え上がり、跡形もなく消え去る。
どちらか片方だけでも焼き殺し、元の時代へ帰る。それだけで、ミッション達成だ。莫大な金が手に入る。いや、それだけではない。組織での立ち位置も変わってくるだろう。
まさに、輝かしい未来が俺を待っているじゃあないか!
オウロは自然と顔がにやけてくるのを感じ、口元を右手で押さえた。その手には、わずかに熱が残っていた。
次の第3話が最終章になります。




