異変
ふかふかの何かに横たわっている。
「ん、う……」
どこか知らない場所で一人で眠るアルテラの身体が、もぞりと身じろぎした。
意識が徐々に覚醒したのだ。アルテラはぼんやりと、重たい瞼まぶたを開けてゆく。室内を照らしている光の魔道具もある。この展開に見覚えがある。最近気絶することが多い気がする。ぱちぱちと瞬きをして目を細め周りを見渡す。
(ここは……?)
見慣れぬ天井が視界に映った。ギルドではないんだ。続けて視線を動かして室内を見回すと、病院の独特の雰囲気が感じる。
(病院なのかな.....?)
どうしてここで眠っているのかな? アルテラは白濁とした思考回路で、記憶を振り返る。
(確かエレボスを倒して、迷宮を出たんだ……)
迷宮の中で何かあったレイナを追いかけるために。そして、決死の死闘を制したんだよね…
「っ!?レイナの所に行かないと」
体を起こすと、けだるさが襲ってきた。身体の痛みがないが精神的にはだめだしい。
動こうとじたばたしていると、扉が開きナースさんが顔をゆがめている。いや、慌てている。
「ちょっと、あなた何しているの!!」
「ひっ、た、立とうとしているだけですけど…」
いきなり怒鳴られたアルテラは悲鳴を上げてしまった。
「あなたは三日も寝ていたのに、いきなり動くなんて信じられない」
「ごめんなさい…」
なんか、お母さんに説教されているみたいで居心地が悪い。
「分かればいいわよ。あなたは迷宮のそばで倒れていたのよ。」
「あの、私のそばにもう一人いませんでしたか?」
「銀髪の美人な子?」
「そうです。無事なんですか?何もありませんか?今どこにいるんですか?」
身体をナースの方に近づき、レイナの事について尋ねた。
「落ち着きなさい。あなたと一緒にいた子は無事よ。まだ眠っているけどね」
それから、ナースさんにここまでの経緯を話してくれた。
私が迷宮を脱出して気絶した後、それに気づいた。他の冒険者はすぐさま対応をして病院まで連れて来てもらった。この病院は医療手段の揃っており、迷宮国家アーガスで最も大きい病院だ。
大量の失血、瀕死状態でも魔法使用、強引な治癒魔法、幾度となく限界を超えた連続魔法で、私とレイナの身体はボロボロになっていた。すぐに入院が必要だと医師から通達され、ナースさんから聞いた治療費の金額に固唾を呑んだ。手持ちでは全然足りない。なんと、この金額はギルドマスターが払ってくれたらしい。もしそれがなかったら、エレボスの魔石を売るところだったよ。
そして、ナースさんにレイナのところに連れて行ってほしいと真剣にお願いしたら、最初は渋っていたが折れてくれた。
国内最大の病院ということで、私がいる病室も上等なものだった。私の世界のものと比べると劣るけどね。
病室内には簡素な空気を清浄にする魔道具が置かれており、ほかに見たことのない魔道具が設置されていた。この世界では治癒魔法が使える人が少ないから、魔道具でサポートしているのだろうか。
「私は仕事があるから戻るけど、無理しちゃだめよ」
「分かりました。ありがとうございました。」
レイナのいる病室に入り、ノックをすると男の声が返ってきた。
ベージュのカーテンが風に揺れ、その下にベッドが置かれている。ベッドの上で、レイナは寝息を立てていた。医師の処置によって、顔色が良くなっている。
レイナの寝るベッドの傍には、老年の医師が木の椅子に座っている。
「お嬢ちゃんはこの子の知り合いですか?」
「はい。友達です。」
「それは良かった。レイナさんの状態について説明したいのですがよろしいですかな」
「お願いします」
医師は部屋にあったもう一つの木の椅子を持ってきて、座るように促してくる。私はそれに座って話を聞く。
「レイナさんは身体の表面は目立った傷はありません。服に大量の血がついていたのに傷がないのは奇跡ですな。ですが、身体の中にいいとは言えない状況ですな、なにかで強引に身体を再生したのかわかりませんが身体の中はぐちゃぐちゃですな。ですが、ここで安静にしていれば命には別状はないでしょう。」
「よかった」
「ですので、元気を出してください。君も安静にしてないとまだ子供なんだから。あまり無理をなさらずに。それでは」
「ありがとうございました」
医師からの説明を終え、部屋から出ておく。
お礼を言いながら頭を下げた。
そして、部屋が静まり、カーテンになびく風だけの音が響く。
「う…ん」
背後から声がした。
後ろを振り向くとそこにはレイナが目を覚ましていた。
「レイナッ!!」
嬉しさのあまり抱き着いてしまった。
「無事で本当に良かった」
「あの、あなたは誰ですか?」
レイナの口から信じられない言葉を聞いてその場に固まってしまった。
「えっ? な、何言ってるのアルテラだよ」
「ごめんなさい、人間違いじゃないですか?」
その瞬間、膝からこぼれ落ちた。




