夢
夢を見ている。
それは夢でありながら過去の記憶の追憶だ。
あの日の暮らしの出来事を・・・私は夢として見ているようだ。
しかし、記憶は鮮明に再現されない。夢なのだから当然だが、あの日の出来事は絶対に忘れないと思っている。その記憶は、かすれたテープのように多くの雑音が入り交じっている。
けれど、断片的な光景しか再現されなかったがはっきりとわかる。
この夢はあの日の記憶だ。
あの暮らしが終わりを告げる前の記憶だ。
あの日、私は自分の生き方をはっきりと決めた日だ。
その日、街へ行った両親が帰る途中で魔物に襲われて亡くなった日の事だ。
私は、部屋で泣きじゃくっていたが最後の家族の兄が私に向かい合っていた。
夢の中の兄は優しく微笑む。
もう、世界で一人しかいない兄。名前はレン。
住んでいた村では周りのみんなから頼れるお兄さんだった。お父さんの髪と同じ金髪で私の自慢の兄だ。
兄は小さいころから身体が丈夫ではなかったが、いつも笑顔で接している、身体は白く、白い肢体を動かし、部屋の隅で丸くなっている私の元に寄ってきた。
白い腕が、私の白い髪に手を置き優しく頭を撫でてくれた。
「うぐっ、兄さん…なんでそんなに平気なの?」
「確かに悲しいけどね、でも僕にはまだレイナがいるからね。悲しさよりうれしさの方が勝っているんだよ」
その目は、私の瞳を真っ直ぐに見据えていた。
「悲しいよ、兄さんみたいに考えられないよ...」
泣きながら、声をしっかり出し放った。
「そうだね、でもレイナが一緒にいることが僕にとっての幸せだよ。これからはずっと一緒だ…」
レイは真剣に誓う。
「でも、それだと大好きなシズちゃんと一緒にいられる時間が減って会うことが出来なくなるよ。そでれも構わないの?」
「確かにそれはつらいね、けど、我慢するよ。もうレイナには僕しかいないだから、シズに会う暇なんてない。これからは僕がレイナを守らないといけないからね。…なにがあっても守ってみせる。」
その日、私たちの家族から両親という存在が消えた。
私はあの時兄さんが何を守ろうとしたのかわからない。一人になった私を守るのか、他の事について守るのかさえわからない。あの日兄はいつもと違っていた。今更だがなぜ気づかなかったのだろう。
「これから兄さんが私を...?」
「うん、守る。ずっと一緒だよ」
レイが私に小指を向けてきた。すかさず私も小指をだし指切りげんまんをした。
私は兄さんの胸に抱き着いた。
涙が止まるまで、震えが止まるまで、悲しみが癒えるまで、ずっと。
抱き着いて、わかった兄さんもかすかに震えていた。私のために我慢して慰めてくれたことが分かった。
レイナはゆっくりと小さな口を動かす。
心の底から安堵した様子で言葉を紡ぐ。
「これからずっと一緒なんだね…本当にうれしい」
その日、私も兄さんを守ると決めた日……これが今の私にとっての全て。
だがー
ーこの夢から覚めてしまえば、私は兄さんと一緒ではなくなる。
もう会うことが許されない、現実に引き戻されてしまう。
いま私はこの世界に一人でいる、兄さんとは会えない世界。会えなくなってしまった。
だからーーなにがあっても。絶対に。命に代えても、必ずーー私は復讐を成し遂げなければいけない。
私は本当に兄さんと生きていたかった。
あの優しい兄が、奴に殺された。なんで、また私たちが不幸にならなければいけない。
「でも、もし僕もいなくなったら一人でもいいから心の底から大切と呼べる友達を作るんだよ。」
最後に兄さんの言葉を聞いて、言葉を紡ごうとする。
だが、夢の中の部屋にいる過去が再現できなくなる。
夢が破綻していく。
パラパラに崩れる鏡の破片のように、空間が欠けていく。
部屋のベットと扉が消え、灯りと家具が消え、天井と床が消え、兄さんが消えていく。
そして最後にに残ったのは自分と底の見えない暗闇だけ。
夢が闇に呑まれていく。
目が覚めたとき、この夢を私は忘れているだろう。
そうしなければ、私はこの世界で兄さんに向ける顔がない。五年も待ちわびた復讐相手がすぐそこにいる、命に代えても殺さなければいけない相手。
覚えていれば、焦燥感と罪悪感で気が狂ってしまうかもしれない。兄さんは望んでいないと思う、だがここまで来るのに私は多くの犠牲を払ってきた。もう、戻ることさえも許されない。
あとすこしで、復讐をやり遂げることができる。
そろそろだ、あと少しで私は目が覚める。
闇が薄まり、覚醒が近づいているのがわかる。
起きれば、一人。
そして、私は目を覚ます。
目を、覚まして、私はまた一人ー
◇ ◇ ◇
目が覚めれば迷宮で、周りには魔物除けのアイテムが作動している。
ここまで来るのに、たくさんの人を不幸にさせた、私も、血が流れて、死にかけたことも多々あった。死体から追いはぎをすることもあった。
奴を追いかけるために、一緒に行動してた人を囮に使い、自分が追いやすいようにした。アルテラと初めて会ったとき何故か懐かしい雰囲気を感じた。レアアイテム狙いのあの男に追いかけられていた時だ、アルテラが来なければ確実にあの男を殺してただろう。
私は名前をアルテラに教えた。その日家に帰ると、無性にアルテラに会いたくなった、次の日になるとその気持ちが溢れてくる、五年の間、もう感じることのない感情だと思っていた。だから私は、アルテラとあった次の日に外に出て、探し回った。奇跡的にアルテラを見つけて、買い物をした。顔には出さなかったが楽しかった。アルテラからもらったネックレスは肌身離さず持っている。
迷宮の探索も楽しかった。今さっきに、見捨てた相手を思っている。本当にこのまま見捨てていいのか、時間は何時間過ぎたのかさえ分からないが、もしかしたらまだ生きているかもしれない。戻った方がいいのか?もしかしたら…
レイナの思考が混乱し始める。
どうしたらいいの?なにが正しいの?あの懐かしい雰囲気をもう感じることが出来なくなるかもしれない、どうすればいいのかわからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
なにがいいのかわからないよ。
《称号スキル・復讐神の加護》が発動しました。
頭の中に声が響いた。
ーそれは、いらない感情だよー
混乱していた頭の中が一瞬で冷静さを取り戻す。
また、発動した。
しかし、もう慣れたものだ。
さっきまでの考えが綺麗に消えて、現状の把握を進めて、本来の目的について考える。
奴を追いかけて、地下の階段を何度も下った、だか奴の姿が一向に見当たらない。気配だけは確かにする何処かに誘導しているようだ。
地下に下っているときも、魔物に幾度になく襲われた、徐々に強くなっていく。
ここで死んでしまっては元も子もない。
私が動き出すと奴も動き出す。
時間が過ぎていく、とうとう奴の姿が見えた。
「やあ、ここにきた目的を教えてもらっていいかな」
蠢く黒い液体の身体。凹凸のない能面のような顔が目的を分かっているのに問いかけてきた。
「兄さんの仇…」
「あきらめてたかと思ったよ、じゃあ、殺してみなよ」
もう、いくつの感情が残っているのかわからない。
奴を殺せばもう何もいらないからいいや。
「殺す……」
end




