迷宮探索②
粘液まみれになりながら戦闘は終わった。
「レイナ、洗浄かけるね」
「うん...」
お互いの戦闘スタイルが多少分かった所で中層に行くことになった。
中層は上層と違い魔物の種類が多い。D,E級の魔物は単体ではなく群れて襲ってくるらしく、危険度が低いからと油断すると足をすくわれる。
中層の下に行くにつれ、B級魔物が普通に出るらしい、オーガぐらいの魔物がいるなんて、一撃でHPの半分以上削られたのに、さっきみたいに油断すると確実に殺される。
もし、中層でモンスターパレードに出会ったら冒険者は死を覚悟する。
「陣形だけど、アルテラが先頭で後ろに私がつく...」
陣形の確認をして、地下11階層に続く階段を見つけて下に下りる。
景色が変わった。そこは、辺りは太陽に照らされているかのように明るく。岩石地帯だった。
足場は平らなところもあれば凸凹のある場所もある。火山付近の地形に似ている。
気温は上層に比べて高く蒸し暑い。
レイナから聞いたが本当に景色、気温、地形が変わるなんて
ここからは、未知の領域だ慎重に行かないと。
「アルテラ、足元!」
これまで聞いた声の中で一番大きな声がレイナが叫んだ。
「えっ?」
いきなり、足元が崩れ大勢を崩す
(やばい、落ちる...)
落ちる寸前に手が伸びてきた、咄嗟に掴んだ。九死に一生を得た。
下に顔を向けると暗黒だ、もし落ちたらどうなっていたのか。
「ありがとう...ねえ、もし落ちたらどうなったの?」
「一気に下の階層にいって、自分のレベルに合わずに死ぬ...」
よかった。落ちなくて…
「気を付けて、落とし穴があるから。」
「はい」
それから、アルテラを先頭に立って慎重に進んでいく、ここからはシズさんに頼まれていた魔物の調査もかねて探索を行っていく。
【索敵】に魔物の反応が近づいてくる。反応から察するに1体だけなのに、圧倒的な存在感は何...?
本能が逃げると言っている。
姿を現す。
【鑑定】
■ ■ ■
『名前』炎帝猿
【危険度】S
【状態】怒り
HP:2100/5400
MP:350/2000
ATK:5200
DEF:4000
AGI:2000
MAG:3400
INT:1000
LUK: 500
【エクストラスキル】
【火炎魔法】Lv6
【ノーマルスキル】
威圧 LvMAX
索敵 Lv6
警告 Lv5
鉄壁 Lv7
身体強化 Lv8
身軽 Lv8
火魔法 LvMAX
剣術 Lv6
体術 Lv5
投石 Lv7
魔法適性:火
耐性:打撃 Lv5
耐性:空腹 LV4
耐性:疲労 LV6
耐性:痛覚 LV7
耐性:火 LVMAX
耐性:即死 Lv3
【称号スキル】
【五帝猿の王】
■ ■ ■
「・・・・・・」
これは、絶対に勝てない…
見上げるようなその体躯は、毛の下でもわかる全身縄のごとく盛り上がった筋肉に包まれている。毛は赤黒、分厚い胸板の上は凶悪な猿だ。
眼は、これは青白く燃えているかのような輝きを放っている。その視線は明らかにこちらにひたと捉えられているのが解る。怒り狂っている。手には今まで見たことがないくらいの大剣を持っている。
いくらダメージを食らってるからと言っても、勝てるビジョンが湧かない。
そこまで読み取った時、突然赤い猿がドラミングをし、轟くような雄たけびを上げた。その周囲から炎が溢れ激しく揺らぎ、びりびりと振動が地面に伝わってくる。
口と鼻の息が激しく、右手に持った巨大な剣をかざしている。
◇ ◇ ◇
魔物は、炎帝猿は怒り狂っていた。
猛る息を吐き、全身の筋肉を動かせる。長く伸びる赤黒の毛が風によってなびく中、奴を探して前進を繰り返した。
彼が探しているのは、我に勝負を挑みプライドを傷つけた『奴』を探している。
脳裏に過ぎるのは、全身が陰でできているかのような顔の表情がないが嘲笑っているのような後ろ姿。
五帝猿の王の中の一人の我を傷つけ、勝負の途中に笑いながら逃げ出す始末、怒りが込み上げてくる炎帝猿は、これまで抱くことのなかった抑制不可能な衝動に駆られた、『奴』の背の後を追った。
王である我の威厳を
王である責務を
プライドを踏みつけた『奴』を殺す
どこまでも純粋な本物の本能が行動させる。
「ガァアアアアアアアッ!」
背を追いかける、逃がさぬ。
一角の曲がりで、頼りにしていた『奴』の姿が見えなくなった。正気を半ば失っていたことで道を間違えたか、『奴』の姿が消えた。
炎帝猿はその場で一度停止し、己の呼吸を整える。周りには岩だらけだ、正気を取り戻し気配が強い2人の反応がする。
我と戦ったことのある人間とは明らかに異なる特別な存在。それは『奴』が我をここに連れて来たかのような、その反応がする方に向かって。彼は一歩を、大きく踏み込んだ。
◇ ◇ ◇
アルテラ達がいる上空で暗みに同化しながら眺めていた。
「炎帝猿を怒らせるの、苦労したんだよ。でもあの子に合わせることができたよ」
二日前にこの迷宮に強い気配を感じた。その気配はある御方の気配にあまりにも似ていた、その姿は少女だった。まだ、自分の奥底に秘められている潜在的能力にまだ目覚めてないのだろう。
本来は殺さないといけない存在、あの御方のようにならせない為にも。
だが、この世界はあまりにも退屈だ、その欲求が使命より勝ってしまった。
「ここで、負けたらそれでいいかな、面白そうだし。あれ、後ろの子って…」
あっ!
「何年か前に生かしといた子じゃん、まだ復讐あきらめてないのかな?」
どこか、あっさりしたような陽気な感じで言う。
「でも、こっちには気づかないかな?」
その考えは外れ、あの子が私が同化している暗闇を一点に見つめて、徐々に顔が憎悪に染められていく。
「へぇ~、気づいたんだ。」
口元を緩め、移動を開始した。




