もう、誰もいらない
夜の空のような、暗闇に私は居た。
ここはどこだろう...?
あ、思い出した。 迷宮だ。
あいつはいない出てくる気はないのだろうか?
憎い...
朦朧とした意識を覚醒させた。
体中にはそこらかしこに傷がある。
痛みを感じるほどの異臭が鼻孔の中へと侵入してくる。
「ッー!?」
身体を起こして、周囲を確認する。
光っている鉱石がそこらにある。警戒しながら異臭のする方へ進んでいくと曲がり角から轟音が鳴り響き休息を許さない。
「ウォアアアアアアアー!! 」
獣の向きがこちらに向いた。
死ぬ… 動け、動け、動け
あっ、動いた…。考えがまとまらない。だが咆哮がする反対側に走った。
ー私は弱いー
光が差す方へ、何度も何度も道を折り曲がるが、光景が一向に変わらない。
慣れない岩道で体力が削ら出る。
その途中、気色が悪い音が鳴った。
何かなじみが深い感触がした、足元を確認する。
身体の部分がバラバラの人間の死体があった。
故郷のみんなもこんなように
「うっ!!」
同時に喉から反吐が出た。
目の前には死体を食らうオオカミがいる。
すかさず、魔物がいないところへ走っていく。終わりが見えない。
走り続けた、体力の減りが早く、速度を落とし息を整える。
「ウォアアアアアア」
さっきと同じ咆哮だ。なんで....?
また、違う道を走った。血の気が引いてきて、身体が思うように動かない。
すると、人の怒声がだんだんと聞こえ、他の声も拾えるようになっていく。
「ぐっ!ーーーっ!」
内容までは聞き取れないが、なにかと戦っているようだ。
私は、なぜか人の方へ向かってしまった。
ーそこはだめ、あなたの復讐に必要がないものー
私は求めてしまった、心の奥で、『人』を求めってしまっている。
徐々に声がはっきり聞こえるようになってきた。
「そこを攻撃しろ、距離をとって、隙をみて逃げるぞっ!」
指示を出している男とその指示を聞く仲間らしき人たちが魔物と戦っている。
大きな盾を持っている者、杖を掲げて魔法を放つ者、大剣を力任せに振り落としている者がいる。
だが、私にはあれほどの大きな盾、魔法、大剣を扱う力がない。
ーどうして、こんなに弱いー
リーダーらしき者が、人型の魔物を切り倒し、反対では盾で狼の魔物を受け止め魔法で次々倒している。
杖を持った女が1体の魔物に引き飛ばされた。
すかさず、仲間たちが吹き飛ばされた女の前に立ち、陣形を変えて交戦している。
「陣形を変えて応戦しろ!! あと、〇〇〇にポーションを飲ませてフォローに回れ!!」
そこから、曲がり角の近くにいる、私の方へ近づいてくる。
助かるかもしれないとすこし思ってしまった....
そして、リーダー格と思われる男と目が合った。
「なっ!なぜここにガキがいるっー!」
男は事態を飲み込むのが遅れ驚いた。私に怒声を浴びせた。一瞬身体が膠着状態になったがすぐに我に戻り、声を放つ。
「魔物からにげてきて、た、たすけて....」
ー助けを求めて、どうするの?-
男の方へ歩んだ。助かると思い、
「助けてだと? ガキ、馬鹿か?」
男の反応が私と思っていたものと違う。あきれたよう声に冷めたような視線が向けられる。
迷宮で事はすべてが自己責任。冒険者になったら誰だって知っている。子供さえも知っている知識。
「えっ?」
なにが起きたの?
あっ、この状況で助けを求めた、男は魔物と戦い、仲間がけがをしている状況で、魔物が怒り狂っている状況で。でも、たすけてほしい。
いきなり、男が冷めた表情から真顔になった。
「ガキ、ここは迷宮で迷宮で何かあっても自己責任だってこと知ってるよな?お前がここに居るってことは、覚悟があるからだよな。」
言っている意味が分からない。
ーほら、わかっていたのにー
激痛が伝わってくる。足に剣の刃が襲う。燃え上がるような熱が来る。
「うっ。うああぁぁぁぁーー!」
斬られたことを、理解した、痛みに悶えて床に尻がつく。
「こいつを囮につかう、なすりつける、直ちに下がれ!」
言葉が理解できない。いや、わかった、わかっていたんだ。
怪我をしていた女は私を見て憐みの視線を送り、隣を通り過ぎていく。
私を斬り付けたリーダー格の男も、大きな盾を持っている者、その他の人たちも冷たい目をして、無言で私の後ろへと走り去っていく。
つまり、あいつらが戦っていた魔物は、自然と私に向いた。
足が動かない。避けることもできない。
「アハッ、ウヒヒヒヒ、アハハハハ!」
笑いが込み上げてくる。
思考が氾濫する。様々な悪感情が吹き荒れる。今までの出来事が、思い出が人生が思い起される。あの出来事も。
ーやっと、分かったんだね、あの日の誓いをー
「うん、わかったよ、復讐に助け何っていらない。使えるものは復讐の犠牲にしながら、なにがなんでも復讐を果たさないと」
そしてーーー
ーそうだよ、やっと一つになれるねー
《称号スキル・復讐神の加護》を獲得しました。
頭の中に声が響いた。
傷が時間を巻き戻すように治り始めた。
心が、頭が冷めていく。
氾濫した思考が沈静化され、悪感情も消え去り、全てが冷めていく。
私に向かってくる魔物、私を囮に使った人間、私が殺してやる。
その刹那、魔物たちから血が大量に噴出す。
「なんで、今までこんな雑魚から逃げてたんだろう。さて、囮に使った奴を殺しにいこ。」
もう、戻れないや。
◇ ◇
男が息を切らしながら言った。
「はぁ、はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫だろ。」
盾を持っている男も言った。
「さっきの子には申し訳ないが..」
杖を持つ女も言った。
「あんな小さい子を..」
「しょうがないだろ!ここは迷宮でいつ誰が命を落とすかわからない。」
「わかってるけど、わた…」
途中で言葉を遮って、走っていた反対側に顔を向けた。
少女は言葉を言った。
「やっと、見つけた」
囮に使った連中は信じられない光景を目の辺りにしている。
その刹那、何が起こったのかわからず、人生の終わりを告げる。
そこから、静けさを取り戻し。
「兄さん、絶対にあいつを殺して仇を取るよ」
迷宮で、一人掠れた声と血の匂いだけが残った。
ブックマークと評価をお願いします
 




