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旅する竜  作者: 山鳥月弓
歩き出した三人
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白竜公の邸宅

 今日もまた昨日と同じくアスラが最後だった。

 木刀を渡され職員さんが構えると、アスラは下段に構える。

 どうしたのだろう? 下段に構える必要どころか、上から振り下すだけなのだから振り辛いだけだと思うのだけれど。

「手合わせしてください」

 アスラのその言葉に見ていた人々からざわめきが起きる。

 アスラはただ木刀を振り下すだけでは物足りないらしい。

 職員さんは木刀を下した。

「悪いが、今はそんな事をする時間はないんだ。暴れたいのであれば冒険者として仕事中にやるといい」

 職員さんの顔は少し呆れているようだった。


 再度、職員さんが頭上に木刀を構える。

 アスラは諦めたらしく、今度は上段に構えると、一気に職員さんへと間合を詰め、木刀を振り下した。

「ばん」という鈍い音と共に振り下した木刀は砕け散ってしまい、職員さんの持っていた木刀も折れてしまった。

 どうやらアスラは本気で打ち込んだらしい。

 職員さんは苦笑いでアスラと話し、それが終わると、とぼとぼと残念そうな顔をしながらこちらへと戻ってきた。

「やりたかったなぁ……」

 アスラは剣術にはそうとうな自信があるようだ。


 それからは昨日と同じような、講義によってはまったく同じ内容の話を聞き、その日は終わった。

 アスラは今日も、昨日と同じように居眠りばかりしていた。流石に僕も同じ内容の講義にはうとうとと眠りそうになっていたけれど、昨日と同じ内容なので問題ないはずだ。

 最後に受け取った登録証には『ラプ・ファクタヴァル』、『剣士』と彫り込んである。

 僕はミエカと同じ剣士になることができた。


 二枚の登録証を首から下げ、冒険者組合を出る。

 今から僕は冒険者だ。

 嬉しくて、二枚の登録証を並べて見ながら歩く。アスラも横に並んで歩きながら僕と同じように自分の首から下げている登録証を並べて見ていた。

 突然、誰かから呼び止められたような気がして立ち止まる。

「――さん。私と一緒に来て頂けますか」

 後ろを振り向くと、昨日の講習に居た白竜公の娘が立っていた。

 昨日の事があった所為で、その白竜公の娘の姿を見た瞬間、僕はその呼び止められた相手がアスラなのだと勘違いしてしまい、アスラへ向かって「呼ばれているみたいだよ」と言ってしまった。

「いや、呼ばれたのは君だよ。ラプ」

「え? 僕?」

「はい。ラプ・ファクタヴァルさん。あなたです」

 僕は冒険者に成ることができたという事が嬉しすぎて、周りの音すら耳に入っていなかったらしい。


 僕はアスラを残し、白竜公の邸宅へと行くことになってしまった。

 冒険者組合の門前に止めてあった馬車へと乗せられ白竜公の邸宅へと馬車は走る。

 もちろん、用があるなら今すぐ言ってくれと言ったが、「ここではお話できません。話の内容はあなたの『本当のお父さん』の事です」といわれてしまった。

「本当の父さん?」

「はい。この人……、この名前の方です」

 そう言って、掌に書かれた名前を僕だけに見えるように見せる。

 そこには「ロヒ様」と書かれていた。

 これは無視することはできなさそうだ。

 下手をすると、この娘は僕が竜であることも知っているのかもしれない。


「えっと、ここでなら、話をしても良いんじゃないかな?」

 馬車の中には僕と白竜公の娘しかいない。

 この馬車の中でも問題ないはずだ。

「いえ。話は私だけではなく、私の家族全員で聞きたいことなのです」

 どのような話なのか、まったく想像ができない。

 ロヒは僕が生まれる随分前に冒険者を止めて、人の世界へは行っていないはずだ。少なくとも、僕が生まれてからの二十年はミエカ以外の人間とは会っていないはずだし、その後は死んでしまったのだから、この四十二年間は人間との関わりはないはずだ。

 つまり話の内容は、僕が生まれる前の事ではないだろうか?

 そんなに昔の話を僕に訊かれても困る。


 到着した邸宅の敷地は広大で、門から邸宅の玄関まで五分くらいは走っただろう。

「どうぞ、お降りください」

 玄関先へと馬車が着きそこで降りると、これまでに見た事がないような部屋へと通された。

 見た事が無いということで言えば、玄関からこの部屋までも見た事がないような場所だったけれど。

「そちらへお座りください」

 僕の服で座ってしまっても良いのだろうか?

 この服を洗濯したのはいつだっただろう?

 まあ座れと言うのだから座るしかない。汚れてしまっても、この娘が言ったことだから責任は取らなくて良いはずだ。

 革張りの三人程が座れる長椅子、後で知る事になるが、これはソファーと言うらしい。それに座り、待った。


「済まないね。突然呼び出したりして。私がこの家の家長のイサギオス・ヘッテ・リマーと言う者だ」

 僕の前に座ったのは、イサギオスと名乗った、つまりは白竜公だけで、他は立ったままだったり別の椅子へと座ったりしている。

 総勢四人で僕を取り囲むようにして、話の前に自己紹介をすると言い出し、一人一人が名前を言った。

 名前なんかどうでも良いので本題に入って欲しいが、これが人間の上流階級での作法なのだろう。

 イサギオスの妻はアーシャ、その夫婦の長男でイソヴェリ、そして末っ子のヴェルと自己紹介が済み、やっと本題に入ることができるようになったらしい。


「さて、本題なのだが、その前に確認しておくことがある。君はロヒさんの子供で間違えないかな?」

 困ってしまう。

 素直に「はい」と答えて良いものなのだろうか?

 僕の親はロヒであることに間違えはない。その事だけを伝えよう。

「イサギオスさんが言うロヒと同じかは判りませんが、僕の本当の親はロヒと言います」

「うん。やはりそうか。顔は君と似ていて、髪の色も君と同じ赤だったかい?」

「はい。似ていたと思います」

「冒険者だった?」

「はい」


「よかった。それならば間違えないだろう。それでは別の質問なのだが、君の親であるロヒさんは、今、どこに居るか、教えてはもらえないだろうか?」

「……死にました」

「え? 死んだ……だって……」

 僕を取り囲む四人は驚き、家長であるイサギオスへと顔を向ける。

 イサギオスは腕を組み、黙り込んでしまった。


 どれくらい沈黙の時間があったのだろう。

 イサギオスが口を開く。

「私はまどろっこしい事はあまり好きではないので、単刀直入に訊くよ。君と君の親であるロヒさんは、……竜だね?」

 ついに訊かれてしまった。


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