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旅する竜  作者: 山鳥月弓
歩き出した三人
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魔力試験

「それでは、これから講習を開始します」

 そう言われ、案内された場所は弓の練習場のような場所だった。

 三十メートル程先には弓の的のような物がある。

 魔導士は弓も使えなきゃ駄目なのだろうか?


「これから皆さんの魔力がどれくらいなのかを見せて頂きます。さすがに火炎塊も飛ばせないようでは魔導士として登録はできませんので。名前を呼ばれた方から順に、こちらへ来て、火炎塊でも雷光でも構いませんので、あの的へと飛ばしてください」

 なるほど、あの的は弓の的ではなかったのか。

「まずはヴェル・ヘッテ・リマーさん。こちらへ」

 先刻の白竜公の娘という人だ。ヴェルという名前らしい。

 腰に魔導具らしい杖を下げている。

 僕は魔導具というものの善し悪しは判らないけれど、その杖からは結構な強さの魔力を感じた。

 多分、かなり強力で高価な魔導具なのだろう。


「その白線より後ろから、あの的へと攻撃魔法を撃ってください」

 そう言われ、その娘は的へと身体を向ける。

 その娘は杖だけではなく、自身が持っている魔力もかなり強力に見えた。アスラには及ばないとは思うけれど、人間の中ではかなりの高位の魔導士になれるのではないだろうか。

 的を見詰める顔には緊張が読みとれる。

 強い魔力を持っていても緊張はするらしい。

 それとも、まだ子供といっても良い年齢だからだろうか?


 音も無く火炎塊が、その娘の眼前へと浮いて出る。

 次の瞬間、その火炎塊は的へと飛んで行った。

 火炎塊は見事に的へと当り、的となっていた木で出来た板は木っ端微塵に吹き飛んでしまった。

 人間の中では、それなりに早く、大きさも大きいが、驚く程のものとは思えない。それでも僕とアスラ以外の人達からはざわめきが起きていた。


 その娘の顔は、はにかみながらも笑みが溢れている。

 先刻の白竜公の娘だと教えてくれた少年が悪意を向けるような人間とは思えなかった。


「次の人、――・――さん」

 呼ばれたのは、先刻、白竜公の娘だと教えてくれた少年だった。

 その少年も杖を下げている。

 それ程効果があるとは思えない魔力しか感じないが、それでも人間からすれば十分に効果があるのだろう。

 同じように緊張した顔で白線の後ろへ立ち、火炎塊を飛ばす。

 先刻の娘程の早さも大きさも無いが、的へと当ると、的は「パン」という音と共に割れ、地面へと落ちてしまった。

 その少年は、職員と満面の笑みで会話をしている。

 なにやら褒めてもらったらしく、こちらへと帰ってくる時にもその笑顔が消えることはなかった。


「次の人、えっと、ラプ・ファクタヴァルさん」

 僕だ。

 少し驚いてしまった。

 あまり派手なことをして目立ちたくはないので、まだ様子を見ていたかったのだけれど、呼ばれてしまった。

 まあ、仕様がない。先刻の少年くらいの威力で飛ばせば良いだろう。

 白線の少し後ろへと立ち、火炎塊を飛ばす。

 先刻の少年と同じように、的は「パン」という音と共に割れ、地面へと落ちた。

「君……、魔導具を持ってるのかな? この書類だと魔導具は『無し』となっているようだけど……」

「え? はい。持っていないです。魔導具は無いと駄目でしたか?」

「あ、いや、そういうことではないのだが。……驚いたな。魔導具無しで、あれ程の火炎塊が飛ばせるなんて」

「は、はぁ……」

 どうやら、あれでもやり過ぎだったようだ。

 元の場所へと戻りながらアスラへ苦笑いを見せると、アスラも同じように笑っていた。


 他の受講者も次々と同じように呼ばれては火炎塊を飛ばすが、どの人も的まで届かない。

 飛んだ人でも的の直前までしか飛ばず、殆どの人は二十メートル程度で「ふっ」と消えてしまうものしか飛ばせていなかった。

「あれで魔導士として役に立つものなの?」

 他の受講者には聞こえないようにアスラへと話し掛ける。

「十メートルも飛ばせれば、それなりに役に立つらしいよ」

 確かに剣の間合からすればそれでも十分なのかもしれない。

「それに、これから魔導具を持つことができれば、さらに強力な魔力を持てるから距離も伸ばすことができるようになる。撃てるというだけで、魔導士としては合格なんだろうさ」

 なるほど。良い魔導具があれば、先刻の少年くらいの魔力を使えるようになるのだから、確かに、今は魔力が有るということが重要なのだろう。


 次は最後の受講者だが、アスラはこれまで呼ばれていない。

 どうやらアスラが最後らしい。

「次が最後ですね。アスラ・クラニキラさん」

「なんで、俺が最後なの?」

 そう笑いながら僕に言うと、指定位置へと歩き出す。


 アスラの火炎塊は、今日見た火炎塊の中で一番の早さと威力だった。

 的は最初の娘と同じように木っ端微塵になり、的を突き抜けた火炎塊は、その後ろの壁に穴を開けてしまっていた。

 ざわめきは、最初の娘よりも大きかっただろう。

 見ていた職員達の顔には、どれも驚きがあった。


 戻ってきたアスラが、おどけて言う。

「俺は五十年に一人の魔導士なんだとさ。変だよな。俺の親は、俺と同じくらいの事はできるし、爺さんは俺以上だったぞ。きっと五年の間違えなんだろうな」

 僕には判っていた。アスラはあれでも全力ではなかったのだと。


 それからは講堂のような部屋へと移り、魔導士の役割というような話や、冒険者としての行動規範などというような講義が、夕方近くまで続いた。

 アスラは半分くらいを眠って過ごしたようだけれど、僕は話の内容が面白く感じてしまい、最後まで退屈することもなく講義を聞くことができた。


 その講義中に少し気になる事があった。

 あの、遅刻してきた白竜公の娘、ヴェルという娘がこちらを見ているような気配を何度となく感じることがあった。

 アスラと並んで座っていたので、多分アスラの方を見ていたのだろう。

 自分より強力な火炎塊を飛ばした事が気に入らないのかもしれない。

 それ自体は嫉妬心というやつなのだろうから、仕様が無く、なんらかの行動に出ない限りは無視できることだ。だけど、あのヴェルという娘は白竜公という権力や金を持った娘なのだから、逆恨みからの報復があるかもしれない。

 考え過ぎだろうか?

 杞憂かもしれないけれど、宿屋へ帰ったらアスラに注意するように言っておいた方が良いだろう。


 講習会は、最後に登録証を渡されて終わりとなった。

 登録証は金属製の小さな板で『ラプ・ファクタヴァル』、『魔導士』と彫り込んである。

 ミエカが首から下げていた物と同じだ。

 やっとミエカやロヒと並んで歩く資格を貰えたようで、嬉しかった。


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