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旅する竜  作者: 山鳥月弓
そしてまた、僕達は歩き出す
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アスラとヴェルの八年

 なにが起きたのかは判らないけれどアスラとはすぐに会えそうだ。まさかアスラの家へ到着したその日の内に会うことができるとは思っていなかったので、これはかなり予想外の展開だ。

 馬車は石畳を四時間程走る。

 そろそろ以前、アスラやヴェルと一緒にロフテナ大公を懲らしめた、というか脅した、あのフィオンという町へと到着する。

 町の門を潜り、そのまま馬車は町の中を走った。

「そろそろ着くよ」

 夕方にはまだ時間があるけれど、次の町まで行っていては日が暮れるだろう。流石に暗くなってからも走ることはないと思っていたので、この町なのだろうと予想はしていた。けれど、僕の予想が合っていたのはそこまでだった。


 馬車は町の奥へと向って走る。

 その方向はロフテナ大公の大きな屋敷があるはずだ。

 まさか、その屋敷に入る訳ではないだろうと思っていたけれど、流石にその大公屋敷への門を通った時にはロヒへと訊いてしまっていた。

「えっと、ここにアスラが居るの?」

「そうだよ。もうすぐ会えるよ」

 いったいアスラになにが起きたのだろうか?

 楽しみというよりは、なんだか不安さえ感じてきていた。


 馬車が屋敷の玄関に着くと、見知らぬ人が出迎えてくれていた。

 恭しくロヒへと頭を下げ、荷物をロヒから受け取る。

「アスラとヴェルさんへ『ラプ君が来た』と伝えてくれるかい」

 ロヒがそう言うと、その人は「かしこまりました」と言って、また頭を下げる。

 屋敷だけではなく、ロヒまでもが貴族になってしまったようだ。

「ヴェルもここに居るの?」

「ああ、ヴェルさんも居るよ。すぐに会える」

 そう言って僕へと微笑むロヒは、なんだか悪戯を楽しんでいるようだ。


 ロヒの案内で屋敷の一室へと案内される。

「そこに座って待つといい。二人ともすぐに来るよ」

 以前、白竜公の屋敷に行った時に座ったことがあるが、ここにもソファーなるものがあった。

「この服のまま座ってもいいの? 最近、洗濯していなかったんだけど……」

 ロヒは声を上げて笑い「もちろん構わないよ。気にすることはない」というと、また笑った。

 僕とノブリがソファーへと座ると同時に、屋敷の上の方からアスラに似た大声が聞こえてくる。なにかに驚いたような声だ。

 続けざまに何か重いものを落としたような音もする。さらに誰かが走って階段を降りているような音が続いた。

「アスラが来るよ」

 ロヒが楽しそうに笑顔でそう言うと、ほどなくして部屋の扉が開いた。


 そこに立っていたのはまぎれもなくアスラだった。

 立派な、まるで貴族のような服を着て、以前は無かった口髭まで蓄えている。

 背丈も八年前からさらに伸びたらしく、ロヒと変わらないくらいに高い。

 だけれど、僕の目の前に立っている男は、まぎれもなくアスラだ。

 ただ、一点、僕が知っているアスラとは異なる部分がある。それは成長などで変わるとは思えない不自然な違いだ。

 左腕から感じ取れる魔素が少ない。いや、少ないというよりほとんど感じ取ることができなかった。


 入ってすぐに僕を見て、ただ見詰めているだけだったアスラがやっと口を開く。

「ラプ……」

 それだけを口にすると、ゆっくりと僕の方へと歩いてくる。

 僕もいつのまにか立ち上がっていてアスラの方へと身体を向けていた。

「アスラ、久し振りだね。なんだか凄く変わったみたいだけど、それでもアスラだ。変わってない」

「……どっちだよ。はは」

 力無く笑い、僕の両肩へとアスラが手を置く。

「ラプも変わらないな。……背くらい伸びないのかよ」

 力強く、けれど、優しく握られた両肩からアスラの安堵のような感情を感じる。

 けれど、やっぱり、握られた左手の感触が人の手とは違っている。まるで金属のような硬さを感じた。


 すぐにまた、どこからか人が走っているような音が聞こえてくる。

「ヴェルだよ。庭に出てなにかやっていたようだ」

 アスラの言葉が終わると同時に扉が乱暴に開かれた。

 扉から現れたヴェルは初めて見た時と同じように、真っ白な服と、高価そうな、真っ白な、縁が大きい帽子を被っていた。

 ヴェルは、着ている上品な服装に不相応な、結構な大股で、踏ん張るように一休みというように、膝あたりに手を付いて前屈みになり、肩で「はあはあ」と息をしている。

「やっぱりヴェルも変わっていないね」

 実際は背丈も高くなり、体付きも顔付きも立派な成人女性になっていた。うっすらと化粧もしているようだ。

 それでもやっぱりヴェルだ。

 息が整いだすと被っていた帽子を取り、ぼそりと呟くように僕の名前を呼ぶ。

「ラプ……」

 それだけ口にすると、目がうるうると涙を溜めだし、すぐに大きな声で泣きだしてしまった。

 ヴェルは泣きながら僕の方へとよろよろと向ってくる。

 僕の肩に手を置いていたアスラを突き飛ばすと、僕へと抱き付いて、さらに大声で泣きだしてしまった。

 ヴェルが落ち着くまで、僕は立ったまま待たなければならなかった。


 ヴェルが落ち着き、僕達はソファーへと座る。

 いつのまにかアスラの家族も部屋へと集ってきていた。アスラのもう一人の兄さんと父さん、母さんだ。

 でも、あのお爺さんだけが見当たらない。

「……アスラ、お爺さんは?」

 僕の言葉に皆黙り込んでしまう。

「……四年前に、死んでしまったよ」

「そう……。ごめん」

「いや、気にするな……」

 八年という年月はやはり人にとっては長い時間なのだと感じてしまう。

 これで僕は明確なロヒの仇討ちが出来なくなった。でも、それでいいのだろう。そんな事をするつもりはなかったのだから。


「謝るついでと言ってはおかしいけど……」

 僕は立ち上がり、アスラとヴェルへ向って言う。

「アスラ、ヴェル。ごめん。黙って居なくなってしまって」

 アスラとヴェルは顔を見合わせる。

 すぐにヴェルが優しい笑顔を僕へ向けた。

「謝るのは私達なのよ。ラプに全ての責任を押し付けてしまった私達が謝るべきなの。ラプ、ごめんね……」

 そう言うと、やっと収まった涙が、ヴェルの頬を再び流れて落ちた。


「もう、涙で顔がぐちゃぐちゃだわ……」

 ヴェルはそう言いながら上品な白いハンカチで目頭を押さえるけれど、そのハンカチはもう涙を吸えないくらいに濡れている。

「よかった。赦してもらえるんだね」

「ヴェルが言うように謝るのは俺達の方だ。ラプ、悪かったな」

 そう言うとアスラは八年前と変わらない、厳ついけれど、優しい笑顔を見せてくれた。

 八年前の出来事は御互いを赦し合うことで解決したといって良いようだ。

 アスラはともかく、ヴェルからはもっと怒られると思っていたので、少し意外だったかもしれない。


「それで、この八年でなにが起きたの? かなり大事がなければこんな屋敷に住めるようにはならないよね?」

「さて、どこから話すか……」

「まずはこの状況から知りたいかな。ここってロフテナ大公の屋敷だよね?」

「ああ、そうだよ。元、ロフテナ大公の屋敷だ。……そうだな。それから話すか。まあ、長い話になるから覚悟して聞いてくれ」

 八年という年月なのだ。長くもなるだろう。


「ラプと別れて四年くらいが過ぎたころだった――――」

 僕と別れた二人は、それまでと同じように冒険者として旅を続けていた。

 ヴェルは僕の事をかなり気に病んでいたらしいけれど、それでも冒険者としての旅は続けたらしい。

「当然、ラプはここに居た大公との約束は覚えてるよな?」

「うん。五年で賊連中を一掃するって約束だよね?」

「ああ、それだ」

 四年が過ぎてもアスラの予言通り、賊が消えることはなかった。

 大公が手を抜いていた訳ではなく、その四年で賊連中はかなり減ってはいたらしい。

 それでもやっぱり賊が消えることはなかった。


 大公は焦りを覚える。

 残り一年でどうにかなるものではないことは、誰にでも判ることだった。

 それまでの四年で賊の一掃に大金をつぎ込み、大勢の兵を雇い、既に大公には蓄えすら底を突くようなありさまになっている。税率も目一杯に上げ、これ以上は皇王から訓告が来そうな程までになっていた。

 大公には、これ以上の手立てを見付けることができない。

 大公は命以外の全てを諦めることにした。

 皇都へと赴き、直接、皇王と面会すると、全てを打ち明け助けを求めた。

 もちろん大公の座も捨て、領地も皇王へと返す。その代りに命だけは助けてくれと懇願することになった。

 助けを求められた皇王も困ってしまう。

 白竜から殺されると泣きながら懇願されても、今の皇王には白竜との繋がりも、大公を助けるような力もない。


 始皇王は白竜の助けで国を作り守ったと伝えられてはいるけれど、今の皇王にはそんな力はなかった。白竜にすら会ったことも見たことすらも無いようなありさまだ。

 例え、白竜と顔見知りだった始皇王が同じ立場であっても、白竜から誰かを助けることなど無理なことだろう。

 けれど皇王はもう一人、白竜との因縁を持つ人物を思いだす。

 すぐに白竜公、すなわちヴェルの父親が呼ばれた。

 しかし、白竜公であっても、それほど皇王と事情は変わらない。始皇王よりも時代は近いとはいえ、白竜と交流があった先祖は二百年も昔の人なのだ。

 皇王はあまり期待が出来ないことを判ってはいたが、白竜公は二つ返事でその願いを聞き入れる。


「へえ。白竜公って白竜と会える自信があったんだね」

 僕が割り込んだアスラの話に、答えたのはヴェルだった。

「まさか。いくら白竜公を名乗っていても白竜様に会えるものではないわ。この二百年、私達の先祖は何度も会いに行っているけれど、一度も会えてはいないのよ。それはラプが一番良く知ってることじゃないの?」

「え? うん。僕もそう思うけど、白竜公はその自信があったのでしょ?」

「白竜公が白竜に会う必要はなかったんだ。まあ、話を聞けよ」

 アスラが話を戻す。


 白竜公の考えは、直接白竜へ会うことではなく、その伝手(つて)が自分の身内に居て、その伝手を頼ることだった。

「ああ、そうか。僕か」

「そういうことだ」

 白竜公は全ての冒険者組合へ通達する。「ヴェル、アスラ、ラプの三名は速やかに白竜公の元へ出頭すべし」と。

 すぐにアスラとヴェルは白竜公の元へと赴き、事情を聞いた。


「正直、怖かったよ。出頭命令なんて何事かってね」

「そのまま身を隠そうとは思わなかったの? 事情を知らなきゃ投獄される可能性とか考えそうだけど」

「もちろん考えたさ。でも呼び出したのはヴェルのおやじさんだからな。多分、平気だろうと思ったんだよ。今では笑い話さ」

 アスラは笑いながら話を続けた。


 白竜公は僕が姿を消したことを知り落胆してしまう。

 けれどアスラは「大丈夫です。任せてください」と白竜公へ解決を約束した。

「え? 自信があったの?」

「あったもなにも、大元は俺達がやったことだ。白竜に会う必要なんてないだろ」

「……ああ、そうか」

 僕達は声を上げて笑った。

 その笑い声で、僕の隣で転寝(うたたね)をしていたノブリが目を覚ましたけれど、すぐにまた目を閉じてしまった。


 大公への脅しは、元は僕達三人が仕組んだことで、白竜は関係がない。

 白竜に会って助けてくれと言ったところで、白竜にはなんの事だか判らない話だろう。

「だから、一週間くらいヴオリ山の麓の村でひっそりと過ごして、白竜に会ってきたぞ、って白竜公の元へ帰ったんだ」

「アスラったら、その時にまた即興で話をでっち上げたのよ」

「でっち上げ?」

「うん。まあ。聞けよ」

 アスラは白竜公へと報告する。もちろん大公を殺す気はないので「白竜は赦した」と伝えた。

 けれどアスラは赦す事に条件を付けた。

 ロフテナ大公は大公を辞し、領地は別の者が管理すること。

 それが条件だった。


「どうしてそんな条件を付けたの? なんだか少し可哀そうかも」

「可哀そうなもんか。あの大公は隣町の町長を殺したんだぞ。直接じゃないにしても命令しているんだ。命を取らないだけでも感謝して欲しいくらいだ」

「そうか。そうだね。町長だけじゃなく、賊達に命を奪われた人達も大勢いるものね……」

 僕はそれでもなんだか可哀そうだと感じてしまう。

「そうだ。それに俺の村、クラニ村だってあの大公の領地だったんだ。そんな奴の元で暮らしたくはなかったしな」

 僕よりもアスラの方が大公との接点は多い。アスラの感覚の方が正しいのだろう。


「それでアスラが代わりに領主になるって言ったの?」

「違うよ。俺からそんな事は言わないさ。その時は、まさか俺が領主になるなんて思ってもいなかったよ」

「え? それじゃ、本当にアスラは大公の代わりに、この辺りの領主になったってこと?」

 アスラは少し困ったような顔をする。

「ああ……。残念ながら、ここの領主は、今は俺だ……。まあ、そこまでにも色々とあったんだよ」

 アスラは話を続けた。


 白竜公の命令とはいえ、大公を助け皇王の威厳を守ったアスラとヴェルは、それなりの報奨金を貰えるのだろうとしか思っていなかった。事実、その時点でのその予想は正しかった。

 皇王の御前へと参上したアスラとヴェルは、皇王から褒美はなにが欲しいと訊かれる。

 アスラもヴェルも既に冒険者としては一人前どころか、かなり上級冒険者として知れ渡る程になっていた。

「まあ、自分で言うのもなんだけど、俺とヴェルの二人で受けられない仕事はなくなってたよ。たぶん、この大陸でも一、二を争うくらいには有名になってたと思うよ」

 アスラの話をヴェルが補足する。

「ラプと別れて最初の一年は、私の所為で、ほとんど仕事ができなかったの……。それにアスラの左腕まで失うことになってしまって……」

 暗い顔をして話すヴェルは、辛いことを思い出しているようだった。

 やはりアスラの左腕は義手だったらしい。それにしてはあまりにも動きが滑らかに見える。

「まあ、その話はおいおいするさ。とにかくその時は金貨十枚を貰って終わったんだ。元々、俺達が仕掛けた事だし、あんまり吹っ掛けるのは気が引けたんでな」

 ヴェルの顔に明るさは戻らなかったけれど、それ以上は落ち込むようなこともなさそうだった。

 二人にとっての辛い時期というのは、ずいぶんと昔の、既に過去の事なのだろう。


「ところが、それで話は終わらなかったんだ」

 大公が領地を去り、新しい領主を決める必要があるが、大公が辞した理由は既に皇国全土に知れ渡っていた。

 どこから漏れたのかは判らなかったが、漏れた事自体が問題ではなく、その内容に白竜から命を狙われたという事が後への問題を大きくした。

「誰も領主になりたがらなかったんだ」

 白竜が賊を一掃しろと言って、それを守られぬようであれば白竜自信がその罪を断罪するというのだから、怖くならない方がおかしい。

 それが前領主だけに当てられた事柄なのか、これから領主になる者へも当て嵌る事柄なのか判然とはしていない。

 自分が公正な人間だとしても、そんな領地の領主へとなりたがる者は居なかった。


 皇王は再び白竜公を呼び相談する。

 領主が決まらなければ皇王自身が管理することになってしまうけれど、皇王としてもそんな危険は冒したくない。

「ヴェルの父さんは、そこで提案したんだ。俺を貴族にして領主に据えることを。まったく迷惑な話だよ」

 そういうアスラの顔は、本当に迷惑そうだ。

「え? 貴族になれるのだから嬉しいことじゃないの?」

「嬉しいもんか。俺は自由に旅ができる冒険者になりたかったんだ。どんなものか知らない貴族の世界なんて興味もなかったよ」

「そうなんだ……。それじゃ辞めちゃえばいいのに」

「そうはいかんさ……」

 アスラはそう言いながら、ちらりとヴェルを見る。


 アスラの視線に気付いたヴェルが、少し呆れたような顔をして話を引き継いだ。

「実はね。私達、……結婚するの」

 ヴェルが少しだけ顔を赤くして嬉しそうにそう言うと、アスラは少し照れたような、なんともむず痒いような顔になった。

「へえ……。けっこん? って?」

「え?」

 二人とも同時にそういうと、顔を見合わせ、大笑いを始めた。

「あはは。そうかラプは結婚を知らないか。あははは」

 二人は一頻り笑うとヴェルが説明してくれた。


「二人で一緒に暮らして、二人で協力して生きていこうっていう契約みたいなものね」

「それって、これまでと同じじゃないの? 仲間ってことでしょ?」

「まあ……、近いけれど、やっぱり違うのよ。普通は男と女で一つの組みを作って、それを人間の世界じゃ結婚っていっているわね。仲間とは違うわ。家族になるっていえば良いのかしら」

「結婚って言葉は知らなくても、ラプだって人間の世界で男と女が二人で生活して、家族を作っているのは知っているだろ?」

「え? ああ、あれが結婚か」

 二人は僕が理解したことを知ると、二人共に少しだけ顔を赤らめる。

 だけど、やっぱり良くは判らない。

「それじゃ僕とミエカやロヒは結婚していたんだね」

 二人はまた大笑いを始めた。


 その後にも少しだけ結婚の意味を説明されたけれど、なんとなくでしか理解できなかった。実感できるものではないのでなんとなく男と女が一緒になるということしか理解はできなかったけれど、竜にも性別というものがあれば理解できることなのかもしれない。

「私とアスラがお父様に呼ばれて家に帰った時に、お母様が私とアスラを見て『二人はそういう仲だ』って見抜いたらしくて、お父様に伝えたらしいのよ。それでお父様はアスラを貴族にしようと思ったらしいわ」

「そういう仲?」

「二人が結婚しそうって見えたみたいよ。まあ……実際、その時には、その……『そういう仲』だったのだけれど……。お母様の目は誤魔化せなかったってことね」

 先刻から二人の顔はずっと赤い。風邪でもひいたのだろうか?


「お父様は、初めは許す気はなかったそうだけど、大公の事件があってアスラが領主になれるのであれば結婚も許そうって気になったらしいわ」

「でも、白竜公は心配するんじゃないの? ここの領主は白竜から殺されるかもしれないってことになっているんでしょ?」

「その時には全てお父様に白状していたの。皇王様に呼ばれて、正直、後ろめたい気持ちが大きくなっちゃって……。だからお父様が皇王様に新しい領主の相談をされた時には、大公と白竜様の事は私達三人の狂言だってことを知っていたのよ」

 アスラとヴェルはロフテナ大公の事では、白竜公に酷く叱られたらしい。領主に据えられたのは罰の意味もあるようだ。

 僕は居なくて幸運だった。次に白竜公に会った時には僕も叱られるのだろうか?

「まあ、そんなこんなで俺は伯爵様ってことだ。冒険者になって一攫千金は夢みてたけど、まさか貴族なんぞになるとは思ってなかったよ。……それもこれも、ラプのお陰だな」

 アスラがそういうと二人は僕を優しく見詰める。


「そう。良かったよ。一応、僕は白竜の孫だからね。数ヶ月も一緒に過ごせばそれなりの御利益もあったのかもね」

「ああ、まったくだよ。……ラプからすれば俺は仇だと言われても文句は言えないのにな……」

 そういうとアスラは少しだけ暗い顔をする。

 八年経った今でもまだ、ロヒの事はアスラの中に影を落としているらしい。


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