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旅する竜  作者: 山鳥月弓
そしてまた、僕達は歩き出す
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山賊退治

 一時間程、山を登る。

 僕達を誘った先輩冒険者の四人組は、男三人が剣士で、女一人が魔導士の構成だった。

 僕達三人は地上から少し浮く程度を飛んで登るが、先輩達四人は徒歩で登っている。雪が積もっている山道は歩きづらそうだ。

「ねえ。先にいっちゃわない? ゆっくり飛ぶのも退屈だわ」

「駄目だ。俺達はこういうことにまだ慣れていない。今回はあいつらの指示に従って動きを見せてもらうことにしよう。今後の参考になるはずだ」

「魔法を撃って相手を動けなくするだけじゃないの……」

「それがちゃんとできるのか?」

「……ちゃんとやるわよ」

 ヴェルの顔に緊張の表情が浮かぶ。


 更に進むと、先を歩く先輩冒険者のリーダーが手招きで僕達を呼んだ。

「そろそろやつらの塒に着く。飛ばずに歩いてくれ」

 奇襲を掛けるので、見付かってしまうと意味がないと言われる。

 さらに歩くと、先頭を歩いていた先輩の一人がこちらを振り向き、人差し指を口に当てながら姿勢を低くするように左手で指示をだしてきた。

 塒に到着したらしい。

 アスラが小声で言う。

「見張りが二人いるな」

 少し先に切り立った崖があり、そこに洞窟の入り口が見えた。その洞窟の上には木で組んだ足場があり、二人の弓を持った見張りらしき人が見える。

「いや、三人だ。奥にも一人居る」

 アスラが驚いたように先輩へと言った。

「へえ。流石、やり手だと自分で言うだけはあるね」

「いったろ。経験はけっこう積んでいるんだ」

 確かに足場の奥の方を見ると、少しだけ弓が見える。その持ち主は見えないが、見えている弓はほんの少しだけ動いているのが判った。


「それでどうするんだ?」

「あんたらであの三人を黙らせられないか? なるべく同時にやって欲しいんだが」

 アスラは少し考えるように周りの景色を見回した。

「この山の上から三人同時に降下して、火炎か雷光でも落とすか」

「できるか? できそうならそうしてくれ」

 アスラはヴェルを向き言う。

「ヴェル、できるな」

 ヴェルは強張った顔で少しだけ頷いた。


 僕達三人は見張りから見えなくなるくらいまで山を回り、そこから山頂へと向って飛んだ。

 ある程度まで高く登ると、アスラが手を振り、付いて来いと合図をする。

 更に少し飛ぶとアスラは下の方を見ながらゆっくりと飛んで、また少しすると空中で止まった。

「ここから降下して奇襲を掛けよう。ヴェルは真中のやつをやってくれ。俺は右、ラプは左だ」

 下の方を見ると、木々の間から塒の上に作られた足場と、そこに居る見張りが見える。

「ら、雷光を当てるのよね? 気絶させるくらいで」

「雷光か……。別段、殺してしまっても構わないらしいから火炎塊でもいいんだけど。まあ殺す必要はないよな……。うん。雷光でいい。ヴェル、できるか?」

「だ、だいじょうぶよ」

「それじゃ降下の開始と速さは、飛ぶのが一番遅いヴェルに合わせよう。なるべく同時に三人を黙らせたい」


 僕はその作戦に、それ程奇襲の意味を感じなかった。一応は口を挟んでおこう。

「あんまり意味がないんじゃないかな? 雷光の音で山賊達が気付いて奇襲の意味があまり無い気がするのだけど……」

 雷光であれば弱く撃つことで殺さずに済む。

 だけど火炎塊は爆発時に即死を狙い、それで死なない場合でも爆発後の炎が身体全体を覆うので、かなりの割合で焼死させることが出来る。弱めに撃てば音は雷光程には大きくならないし、弱くても殆どの場合、相手を殺すことができる。

「そうか……。それじゃ火炎塊にするか。殺すことになるが……」

 ヴェルが顔を引き攣らせた。


 アスラがヴェルの顔を見て言った。

「冗談だよ。俺も殺す必要のない殺しはやりたくない。雷光でやろう。まあ、これもこれからの為の練習だ。だからヴェルもあんまり気にする必要はないぞ。自分の調子でやって構わない」

 ヴェルの顔に少しだけ安心したような表情が戻るが、それでもやっぱり緊張は隠せないようだ。

「それに見張りに対しての奇襲と考えれば、それほど間違えじゃないだろ。洞窟の中の奴らは、どうせ外に引っ張り出す必要があるんだし、一番面倒なのは戦いづらい場所に居る、弓を持った見張りの三人なんだよ」

「わ、判ったわ」

 ヴェルの顔はさっきから緊張しっぱなしだ。目を大きく開け、鼻の穴までいつもより広く見えた。なんだか面白い。

「なによ。なにが可笑しいのよ」

「え? あはは。ヴェルは緊張すると目や鼻が膨らむんだね」

 アスラは笑いを堪えている。

 ヴェルは鼻から下を手で隠し、目は僕を睨んでいた。


 アスラが剣を抜く。

 僕も抜き、眼下に見える目標を見定めた。

「そろそろ行こう」

「ええ……。ラプ、ありがとう。少しだけ緊張が解れたわ」

 そう言うヴェルの真剣な顔は、まだ緊張が残っている。

 ヴェルは大きく深呼吸をし、真剣な眼差しを眼下の目標へ向けた。

「いくわ」

 そう言うとゆっくりと下降を開始し、手は既に雷光を撃つ準備をしている。

 僕とアスラはヴェルに速度を合わせ、ヴェルと標的にしている見張りの両方を交互に見ながら降りていった。

 ヴェルが少しだけ速度を上げる。

 僕とアスラはヴェルと標的を見ながら降りているのでヴェルの速さは早すぎず、ちょうど良い。

 ヴェルの腕に魔素が集まる。

 来る。

 雷光の「パン」という破裂音が森に響く。三人、ほぼ同時だったので一つの音に聞こえ、標的の三人もほぼ同時にその場に倒れ込んだ。


 茂みに隠れていた四人の先輩達が飛び出してくる。剣を抜き、こちらへと走ってきた。

 それに少し遅れて、山の崖に開いた洞窟から四人の山賊達も飛び出てくる。

 僕達は飛びながら、飛び出してきた山賊達へと雷光を落とした。

 洞窟の中からも矢が飛んで来るが、アスラがそれを風魔法で落とし、僕は矢と同時に飛んできた火炎塊を風魔法で散らした。

 火炎塊を風魔法で散らすと、一瞬、辺りが炎に包まれる。

 その炎を突き抜けて別の矢がこちらへと走って来ていた先輩達へと飛んだ。

「ぃたっー」

 悲鳴に似た叫び声が先輩達の方から聞こえ、僕はその叫び声へと目を向けぎょっとする。先輩冒険者一人の左腕に矢が刺さっていた。

「気にするな。あれくらいじゃ死にはしない。今は山賊達が先だ」

 そう言いながら先輩達は洞窟へと走る。合流した先輩達を先頭に僕達も洞窟へと突入した。


 飛んで来る矢を風魔法で落としながら奥へと進む。

 僕とアスラは雷光を当てて倒し、先輩達は剣で斬り捨てにして進む。

「本当にやり手なんだな」

 アスラはその剣捌きに感心していた。


 先輩の一人が一番奥の広まった場所へと入ると、突然、部屋の外からは死角となっている場所から大鉈のような大きな剣が振り下された。

 先輩はそれを予期していたように身体を少し動かしただけで躱し、剣を振り下した山賊を斬り捨てる。

 広間の奥を見ると、一人の男が抜いた剣を自分の肩へと置き、こちらを見ていた。

 見える範囲に人は居ない。たぶんこれが最後の一人だろう。

 太々しい態度で、薄ら笑いを浮かべながら持っていた剣を僕達の方へと投げ捨てると、言う。

「降参だ」

「ふざけるな」

 そう言うと先輩の一人が、その男へと斬り掛かる。男は身軽そうな動きで振り下された剣を避けた。

「ひょー。おっかねえな。降参だっていってんだろ」

 その男から薄ら笑いは消えていない。余裕すら感じられる。

「落ち着きなよ。殺す必要はないだろ」

 アスラは斬りつけた先輩の腕を掴んで止めた。

「判ったよ。離せよ」

 アスラが掴んでいた腕を振り解き、斬り掛かった先輩は剣を収めた。


 先輩達のリーダーは、薄ら笑いを浮かべている男へと近づきながら僕達へと言った。

「こいつが親玉だ。討伐完了だ」

 リーダーは縄を取り出すと男を縛りだす。

 戦いが終わった事を知るとアスラは「ふぅ」と小さく息をついた。


 洞窟を出ると矢を左腕に受けた先輩へヴェルが治療魔法をかけていた。

「なんだ。ここに居たのか」

「……ごめんなさい。洞窟の中に入るのは……足が竦んで、できなかった……。だって、怖いじゃない。待ち構えているのが判っているのに……」

「……まあ、そうだな。今日はあれくらいで十分だろう。……俺も怖かったし……」

「え? ……そうなんだ。……ごめん。次はちゃんとやる」

 ヴェルはなにかを決心したようにそう言うと、治療を続けた。


 山賊は総勢十四人で、その内十人はまだ息がある。

 先輩達が斬った山賊は、全員が死んでいた。

 生き残りを縄で縛りながらアスラが言った。

「ラプ、お前はさすがに余裕だな」

「え? そう?」

「ああ、俺は戦っている時の記憶があまりないよ……」

「え? そうなの?」

 少し意外だった。戦闘中のアスラに、変わった所を感じてはいなかった。

「ああ、かなり緊張していたようだ。……ラプはこれまでミエカと一緒に、こんなことを何度もやってたんだよな」

「うん。何度かあるよ」

「どれくらいで緊張しなくなった?」

「緊張? たぶんしたことないと思う」

「……そうか。さすがというか、なんというか……。参考にならんな」

 アスラはそういうと呆れたように笑った。


 生き残りの山賊達を引き連れて山を降りる。

 山賊の親玉に斬り掛かっていた先輩がアスラと話をしていた。

「先刻はすまなかったな」

「いや。気にしてないよ。味方が怪我をすれば気が立ってもしょうがない」

「それだけじゃないよ。……あいつを捕まえるのは二度目なんだ」

「え? どういうこと?」

 その話を聞いていた山賊の親玉が、話をしているアスラと先輩へと振り返り、にやりと気味の悪い笑いを浮かべた。

「こいつらは生きたまま捕まえても、すぐに逃げ出すんだよ」

 山賊や海賊は捕まえたとしても、大抵は打ち首か絞首刑で終わる。その場で殺してしまっても早いか遅いかの違いでしかない。

 逃げ出す猶予が有る分、降参して機会を狙う方を選ぶ者も多いだろう。

 だけど、余程の幸運が無ければ逃げる事などできるとは思えない。


 ヴェルが訊く。

「そんな簡単に逃げ出せるものなのですか?」

「あの町の衛兵が間抜けなのか、手引きをしている奴が居るのか……。とにかく逃げ出すやつが多い。それも一人や二人ってもんじゃないんだよ」

 ヴェルの顔が険しく曇った。

「おい。どうやって逃げたんだ? 誰かの手引きでもあるのか?」

 先輩が山賊の親玉を小突きながら訊く。

「そいつは言えねえよ。お前達も俺達が居なきゃ商売にならねえだろ? 持ちつ持たれつってやつだ。仲良くやろうや」

 親玉はそう言うと気味の悪いにやけ顔を先輩へと向けた。


 アスラと並んで歩く先輩が盗賊の親玉を睨みつけながら言った。

「俺の親は山賊に殺されたんだ。……次に逃げたら、その時は絶対に殺す」

 そこからは皆、黙ったまま歩き山を下りた。


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