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旅する竜  作者: 山鳥月弓
歩き出した三人
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冒険者組合

 朝食を食べ下山の準備をするとロヒとミエカを埋めた場所へと行く。墓というらしいけれど、人の町や村にある墓には墓標というものがあるので、これは墓とはいえないのかもしれない。ロヒとミエカを埋めたという目印はなにもなかった。

 ここへ来たからといってロヒにもミエカにも会える訳ではないのに、どうして僕はここへ来たのだろうか?

 洞窟から真っ直ぐ下山するつもりだったのに、なぜか下山前にここへ来たくなってしまった。人は事ある毎に、墓に花や水や酒を捧げに行くが、僕の今の気持ちはその感覚に近いのかもしれない。


「僕、冒険者になるよ」

 誰かが聞いている訳でもないのに、ロヒとミエカの骨しかないこの場所で、そう言って山を下りだした。


 随分前に冒険者になるにはどうすれば良いのかとミエカに訊いたことがある。

「『俺は冒険者だ』と名乗れば、誰でもその日から冒険者だった。でも、最近は冒険者組合に登録しなきゃならん。面倒な世の中になったもんだ。大人になって、まだ冒険者になりたいと思っていれば、その時、組合に行けばいいさ」

「大人っていつから?」

「ラプは……。いつからだろうな。人ならば十五くらいだと思うが」

「僕はもう二十三歳だよ」

「見た目がなぁ……。それとまだ、もう少し人間として暮らすことに慣れないといかんな」

 僕は今年で四十二歳なので、十分に大人だと思う。人間の暮らしにも慣れたはずだ。

 確かに人の姿では十歳くらいにしか見えないけれど、きっと大丈夫だ。


 下山先にある街道から一時間くらい歩くと、小さなアルカンという町がある。

 小さい町だけど、一応は冒険者組合があった。

 そこへ行けば登録というものができるはずだ。


 町へ入ると真っ直ぐに冒険者組合を目指す。

 冒険者組合の場所は知っていた。ミエカに連れてきてもらったこともある。

 古びた建物の一階にある冒険者組合に入ると中には誰もいない。

 部屋の中には幾つかのテーブルと椅子があるが、誰も座っていないし、受付らしい場所を見てもその奥には誰の姿も見えなかった。

 間違えて酒場にでも入ってしまったのかと感じたが、壁に貼られた冒険者へ仕事を斡旋するための募集掲示板が、ここが冒険者組合だということを教えてくれた。

 小さな町なのであまり仕事も無いのだろうか。

 掲示板に張り出されている仕事の募集要項が書かれた張り紙も、三枚しかない。

 二枚は畑仕事の手伝いで、一枚はエテナまでの護衛を募集していた。


 誰かが出てくるまで待っていては日が暮れても出て来ないかもしれないので、受付の奥へ向かって少し声を張って呼んでみる。

「すいませーん。だれかいませんかぁー?」

 誰もいないのだろうか? 受付はカウンターになっていて、その奥には別の部屋への扉があるので、居るとすればそこから出てくると思うのだけど、誰かが出てくるような気配はない。

 もう一度叫んでみよう。

「すいませぇーん」

「なにか用かい?」

 唐突に後ろから聞こえた声に身体が「びくっ」となる。

 声がした方へ振り向くと、そこには初老に手が届きそうなくらいの男が袋を抱えてこちらへと歩いて来ていた。

「悪いな。昼飯を買いに出ていたんだ」

 そう言いながらカウンターの奥へと入り、受付の椅子へと座りこちらへと身体を向けた。

「それで? なんの用だい?」


 人の言葉というのは未だに慣れない。

 念話であれば思ったことをそのまま相手に伝えることができる。とは言っても、僕はまだ念話が上手く使えなかった。

 未だにミエカ以外の人間とはあまり上手く会話ができないような気がして、少し緊張してしまうが、これからはそれにも慣れなきゃ駄目なんだ。


「僕、冒険者の登録というのをしたいのです」

「登録……君が? 君、歳は?」

 やはり訊かれてしまう。判っていた事なので考えていた年齢を言う。

「十五です。歳は関係あるのですか?」

「規則に設けても生まれた年は確認しようがないからね……、問題はないのだけど……。君、本当に十五?」

 嘘ではあるが、それじゃ本当の歳である四十二歳ですと言えば信じられるかと言えば、そっちの方が無理だろう。十五だと言い張るしかない。

「はい。十五です」

 おじさんの表情は、疑っていることを隠そうともせず、あからさまに嘘だと決めつけているようだ。まあ、嘘なのだけれど。


「偶に君のような子が居るが、冒険者になったとしても仕事は貰えないと思うよ」

「え? どうしてですか?」

「仕事を出す側になったつもりで考えてごらんよ。君のような子供に仕事を任せようと思うかい?」

 少し考えてみる。確かに仕事を任せるならば経験豊富な人を選ぶかもしれない。

 でも、僕は仕事が欲しいというよりは冒険者に成ることが目的なので、登録さえできれば問題ないのだ。

 生活するお金はミエカが沢山、残してくれていた。たぶん、十年以上はなにもせずに暮らせると思う。

「それでも構いません。仕事がなくても良いんです」


「それじゃ、逆に危険な仕事を受けることになっても良いのかい? 冒険者の仕事には危険な仕事が多いぞ。山賊退治や狼退治なんてのもある。命に関わるような危険があっても受けることができるのかい?」

 また、少し考えてみる。痛いのも死ぬのも嫌だ。だけど、山賊退治や狼退治もミエカと一緒にやったことがあるが、それ程、危険なことだとは思わなかった。

 ミエカにとって狼退治はあまり得意な事ではなかったらしく、僕の方が倒した数では多いくらいだった。問題があるように思えない。

「大丈夫です。山賊退治や狼退治も簡単でした」

 そう言うと、カウンターに座っているおじさんは目を丸くして驚いているようだった。


「君は剣を背負っているけど、剣士志望なのかな?」

 ミエカは魔法が使えないので剣士として冒険者をやっていたと言っていた。

 僕は自分の剣の腕が判らず自信がないので魔導士の方が良いと思っていたけれど、魔導士は剣を持っていてはいけないのだろうか?

「魔導士としてやりたいと思っています。剣を持っていちゃ駄目なのでしょうか……?」

「いや、そんな決まりはないが……。魔法、どれくらい使えるんだい?」


 僕は竜なので人間よりも強い魔力を持っている。だけどミエカからはあまり力を見せることはやめるように言われていた。

 別段、竜だということがばれたからといって問題があるようには思わないのだけれど、信用できる人間以外に自分の正体をばらすことはやらない方が良いとミエカは言っていた。

 なので、魔法を使う時は人間には不可能な事をあまりやらないようにしているが、人間に不可能な事という曖昧な制限は、こういう場合には悩ましい。

 三つくらいの火炎塊を浮かせて見せれば納得して登録してくれるだろうか?

 火炎塊を三つ浮かせおじさんに見せると、またもや目を丸くして驚いていた。ちょっとやりすぎだったのかもしれない。


「いや……、驚いたよ。……赤い髪に強力な魔力、まるで伝説の冒険者、ロヒだな」

 今度は僕が驚いた。僕の知っているロヒのことだろうか?

「ロヒ……」

「君の歳だと知らないだろうな。俺が子供の頃には姿を消したらしいから。昔、強力な魔力を持ち、剣技は敵う者なしの、赤い髪の冒険者がいたんだよ。何百年も生きているらしいとか、竜の化身だとか言われていたらしいが、今じゃ名前すら知らない奴が多いだろうな。伝説の冒険者さ」

 多分、僕の生みの親であるロヒのことなのだろう。竜の化身だと言われていたのか。なんだ、正体がばれているじゃないか。


 そんなことより、今は僕の登録の話だ。

「それで、僕は登録してもらえるのですか?」

「え? ああ、悪いがここじゃ登録できないんだ。ヴァルマー国の皇都かエテナ首都へ行って講習を受ける必要があるんだよ」

 おじさんに悪気があった訳ではないのだろうが、そういう大事なことは最初に言って欲かった。

 それから講習に関することを幾つか訊き、おじさんにお礼を言うと、建物を出て北の皇都を目指した。


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