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第九話 森の中の魔女

「こっちですぜ、兄貴」


 カブの村の外れにある森の中を、俺はダイコーン片手にトロールと共に歩いていた。


 図体がでかいおかげで、生い茂っている草木も簡単に道を譲ってくれる。


 だがそれ以上に、トロールは森の中を熟知しているようだった。


「兄貴、先ほどは本当にありがとうございやした」


 ツルツルの頭をどこか気恥ずかしそうにかきながら、トロールは言う。


「魔物であるはずの俺たちを助けるどころか、食い扶持までくれるなんて」


「勘違いするなよ。今まで無銭で食った分だけ……いや、それ以上に村のために働いてもらうんだからな」


「わかっていやすよ。俺達を見逃してくれた村の人々のためにも、精一杯力を尽くすつもりでやすから」


 むん、と片腕に力を込めると、ぼこっとちからこぶが現れる。生き物みたいに蠢いていて普通にキモい。


 これで殴られたらただじゃ済まないだろう。だが、逆に言えば力仕事ならばこいつは間違いなく役に立つはずだ。


 この辺りを開墾させて新たな畑を作らせるなんてことも不可能ではない。

 コブリンたちも数だけはたくさんいるので、村の防衛やらなにやらやらせればかなり役に立つはずだ。


 だが、その前にやっておかなければならないことがあった。


 そのためにトロールに案内させてこんなところまで来たのだ。


「そろそろ着きやすぜ。気をつけてくだせぇ」


 トロールのその言葉に、俺は手に持ったダイコーンを握りしめる。そのあまりの瑞々しさに、水分がじゅわっとダイコーンから溢れ出した。


 まぁ、うん。武器になることがわかったから持ってるけど、なんていうか、情けないなぁ……。


 トロール曰く、この森に最近魔女が住み始めたのだという。


 そして、その魔女こそが、トロールやゴブリン達をけしかけ、村の畑を襲わせた黒幕とのことだ。


「ここですよ兄貴。この樹の中に、魔女は住んでいるんでさぁ」


 トロールが立ち止まったのは、樹齢何千年もありそうなほど巨大な大樹の前だった。


 見上げても見上げても天辺が見えない。


 この森の中でも一位二位を争うほど大きいのは間違いなかった。確かに中に誰か住んでいると言われても納得の行く太さだ。


 風が吹いて、森がざわめいた。


 そして一瞬の静寂の後、その声は響いてきた。


「誰だ?ここはお前みたいな芋臭い農民が来るような場所ではないぞ?」


 声のした方を見上げると、大樹のちょうど中心に裂けたような穴がばっかりと開いており、とんがり帽子をかぶったいかにも魔女といった出で立ちの少女が俺を見下ろしていた。


 銀髪金目、腰まで伸びた髪の毛はクセがあるのかクルンクルンとあちこちで渦を巻いている。


 ヘソだしルックに短いスカートは実に寒々しい。


「お前がこの森に住む魔女か」


「だったらなんだというのだ?」


「ゴブリン達をけしかけて村の畑を荒らしているらしいな。おとなしくやめるならよし、やめないのであれば痛い目を見てもらう」


「痛い目だと?ぷぷ、ぶっはっはっはっは!その手に持ったダイコーンでか?」


 よもやダイコーンがトロールの腕さえ真っ二つにする剣に変形するなんて夢にも思っていないだろう。

 俺も思ってなかったよ。


「面白い。普通ならここから魔法でちょちょいのちょいだが、久々に笑わせてもらったから特別にサービスしてやろう」


 そう言うと、魔女はなんの迷いもなく樹から飛び降り――ようとしたが、さすがに高すぎたのかいそいそと木の表皮を伝ってゆっくりと降りて来た。格好悪。


 ようやく地面に降り立つと、魔女はどこからか取り出したごつい杖を俺に向け、何事もなかったかのようにびしっとポーズを決めた。


「さぁ、どこからでもかかってくるがいい!」


「気をつけてくだせぇ兄貴!馬鹿そうに見えますけど、奴は色々な魔法の使い手でさぁ!」


「トロールの分材であたしを馬鹿にするなこの馬鹿!ハゲ!イカレポンチ!」


 外見からしてすでに馬鹿そうだったが、トロールと張り合っている時点で中身も馬鹿であることはもはや疑いようがなかった。

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