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第三十七話 私は嫌われている

「でもまぁ、どうしてリュンがこの村にきてからあれだけ挙動不審だったのかは理解できた。まさかこんなに重い話だとは思わなかったけど」


 少なくとも朝の散歩がてらついでにされるような話ではない。

 朝の爽やかさなんてどこかへ消え去り、ずっしりと暗い感情が心にのしかかっていた。


「あまり驚かれないのですね」


「これでも十分驚いてる。でも所詮は他人事だからな。別に聞いたところでどうなるわけでもない」


 そんな俺を見て、ユーリカは穏やかに微笑んだ。


「ありがとうございます、マサヨシ様。あなたにお話ししてよかった」


「俺の言葉聞いてたか?他人事だって言ったんだぞ。どうしてお礼なんて言われなきゃならないんだよ」


「たとえ取り返しのつかない過去があろうがなかろうが関係ないと、私にはそう仰っているように聞こえたものですから」


「だとしたら聞き間違いだ。もしまたあいつが暴走するようなことがあれば、俺は約束もなんも全部すっぽかして一目散に逃げるからな」


「そのような日は来ないと私は信じていますけどね」


 意味ありげにじっと見つめられ、バツが悪くなった俺はユーリカから目を逸らした。


 だが,リュンの抱えている問題がわかったところでどうしたらいいものか。


 一般的に考えれば過去のトラウマと向き合わせるだとか、乗り越えさせるだとかすれば解決するような気はするが、今の話を聞く限り一歩間違えて村が消滅なんてことになったら目も当てられない。


 そんなリスクを負わせてまで過去と向き合わせるよりは、小さな自信を積み重ねさせて少しずつでも魔法を使えるようにさせていったほうがいいような気もするが……。


「そろそろ行きましょうか」


 思案にふけっていると、ユーリカがそう声をかけてきた。

 ここにきた時よりかは陽もだいぶ高くなり、そろそろ帰って学校へ行く支度をしなければならない。


「ちょっと待て」


 だが、俺はユーリカがそう言って歩き出そうとするのを声をかけて止めた。


「なんでしょうか?」


 首を傾げるユーリカ。

 この村にきてからずっと俺の中には疑問があった。


「どうして自分じゃなくて俺にそれをやらせる?」


「…………」


 俺はリュンと出会ってからまだ数日程度の浅い関係でしかない。確かに勇者という肩書はあるが、そんなもの今の俺にはあってないようなものだ。


 だとしたらどうしてそんな俺にこんなことを頼むのかがわからない。自信をつけさせるなんて、それこそ魔法使いとしては大先輩であるユーリカの方が適任のはずだ。


「別に今更嫌になったとかそういうことじゃない。でも、お前はあいつにとって唯一の肉親なんだろう?だったらお前が支えてやるべきなんじゃないのか?」


 俺の問いに、ユーリカは力のない笑みを浮かべた。


「私は、あの子に嫌われていますから」


「そんなことは……」


 ないと言おうとしたが、ユーリカの言葉に遮られてしまう。


「あの子が私に見せてくれるのは、大魔法使いユーリカへの羨望の眼差しだけ。あの子にとっての私はそういう存在で、これまでも、これからもそれは変わらない。私はリュンの母親には……リシアの代わりにはなれないんですよ」


 言い返そうとして、でも結局俺は何も言えなかった。

 その言葉を口にするユーリカの顔に、何の色も浮かんでいなかったからかもしれない。

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